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銀の月  作者: 紅花翁草


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29/30

行って来ます。 1

 今夜は来賓者達を招いての晩餐会が城で行われる。出席する私は、ティオと同じようなドレスに着替えて部屋で待っていた。

 晩餐会が終わると、月礼祭全ての行事が終わり、明日からはいつもの日常に戻る。

「もうすぐ、帰るんだね。」

 モカを撫でながら私は色々な事が浮かんでは消えていく。

「はい。次は、なおの世界です。」

「そっか、うん。そうだね。モカと一緒の日本の生活だ。」

 私は流れる日常だった日々に戻るのではなく、モカと新しい日常を体験することの楽しみに嬉しさを感じた。


 ティオとハミルさんに連れられて、私とモカは大きな広間に来ていた。晩餐会の会場には200人ほどの人達がすでに集まっている。

 純白で綺麗なドレスを着ているお母さんが、今から挨拶を始めるところだった。

 私はティオの隣でお母さんの言葉を聞きながら、でも意識はルミナ王妃としての母を、目に焼き付けていた。

 ルミナ王妃の挨拶は一年の感謝と、平穏を守る者達への変わらぬ願いで締められた。

 拍手の中、新たに発せられた言葉に私は耳を疑うほどの驚きが起こる。

「皆様、今夜は火の民から、新しく契約者になった方をご紹介します。」

 壇上奥の扉が開かれると、真っ赤なドレスの女性がルミナ王妃の隣まで歩いてくる。

 輝くピンクゴールドの髪に金色の瞳、火の民の象徴が全く無くなったその姿でも、なお達は、すぐに気が付いた。

 小さな熊のぬいぐるみみたいな精獣を連れたミリアだった。

 簡素な紹介で終わったティオの姿を見た来賓者達の態度は、和やかだった会場の空気を一変させていた。

 「契約者は国のバランスを揺るがす存在でもあり、その地位と権力は絶対主である。」とルミナ王妃から聞かされていた私は、今この時まで、忘れていたのを思い出していた。

「ミリアの為って思っていた事だったのに、本当にミリアの為に…」

 私の呟きにティオが答えてくれた。

「大丈夫よ。ミリアさんが決めた事。あの人はそれを承知で選んだ事だと、知っているから。だから、なおは今まで通り、ミリアの友人でいればいいのよ。」

 私の手を握るティオの熱が私に伝わってくる。

「わたしもミリアさんの旧友として変らないから。いえ、違うわね。出会った頃の仲に戻るの。」

 

「ティオからそんな言葉が聴けるなんてな。」

後ろから聞き覚えのある声がして、振り向くとセシアさんが威圧感のある体を綺麗なドレスで包み込んでいた。

「わたしも、セシアさんのドレス姿が見れるなんて思いもしませんでしたわ。」

 ティオの返事が、照れ隠しと皮肉が混じった返し言葉だと私にも判り、二人の顔は仲のいい友人に会った顔、そのままだった。


 招待客達を鎮めるように、ルミナ王妃はゆっくりと丁寧な言葉でミリアを紹介し始めた。

「火竜エンデュ様に認められ、光の精獣『フィール』様との契約で『炎竜姫』の称号を与えられたミリア・ホリッツさんです。」

 一歩前に出たミリアは、凛とした姿を見せていた。

「各民の代表が集まっているこの場で、ご紹介させていただき感謝します。本来ならば、公式な場でのお披露目とするところですが、先日の王都襲撃の際に沢山の方のお力添えで私は、契約者となることができました。その方達に何よりもご報告がしたくて、ルミナ様にお願いして、少しの時間を頂きました。」

 一礼をするミリアを会場の全ての人が静かに見つめている。

「この恩は授かった力でお返しします。ありがとうございました。」

 呆気に囚われる私は、会場の拍手の音で意識を戻した。そしてお祖母ちゃんが言っていた事を思い出す。

「ねえ、モカ。あの精獣の子って知り合い?」

「はいです。僕の事を見てくれてた友達だった子です。」

 その言葉は、少しの悲しみのようなものを感じていた。

「喧嘩したの?」

「違うです。黙って精霊界を出たから…」

 私はモカの頭を撫でる。

「そっか、じゃあ、あの子はまだ、モカの事を友達だと思っているんじゃないかな。」

 ミリアの傍から、こっちを見ている姿は、今すぐにでも飛んで行きたい。そんな雰囲気を私は感じていた。


 壇上に近づく一人の男性に会場の視線が移った。

「ルミナ王妃様、新たな契約者の紹介がありましたが、何故もう一人の契約者の素性は語らないのですか?」

 銀髪で細身、50代くらい。いかにも魔法使いって風貌のその人は、私を見ている。

 ティオが男性の視線の盾になるように私の前に出る。

 溜まっていた感情を浴びせるような視線が会場中から私に向けられているのを感じた。

「その子は契約者ではありません。精獣『モカ』様と共に生きることを選んだ少女です。」

 ルミナ王妃の声が会場に響く。

「ティオの大切な友人、そしてエリシア家の家族としての地位を授けました、月乃宮なおさんです。公の場での紹介は、必要ありません。」

 優しく、そして強固な意思を乗せた言葉だった。

 波が引くように会場の視線が私から消えていく。

「お母様の言葉を訳すとね、なおは王族と同位だから、それ以上の無礼はどうなるか判るわよね。って事。」

 ティオが小声で私に笑いながら伝えてくれた。

 内容はティオが教えてくれたけど、その前から、お母さんの言葉は温かく、すごく守ってくれているのが判って嬉しかった。

 私はティオの言葉で笑顔に戻ることができた。

 ルミナ王妃の合図で、吹奏楽の演奏が始まった。会場は宴へと移っていく。


 ミリアが壇上から降りると、真っ先に火の民達が囲んでいた。

 尊敬の目や感激の涙を流す人、ミリアはその人達に満面の笑みで応えていた。

「ミリアさんと話せるのはもう少し後になりそうね。」

 ティオが私の手を引く。

「セシアさんもご一緒にどうですか。」

「すまない、少し挨拶周りだけ済ませてくる。また後でな。」

 セシアさんと分かれた私達は会場端のテーブルに座った。メイドが飲み物とお菓子を運んできたので、いつものように選んでいく。

 お菓子コンクールで賞を取った品が、この晩餐会のお茶菓子として出されているとメイドが教えてくれた。

 来賓客達が会場に出向いて食するなんて事が殆どないので、晩餐会のひとつの趣向になっているとティオが付け足す。


「ティオは今から挨拶周り、しなくていいの?」

 紅茶だけ頼んだティオだったので、今から予定があるのかと思った。

「寄って来ないように、なおと一緒にいるのよ。流石に皇女として呼ばれるかも知れないけどね。」

 小声で話すティオは茶化すような笑顔だった。

「あと、あまりお菓子食べないようにね。この後にちゃんとした食事があるんだから。」

 私はテーブルの上に並べたれた6種ほどのケーキ達を確認した。

「そういうのは、頼む前に言ってよ。もう・・・ティオもどれか食べてよ。」

「じゃあ、一つ頂くわね。あと、一つはミリアさんが食べてくれるかもよ。」

 そう言ったティオの言葉で、私はすぐ後ろまで歩いて来ているミリアに気付いた。


 私はテーブルに座っていたモカを抱き寄せて、立ち上がる。

「ミリア、おめでとう。ほんとに良かった。いきなりでビックリもしたけど、会えて嬉しい。」

「さっきも言ったけど、今の私があるのは、なお達のお蔭だから、嬉しいのは私もよ。」

 見た目以上に輝いた笑顔のミリアを見た私は、改めて安堵の気持ちが溢れてくる。

「あとね、」

 私はテーブルのケーキ達をミリアに見せる。

「頼みすぎたから、1個食べてくれるともっと嬉しいんだけど。」

 場違いな笑い声を抑えるのに必死になってるティオとミリアだった。


 席に着いたミリアは、メイドから紅茶を受け取る。

「フィールも一緒に飲む?」

 小さな熊のぬいぐるみみたいな精獣は、ミリアの肩の上あたりを浮遊している。

「いえ、必要ないと何度も言っていますよね。」

 どこか大人めいたフィールに私はモカと、いつも通りの食事を見せた。

「フィールちゃんはモカに会いに来てくれたのよね。モカと一緒にケーキ食べてみない?美味しいよ。」

 モカは少し緊張した声で私の言葉に続いた。

「名前、モカになったです。フィールとケーキ一緒に食べたいです。」

 モカの精一杯の謝罪だと私は思った。

 フィールの困ったような、嬉しさを隠しているような、ソワソワしている感じが私に伝わってくる。

 私はミリアとの間にモカが来るように席をずらし、フィールと並んでテーブルに座れるようにした。

 照れているのか、黙って待っているモカの隣に、フィールが来る。

「人間と同じように食事するなんて、聞いた事ないですわ。でも、モカの頼みですから、受け入れますわ。」

 言葉とは違った、嬉しそうな態度のフィールを見た私達3人は、お互いに微笑ましさを感じていた。

 上手にフォークを使ってケーキを食べるフィールは、和やかな笑顔を見せている。

「美味しいですわ。これが食事というものだったのですね。」

 食べやすいように小さく切ったケーキを、モカに食べさせている私はフィールの視線に気づく。

「そうだ、自己紹介がまだだったね。」

 手を止めて、フィールに挨拶をする。

「モカの友達になって、不本意だけど、仮の契約者になってしまった、月乃宮なおです。ミリアとも友人なの。よろしくね。」

 フィールの確かめるような視線の間があった。

「よろしくですわ。」

 フィールは隣のモカに視線を移す。

「モカ、今は楽しいですか? 聞かなくても見れば判りますわね。」

「あなたが契約者で私は安心しました。モカの事、お願いします。」

 私は、なぜか深くお辞儀をして「はい。」と返事をした。

 もちろん、ティオとミリアの含み笑いが、起きていた事をすぐに知った。


 セシアさんとリッサさんが私達の席に来る。

「ミリア、久しいな。元気すぎる姿で安心したよ。」

 セシアさんの言葉は、いつも温かい感情で溢れていた。

 ミリアは席を立ち、セシアとリッサに頭を下げる。

「セシアありがと、またみんなと揃う日が来るなんて、ほんと嬉しい。」


 集まった友人達を見回すミリア。

「色々話したい事が沢山あるの。ここだと話せない事ばかりなので、あとでまた会えないかな?」

 ミリアの誘いにティオがすぐに答える。

「それじゃ、部屋を準備しますね。」


 晩餐の部屋は別のところにあって、私達はそれぞれの席に座ってルミナ王妃の乾杯の挨拶を聴いていた。

 私は壇上のルミナ王妃と同じ長いテーブルの席に座っていた。それは、王族としての地位を示す場所なのは考えるまでも無かった。

 目の前には、丸いテーブルが沢山並んでいて、大きな結婚式の会場みたいだった。

 会場は静粛な雰囲気の中、私は出されるコース料理を静かに口に運んでいた。


 モカはティオが準備してくれた別室でお留守番になっていた。ミリアも晩餐に出席だから、フィールちゃんと一緒に居る。

(ふたりでどんな話してるのかな~。モカ達にも食べさせたかったな。)

  静かに晩餐の時間が過ぎていった。


 

 フィールはモカに少し強い口調で話していた。

「仮契約ってどういう事ですの。アンリエール様はそんな事言ってなかったですわ。」

「だって、僕はまだ子供だって…」

「それは、人間の思い違いですわ。モカは十分すぎるほどの力を持っているのよ。そうじゃなければ精霊界から出ることなんて出来ないんだから。」

 フィールは考えてみた。

 どうして、契約の魔法が発動しなかったのか。仮契約っていう曖昧な状態を維持しているのか。

(なおさんのほうに、何かあるのは確かってことなのでしょうね。)

 モカは小さく呟いてるフィールをじっと、待っている。

「まあ、それは今は置いときますわ。さっき言った、異世界に行くって本当なのです?」

 モカは「うん」と頷く。

「でも、またこっちに来るってなおは言ってたです。こっちで暮らしたいって言ってたです。」

 フィールは落ち着きを取り戻してモカの頭を撫でた。

「そうね。モカが幸せなのは確かですわ。私は心配だったのよ。でも、その心配は大丈夫だと判りましたわ。」

 ソファのモカの横に並んで座るフィールは寄り添うようにもたれた。

「はいです。なおは僕を見てくれてます。凄く楽しいです。」

「安心しましたわ。」

 精霊界に居た時と同じように、寄り添って寝ていくモカをフィールはいつものように支えていた。


 晩餐が終わり、私は、ティオ達と一緒に、モカが待っている部屋に向かった。

「おまたせ~。」

 すこし広いリビングのような部屋のソファに寝ているモカとその隣で座っているフィールが見えた。

「モカ、また寝てるし。」

 私は、そっと抱き寄せ、空いたソファに座った。ティオが隣に座り、向かいのソファにリッサさんとミリアが座る。

 フィールちゃんは戻るようにミリアさんの肩上にふわふわと浮かんでいる。

 セシアさんは、隣にあった二人掛けのソファを動かして、コの字になる位置に置くと慣れたしぐさでゆったりと寝るように席に腰掛ける。

 私達はミリアの言葉を待っていた。

「何から話そうかな。そうね、フィールが私を選んでくれた事から。」

 契約のやり取りを話してくれたミリアは、改めて私との出会いに感謝していた。

「いや、もし、出会ってなくても、ミリアはフィールちゃんの願いを叶えるために世界中を飛び回ってるよ。感謝するなら、モカが家出してきたことかな。」

 私は寝ているモカの頭を撫でる。

「私だって、モカと出会ってなければ、ここに居ることも、みんなと知り合いになる事も無かったんだから。たぶん、おじさんの家でのんびり過ごしてお祖母ちゃんの迎えで帰っていくはずだったんじゃないかな。」

 ミリアは寝ているモカに頬笑みを見せている。

「そうね。モカのおかげね。」

 

 次にミリアは、お祖母ちゃんと『火竜エンデュ』の話しを始めた。

 私とティオは少しだけ事情を知っていたけど、リッサさんとセシアさんは驚きと感嘆の声を上げていた。

「なあ、なおさんって強いのか?」

 突然のセシアさんの発言だった。

 私とティオは困惑の表情を浮かべる。

「いやほら、なおさんをシェラ様が育ててるってのは話から理解したし、モカ様と仮とはいえ、契約してるんだろ、それに。」

 じっと見るセシアさんの眼差しが強く感じた。

「武術習っているよね。姿勢とか動きとかが素人じゃないから。」

 セシアの発言に、リッサさんが同調する。

「それは、私も感じていました。騎士とは違うけど、同じような訓練をしていたのかと。」

「なんだぁ。その事か~。えっと、」

 私は私のこれまでの人生を、話す事にした。

 日本という別の世界で両親は事故で無くなってお祖母ちゃんが育ててくれていた事。

 その生活の中で、薙刀と合気道っていう日本の武術を習っている事。

 モカと出会い、この城に来た事。

 そして、明日には、日本に帰り、またこっちに来る事。

 出来る限り言える事を話した。

 この場に居るみんなに、私の事を少しでも知って貰いたい想いがあった。

「よし、なおさんの事は判った。じゃ今度、手合わせ願おうか。」

「それ、セシアが戦いたいだけじゃない。」

 ほぼ同時にティオとミリアとリッサさんが同じような言葉を発していた。

 私はセシアさんの言葉がいつもの温かい感じだったので、素直に「はい。」と返事をした。


「ミリアはこれからどうするの?」

 私は今度っていう先の話になって、気になっていることを尋ねる。

「私は、『バレン』で正式な、お披露目してから、まずは、光の魔法と火の魔法の修行かな。フィールから貰った力を十分に使いこなすようなったら、その後は、遠征隊で行く外界を巡ろうかと。」

「そうですか。」

 リッサさんの声は心配そうに聞こえた。

「大丈夫。修行をしてからだし、お兄さんも一緒に行くから。」

「ミリアの兄様も一緒なら、心配ないな。妹を危ない目に合わせるなんて事は絶対にしないからな。」

「そうね。セシアの旦那様も同じ事するだろうし、大丈夫ですね。」

 リッサさんの返し言葉で、3人は笑い声を上げていた。

「結婚しているのですか。」

 私はセシアさんに驚きを抑えつつ尋ねると、幼馴染の人との馴れ初めとかを色々話してくれた。

 聖典祭の時にセシルさんと一緒にいた人達の中にいて、同じ隊で活動している事とか、ミリア達の茶化す言葉を交えながら。

 そこから当然、話はティオの護衛をしているハミルさんに移る。

 私達は、時間を忘れて、色々な話題を重ねていった。


 晩餐会の来客者達も帰り、後片付けも終わって、残っているのは私達を待っている人達だけになっていた。

 扉が開く音が聞こえると、ルミナ王妃と風の巫女のマイさんが入ってきた。

「積もる話もあると思いますが、そろそろ終りにしましょうか。」

 お母さんの締めの言葉で私達は席を立ち、再会の約束をする。

 廊下に出ると、セシアさんを待っている男性が旦那さんだとすぐに判った。

 ミリアを待っていたのはもちろんミリアの兄のロイだった。

 私はティオとお母さんと一緒に、ミリア達を見送った。

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