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銀の月  作者: 紅花翁草


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月礼祭 2

 聖典祭の会場になっている大きな建物は真っ白い宮殿だった。城が作られる前の王宮で『月の王宮』とも呼ばれていた。

(ねぇリナ、ここってリナが住んでいた所?)

 私はリナを呼びだして、聞いた。

[そうよ。懐かしいわね。]

 宮殿に入ると2階に続く大きな階段が見え、その壁には2枚の肖像画が並んでいた。

「あれって、誰の絵なの?」

 ティオに尋ねる。

「この宮殿を建てたルシア様とリミナス様よ。もっと近くで見てみる?」

[誰が描いたのよ。そんなの見なくてもいいわよ。]

 リナが横で慌てているのを横目で見ながら、私はティオと一緒に階段をあがった。

 2枚並んだ肖像画は 、二人とも40代くらいの大人の女性だった。

「こっちがルシア様。でこっちがリミナス様よ。」

「私の知ってるのは、カードのやつだけだから、20代くらいだったけど、そうよね、歳をとるんだよね。

二人は何歳まで生きてたの?」

「ルシア様は70歳くらいだったかな。リミナス様は、消息不明で判らないのよね。」

 私は時間の流れがちゃんとあるんだと、今更ながら、肖像画を見つめ感じていた。

(リナはなんで私と同じ歳くらいなの?)

[それは、なおの中に入ったときに同調したからよ。0歳から同じように歳が過ぎていくの。]

(じゃあ、同い年なのね。そっか~リナの大人ってこんな感じなのか~)

[ほんと誰よ。こんなの描いたのは。]

 私はすこし笑っていた。

「なお? どうしたの笑ったりして。」

「ううん、なんでもない。リナが肖像画に文句いってるだけ。」

「あっ、なるほどね。なおとリナ様って会話できるのよね。私も色々話をしてみたいわ。」

 「また今度、入れ替わって話をしましょう」ってリナの伝言を伝えた。

「それじゃ、聖典祭は奥の大聖堂でするの。で、私は着替えをするから別室に行って準備するわね。」

 階段を降り、待っていたハミルさんと私達は宮殿の奥に進んでいった。


 別室で着替えたティオを見送って、私は寝ているモカを抱いて、リナの道案内で来賓者専用の観覧室に向かった。

 部屋に入ると大勢の向けられた視線が痛かった。

(精獣を抱いた黒髪の少女っていう存在はやっぱり、そういう目で見られるのね。)

[仕方ないことね。]

「なおさん~、なお~。」

 聞き覚えのある声が遠慮ぎみに私の耳に届いた。

「エリオナちゃん。」

 私は、数人の青い髪の巫女達の中にいる小さな少女に笑顔を返した。

 私は近づく緑の髪の巫女と女性が、お母さんと話していた風の巫女と騎士だと気付いて、頭を下げる挨拶をした。

「貴女がなおさんですね。ルミナ様とこのリッサから話は窺っています。よろしくね。」

 優しい笑顔と、気取らない言葉で、私の事を気遣っていたのを少し後で私は気付く。

「リッサさん、ミリアが、」

 私が言葉を続ける前にリッサも同じように笑顔になり、

「ええ、本当に良かったです。」

 

「ミリアがどうしったって?」

 リッサさんの背後から、リッサさんと同じくらいの背をした女性が現れた。

 栗色の髪と褐色の肌、豊満っていう言葉が似合うモデルのような人だった。

「なおさん、紹介しますね。ロレン様の所で一緒に稽古していた友人でセシア。」

 私はセシアさんと挨拶を交わして、ミリアの話をした。

「そんな事があったのか、私は光の塔や北都の魔物退治でこっちの事は詳しく知らなかったからな。そうか、契約者になったのかミリアは。祝うべきだな。あとのことはその時だ。なあ、リッサ。」

 リッサさんは頷いていた。


 最初感じていた、人の視線が無くなっているのに私は気が付いた。

(リナ、いやな視線が消えてる。)

[そうね。水の姫巫女に、風の巫女と姫騎士。そんな人物と知り合いってなれば、当然ね。たぶんだけど、マイさんはそのことに気付いて、声を掛けてくれたのかも。]


「そろそろ時間ですし、席に着きましょうか。」

 マイさんが、話が一息付いたのを見て、仕切ってくれた。

 私は勧められるまま、席に着いた。

 右にエリオナとその護衛の巫女達、左にリッサにマイさん、後ろにセシアさん達が座っていた。

「エリオナちゃん、また会えて嬉しい。ほんとにありがとう。」

「ううん。私もみんな無事で嬉しいです。…モカ様は、寝てるのですか?」

 私はずっと腕の中で寝ているモカを突いて起こす。

「そうよ。さっきティオ達とケーキを一杯食べてからずっと寝てたんだよ。でも流石にこの式典は見せてあげたいし、エリオナちゃんとも話しして欲しいしね。」

 むくむくと動き、伸びをするモカ。キョロキョロと周りを見て最後に頭をあげて私を見る。

「ここどこ?」

 私はくすぐるようにモカの頭や体を触る。

「聖典祭の会場。どんなことするのか楽しみね。」

 目を覚ましたモカはフワッと浮き上がり、下に見える大聖堂を見渡していた。

「はいです。」

  私とモカは、始まった式典にずっと感嘆と感動を繰り返し、リナに、エリオナちゃんやリッサさん達と色々と話をした。


 マールさんの祝杖式と光の巫女の戴冠式は無事に終わり、みんなと別れた私は、リナに連れられて大聖堂の奥にある、誰も居ない静かな小さな庭園にきていた。

(ここでいいの?)

 モカはふわふわと浮かんで辺りを見ていた。

[ルシアがこの下で眠っているの]

リナは手を胸で重ね、綺麗な模様が彫られた石柱に祈りを捧げている。

 私も習うように同じ動作でルシアさんの冥福を願い、祈りを捧げる。


 戴冠式の参列者や役者達が宮殿の2階にある大広間に集まっている。すでに談話が始まっていたその場所で、私はティオ達の姿を探していた。

 数人の男性に囲まれたティオを見つける。ハミルさんは少し離れた場所から見守っている感じだった。

 お母さんのルミナ王妃のところには戴冠式で見た光の巫女さん達と話をしていた。

(ティオはお見合い中って感じかな。)

 私はモカを抱いて人が少ないテラス近くの壁際の椅子に座る。

 エリオナちゃんは護衛の巫女さん達に守られる感じで大人達と会話していた。

 マールさんは嬉しそうに知人らしい人達と話をしている。


 場違いだと判っていた私は、映画を見ているような傍観者になっていた。

(う~ん。こういう場の立ち回りって判らない~。リナどうすればいいの?)

[そうね。もう少ししたら談話も落ち着いてくるから、それまではここで見てるのがいいかな。]

 リナの言葉通り、挨拶周りの談話から知人達と話すようになっていく広間の人達。ティオも少し疲れた様子で私の所に歩いてきた。

「おつかれさま。何か大変そうだったね。」

「まあね、こんな機会じゃないと、私と会話出来ない人達が多いからね。」

「とくに男性は、でしょ。」

 私の言葉の意味を理解したティオはウンザリした顔で

「ほんと疲れたわ。」

 私とティオは小さく笑い合った。

 リッサさんとエリオナちゃん、そしてセシアさんが私達の所に集まってきた。

「今日は色々とありがとうございました。」

 私は聖典祭の気遣いに改めて3人にお礼を伝えた。

「ティオ、こうして揃うのは、ほんと久しぶりですね。」

 リッサさんが嬉しそうにティオを見ている。

「ほんとだよな。」

 セシアさんが笑っていた。

「来年の月礼祭はミリアも入れてみんなで出店回りすることになるなんてな。おじ様に連れられて着た時以来になるのか。あ、話はリッサから聞いたから、勿論私も参加するぞ。」

「セシアさんは変わってないですね。」

 ティオの言葉にリッサさんが笑いながら頷いていた。

 

 月礼祭の一日目はあっというまに過ぎていった。


 月礼祭二日目は武術剣技大会が朝から夕刻までするので、私は前日に約束したエリオナちゃんと合流して色々な所をティオ達と見て回った。


  そして最後の日、私はファルト親善試合の会場に来ていた。

 競技場は沢山の見物客で賑わっていた。

 私は、ティオと水の『リエムリム』代表のマリエルさんが対峙しているフィールドを、モカとエリオナちゃんと観戦している。

 部屋になってる来賓席は私達だけだった。

「やっぱり水単色のデッキってことになるのよね。」

 私は隣に居るエリオナちゃんとファルドカードの話を始める。

「はい。代表戦ですし、勝敗よりも召還獣とかを見せ合うって感じなので。」

「エリオナちゃんのデッキは違うの?」

「私のは、少し月が入っています。持って来てますよ。」

「対戦楽しみ。」

「もちろん、わたしもです。」

 笑顔をこぼす少女の顔はとても可愛かった。

「そろそろ始まるみたいです。」

エリオナちゃんの言葉で私はティオに視線を戻す。


 競技場は物凄く広く、サッカースタジアムがそのまま2つくらいは入るほどだった。

 人物を確認出来ないほどの広さの両端に建てられている高台に、二人の召還者が立っている。

 競技場の真ん中にある来賓席の、さらに上にある王族専用の観覧席から開始の合図が鳴り響く。


 高台の前に基盤カードが召還されると、どよめきと歓声が混じり合う声が会場を包み込んでいった。

 大きさが数十メートルほどに小さくではあったが、『リミナスの天空城』が浮かんでいた。

 対する水の基盤カードは青白く光る水晶で出来た城で、競技場の地面を水に変えていた。


「すごい。基盤効果で場まで変えてしまうのね。あれは・・・『エストラの水晶宮』かな。」

「はい。そうです。基盤効果は半面ほどの効果なのですが、今、ティオねぇさまが出している城が、空に効果があるようなので、地面全てに効果が広がったみたいです。」

 

 突如、鳴り響く鐘の音が、観客の歓声を落ち着かせる。

 二人の召還者は駒を次々と召還していく。その中には実物より少し小さい『銀竜ナセラ』の姿もあった。

「なお、あのカード達ってこの前の召還戦のですよね。」

「そうよ。秘蔵のカードってティオが言ってたよ。」

 私は、昨日の夜に家族と話合った親善試合の、段取り通りの決め事をエリオナちゃんに伝えた。

「やっぱり、召還師の方は王族の方なのですね。」

 ティオは競技場の高台で観客の反応を感じる中、手札のカードを見ながら戦略を考えていた。


 時は少し戻り、昨晩の事だった。

 ルミナ王妃の部屋に家族が集まっている。

「明日のファルト戦で、『リミナスの天空城』を使ってください。」

 お母さんはティオにそういって、並べられた私のカードから『リミナスの天空城』を渡した。

 都市を救った召還師は王族関係であること事と、表舞台にはこれからも出ないって事の両方を伝えるための手段だと私とティオは聞かされた。

「判りました、お母様。それじゃ今から『リミナスの天空城』に合ったカードを組みます。」

 並べられたカードから次々と選び取っていくティオは気難しい顔をしていた。

「お祖母様、このカード達ってお祖母様が集めたのですか?」

「まあ、大体がそうだね。リミナス様のカードが作れたから、それに合う相性の良いカードを探したりしたね。城に保管してあるカードも入っているよ。」

 お祖母ちゃんは、嬉し懐かしの記憶を辿るような笑みで話してくれた。

 ティオがもっとその時の話を聞きたそうにしていたのを、お祖母ちゃんは「また今度、封印師を教える時にしてあげるよ。」と言って話を終わらせた。


「明日のファルト戦でカードを見せ合う事は無いけど、やっぱり闇が付いているカードは使わない方がいいよね。天空城は仕方ないけど。」

 私はその訳をなんとなく察してみたけど、ティオに尋ねた。

「闇単色って魔族の事になるし、闇が混じっているとね・・・でも、なんで闇が混じっているのか解らないのよ。これまでも闇が混じったカードが沢山出てるし、非公式で色々検証してるみたいだけど、

特に問題はないし、使っても良いはずなんだけど…暗黙のルールって感じで…」

 ティオは『銀影の騎姫リミナス』のカードを見ながら私に気を使っているのが判った。

「まあ、そんな感じなのかなって思っていたから気にしないで。じゃあ駒カードは飛行の月単色のカードで揃えて、って事ね。」

 ティオは頷いて、足りないカードはティオの持っているカードと、そして王族が所持しているカードから選ぶことにした。


「あ。エリオナちゃんとカード対戦の約束してる。」

 カードを選び中のティオの手が止まる。

「そうね。なおもカードを一から組まないと。」


 カード選びに夢中になっている二人を、ルミナとシェラは、時間を気にせず、見ていた。



 対峙するのは水のファルト。魔法を打ち消したり、反射したりするのが得意な属性。

 ティオは競技場に現れた『エストラの水晶宮』と水に浮かぶ人魚『歌姫ライラ』や、浮遊している『水神の守護兵』、そして『水竜アンリノエ』を見つめた。

「これ、水の中にもやっぱりいるよね。」

 

 『水竜アンリノエ』と『銀竜ナセラ』の迫力ある対戦から始まったファルト戦は水中からの援護とティオの魔法を打ち消したマリエルさんが『銀竜ナセラ』を退け、優位に立っていた。

 勢いを保ちながらティオのカードを撃破していく中盤戦、『月姫ルシア』を召還したティオが反撃に出る。

 『月姫ルシア』に『賢者トラン』、『騎士グリオス』、『月の巫女セテア』の効果を重ね、『月姫ルシア』の効果、(自身が戦闘で勝利すると、もう一度行動することができる。)でマリエルさんの駒を全て撃破した。

 そのまま、勝利すると思われた戦況をマリエルさんの秘策が投じられた。

 『海王ロザリー』、竜と同じほどの大きなクラゲが水中から現れ『月姫ルシア』を拘束する。

 

 普通のカード対戦だったら、盤上を見れば判る事も、このファルト戦では本当の召還戦のような

戦略があった。

 会場は、息を呑む静けさで二人の戦いを観戦していた。

 私もその一人の観客になっていた。

「ほんと、こっちのファルトってすごいね。ううん、この会場でするファルト戦が凄いのよね。」

 私の頭の上にいるモカも「はいです。」と答える。

 隣のエリオナちゃんがそんな私達をみて嬉しそうに頷いていた。

「なおが異世界で生活してるなんて昨日聞いたときは、ほんとビックリしました。明日には戻ってしまうのですよね。」

 寂しそうな声になったエリオナに

「またすぐに来るから、『リエムリム』の祭りも絶対に行くからね。」

「はい。」

 

 ティオとマリエルさんのファルト戦は優劣を決めれないほど均衡した戦いが続いていたが、最後はマリエルさんの反射魔法でティオの攻撃を返し勝利した。


「ティオ、だめだったか~。でも本当に僅差だったね。おめでとう。」

「ありがとうございます。ティオねぇさまも自分のカードを使っていたら、違った結果になっていたと思います。」

「やっぱり、エリオナちゃんにはそう見えたのね。」

「はい。」

 ティオの事を本当によく知っている妹の笑顔はとても可愛かった。


 客席から大きな歓声と拍手が二人の召還者に送られ、親善試合は無事に閉幕した。

 私とエリオナちゃんは用意してあったファルト石盤で早速、対戦を始めていた。

 観客が競技場から退去する雑音は、来賓席の部屋では気にならないほどで、二人の意識も盤上の戦略に集中していた。


 途中、ティオとマリエルさんが部屋に来て、私たちの対戦を楽しく雑談しながら眺めている。

 カード運に恵まれ勝利した私を、観戦していたティオが茶化すように褒め、エリオナちゃんの戦術を嬉しそうに褒めていた。

 ファルト談議で楽しい時間があっという間に過ぎていき、私は、エリオナちゃん達と別れてティオと一緒に城に戻った。

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