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銀の月  作者: 紅花翁草


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炎竜姫 2

 岩場には、数人の人影が見える。

 ミリアの父ビランと、神官長ノゼの、数名の巫女と神官達だった。

 岩場に下りたエンデュにビランとノゼが駆け寄る。

 シェラは周りを気にすることも無く、エンデュから降りると、その場で待っている。

「エンデュ様、何事でしたか?」

 ビランが銀髪の婆さんに視線を向ける。

「友人のシェラとすこし戯れていただけじゃ。今度はお前達の建物を壊さないようにしたからな。問題なしだろ。」

 周囲にどよめきが起こる。シェラという人物の伝記はあまりいい話ではなく、どちらかというと暴君としての認知の方が大きかったからだ。

「シェラとの話がまだ終わってないから、お前達は下がって待っていろ。」

  エンデュの言葉で岩場から火山の外に出たビラン達は、目の前に下りた竜に視線を奪われた。

 

 ミリアとロイは竜から降りると、火山の岩穴から出てきた父にゆっくりと歩み進む。

「お父様、私は契約者としての示しをエンデュ様に見定めていただきます。」

「身分もわきまえずに、なにを言っているのだ。」

「判っています。ですが、シェラ様が相談役として口添えを、していただいているので、今から行って来ます。」

 父親に深く頭を下げたミリアはしっかりと火山を見つめ一歩、歩き出す。

 ビランはまっすぐに進むミリアの姿をただ見つめていた。


「父さん、俺のためにミリアが辛い事になったら、その時は。」

「ああ、判った。娘には普通の幸せを選んで欲しかったんだがな。わしの娘だよ。あれは、」

 少し苦笑いを見せたビランはロイの肩を叩き、背中を押した。

「頼むぞ。」

「はい。」

 ロイはミリアの後を追って岩穴に入っていった。


「ちゃんと来たね。」

 火口の岩場に着いたミリアとロイを、シェラが迎えるようにエンデュの首元に立っていた。

 ミリアはシェラに頭を下げ、エンデュ様をしっかりと見つめた。

「エンデュ様、私の勝手な願いなのは重々存じて居ますが、お願いします。精獣との契約を取り計らってくださいませんか。」


 エンデュはゆっくりと首を上げ、ミリアと、その横にいるロイを見つめた。

「まさか炎華石をそんなふうに使うとはな。シェラの血筋だけのことはある。」

「褒め言葉、ありがとうよ。」

 エンデュとシェラは互いに笑みを浮かべる。

 シェラがミリア達の側に歩いていく。

「段取りは済んだよ。あとは、頑張りなさい。」

 そのまま、すれ違い、距離を少しあけて、シェラはエンデュに頭を下げた。

「少し待っていろ。精霊王が今、お前の姿を精獣達に見せている。 お前の資質を認める子が居れば、ここに現れるだろうよ。」

 ミリアとロイはエンデュに儀礼で感謝を返し、静かに立っていた。


 巨木のあちこちで青く光っている物が沢山見える。

 精霊界の世界樹には精霊王アンリエールと従えた精霊族、育み守られている小さな精獣達が住んでいる。


「これが、アンリ様の言っていた、人間か。」

 青く光る中にはミリアの姿が映っていた。

「魔力は平凡、普通だね。」

 数匹の精獣が、数百ある中の一つの青い光る玉を見ている。

「精神の方はエンデュ様の口添えだし、火属なのは、当たり前だな。」

「悪くはない波長と強さがあるよ。こっちはまだまだ伸びそうだね。」

 それぞれにミリアを品評する会話が交わされるけど、認める者は居なかった。


「わたくしが選んでみようかしら。」

 小熊のぬいぐるみのような見た目。全身は淡い黄色で耳の先と首周りとしっぽの先が薄い桃色の精獣だった。

 居合わせた仲間達からどよめきが起きる。

「なんで? どうして? 属性も違うのに?」

 口々に疑問を投げる。

「あの子が、人間界に行って契約したってアンリ様に聞いたの。だから、探しに行きたいの。」

「探して、どうするの? それは意味あるの? 逃げたんだろ?」

「一緒に居たい。ただそれだけよ。」

 青い猫のような精獣が突き刺すような目で、

「それが迷惑だったんじゃないのか?」

「あの子は、言ったの! この世界は寂しいって。一緒に居てくれてありがとう。って、」

「そうよ!」

 黄色の精獣は 上を向き、世界樹の頂上にいる精霊王に思いを伝えた。

「アンリ様、あの者との契約を考えてみてもよろしいでしょうか。」

 父親の包み込むような声が返ってくる。

「行っておいで。その目で見て、選びなさい。」


 黄色の精獣はゆっくりと目の前に映し出されている光の玉の中に入った。



 ミリアは、長い時間を待っていた。実際には5分くらいだったのだが、長く感じるのは必然だった。

 エンデュとミリアの丁度中間くらいの空間に光の玉が現れて、その中から小さな何かが出てきた。

「あなたの願いは何?」

 熊のぬいぐるみのような精獣を目の前にしたミリアは真摯に答える。

「私は兄をゴーレムとして使役しているのですが、魔力が少なくて、騎士としての力を出すことが出来なくなりました。もちろん兄もです。私達兄弟が騎士としての力を出せるようになるのが願いです。」

 精獣はロイを見定めるようにじっと見ている。

「判りましたわ。それでは、わたくしから一つ条件を出しますわね。」

 ミリアは「はい。」と頷く。

「真っ白い精獣を探してるの。人と契約したと聞いていますが、その人と話がしたいの。」

 ミリアは勿論、ロイもシェラも精獣の言葉に戸惑いを見せていた。

「その精獣って丸い鳥のような姿をしてますか?」

 ミリアは確かめるように、ゆっくりとした口調で尋ねた。

「そうよ! たぶんそれですわ。」

 精獣は嬉しそうだった。

「それなら、すぐにでも会えると思いますが。」

 ミリアは精獣の条件が思いもよらない事だったのと、それがモカのことかもしれない。って話の流れに、ついて行くだけでいっぱいいっぱいだった。


 シェラが近寄ってきて訊ねる。

「その人間に会ってどうするつもりだい?」

 精獣は目を丸くしてすこし考えていた。

「判らないわ。あの子が幸せに暮らしてるなら、なにもしない。」

「そうかい。」

 シェラはその場から、離れるように元の場所にもどった。


 ずっと見ていた火竜エンデュが精獣に聞く。

「契約を行う条件は揃っているようだが、決まったか?」

「ええ、もちろんですわ、エンデュ様。この人と契約します、その為に来たのですから。」

 ミリアは、いざ契約者になる重みを感じながらも、嬉しさを表していた。

「名前を決めて頂けますか。」

 精獣がミリアの正面に浮き立つ。

「私の名前はミリア・ホリッツ」

 ミリアは名乗った後、頭に浮かんだ言葉を言ってみた。

「フィール」

 精獣から淡い光が溢れ、球体の魔方陣がミリアと精獣を包み込む。

「ミリア・ホリッツを認め、契約を誓います。」

 ミリアはフィールの頭に手を置く。

「私の魂をフィールに捧げます。」


 魔方陣が呼応するように輝きを増し、弾ける様に消えた。


 ミリアは体の重みが消え、魔力が充実している感覚で契約が結ばれたと実感した。

「フィール、改めて、ありがとう。これからよろしくね。」

 ミリアは兄のロイに視線を向ける。兄は溢れるほどの力を確かめているようだった。

「うん、体が軽い。それに力が戻っている。」

 ロイはミリアとフィールに感謝の言葉を掛けようとしたとき、ミリアの異変に気がついた。

「ミリア、目が金色になっているよ。それに、髪の色もすこし光っているのか?」

 ミリアは自分では確かめる事が出来ないもどかしさを見せていた。

「まあ、当然の変化ですわ。わたくしの魔力と癒合したのですから。」

 フィールは自慢するように答える。

「わたくしは光の精獣、火の輝きよりも、もっと上の存在ですわ。」

 ミリアは誇らしげに語るフィールを見る。


 シェラがミリアに声をかける。

「その魔力に合った魔法を覚えなさい。火の上位魔法はもちろん、光の魔法も詠唱なしで使えるようになるだろうよ。」

 ミリアは想像以上の出来事に、頷くことしか出来なった。


 火竜エンデュの声がその場にいる者達に響く。

「精霊王アンリエールからの言葉を伝えよう。」

 皆がエンデュの顔を見る。

「試練を乗り越える絆で人の世界の光となって道を示すことを願おう。」


 ミリア達は胸に刻み込むように、静かに誓っていた。

 その後、エンデュ様に言われるまま、ミリアはロイと共に神殿に向かった。


 エンデュは再び二人だけになったシェラと話を始める。

「白の王…始まるのだな。」

「ああ、宿命なのだろうね。だけど、大丈夫だよ。孫は優しくて強い子に育ったからね。」

「そうか。いずれ、会うことになるだろうが、楽しみにしているぞ。」

 エンデュは笑みを浮かべる。

「さて、約束だ。持っていけ。」

 シェラは出された前足の爪を一つ切り落とし、風呂敷に包む。

「ありがとよ。孫達が世話になると思うけど、その時はよろしく願うよ。」

「約束しよう。」

 シェラは火口から飛び立ち、一度エンデュを見ると真っ直ぐにオルトリアスに向かった。


 神殿の奥にある広く開けた広間の入り口にミリア達は、父親で総隊長のビランと神官長のノゼと共に、エンデュが来るのを待っている。

 ミリアは契約者となった事で竜騎士として続けても良いかと、父親と話をしていた。

 エンデュ様の訪来が見えたので、話を止めたミリア達は広場の台座に降り立ったエンデュ様に一礼をしてから、膝を着き深々と頭を下げる。

「この場に集まってもらったのは、契約者になったミリア・ホリッツの職位の事でだ。」

 ミリアはこれまで通りの竜騎士として、いられると思っていたが、エンデュからの言葉は違っていた。

「この者は、契約者となり、今まで就いていた竜騎士という職に戻る事は認めない。」

「そんな…」

 ミリアは落胆の声をこぼした。

「ミリア・ホリッツ。」

 エンデュの呼び掛けに意識を戻すミリア。

「そなたには今から、『炎竜姫』の位を授ける。」

 フィール以外の者達は、驚きの声をつぶやいている。

「わたくしの加護を受けた者ですよ。当然のことですわ。」

 フィールは誇らしげに語った。

「炎竜姫ミリア、それがあなたの名前よ。」

 ミリアは言葉を失っていた。

 エンデュが言葉を続ける。

「そなたは、そなたの意思で全てを決め、その名のもとに生きろ。それと、お前達の飛竜は今まで通りに連れていくがよい。」


 ミリアはゆっくりと、意識が戻るような感覚の中で、自分の立場を理解した。

「私自身で、決めていいって事なんだよね?」

 エンデュ様の優しい声が伝わってきた。

「そういうことだ。火の民達が誇れる名声を期待しているぞ。」

「はい。」

 笑顔を兄のロイとフィールに見せたミリアは、エンデュ様に深々と頭を下げた。

「話は終わった。ノゼとビランよ、あとは任せる。」

 翼を広げ、飛び立つエンデュを見送るミリア達。


 ミリアの父ビランは娘と息子の姿を見つめていた。

「炎竜姫か…」

 苦笑いを浮かべるビランは、大きなため息をつく。

「母と祖母に話をしてきなさい。これから忙しくなるからな。ロイは竜舎に寄りなさい、お前の竜が待っているぞ。」

 ミリアはフィールと共に外に待っていた飛竜に跨りる。

「これからも、お前と一緒だね。」

 嬉しさを伝えるように飛竜の首を撫でるミリアに、答えるように竜は大きく羽ばたき空に上った。


 神殿に隣接する竜舎から、兄のロイを乗せた飛竜が空で待つミリア達に追い付き、二匹の竜は並んで、母と祖母が待つ家に向かう。

  日差しが強い午後の空に、悠然と飛ぶ二匹の竜を、神殿からビランは見上げていた。

「娘の晴れ舞台は、盛大にやってやらないとな。」

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