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銀の月  作者: 紅花翁草


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23/30

歩み進むために 1

 無重力の空を私はゆっくりと下降している感覚だった。


 青白い光が注ぐ空、花が咲き誇り剪定された木々、その中心になぜか大きな天蓋のついたベットがある。そのベットには知っている女性がのんびりと寛いでいるのが見えた。

 私はそのベット端に空からゆっくりと舞い降りる。

[いらっしゃい。]

 起き上がったリナに私は自然と言葉を返す。

(お邪魔します。)

 起き上がったリナがベットから離れると、ベットが消えて、代わりに白いテーブルとふかふかのソファが現れた。

(ここって、リナの世界ってことなのかな?)

[ちょっと違うかな。ここはなおの最深層意識の場所で、私はここでずっと眠っていたの。]

(ずっと?)

[昨日までね。]

 空が明るくなり、心地いい風が肌を撫でる。

[私の意識が起きたから、真っ暗だけの世界が、今は自由に造れる私の部屋ってところかしらね。]

(そうなんだ。)

 ソファで寛ぐリナに勧められるまま対面のソファに私も座る。

(私は、どうしてここに来てるのかな?)

[なおが寝たからじゃない?]

(寝落ちってくらい、いきなりだったわ。ってそうじゃないでしょ。)

 私とリナの小さな笑い声が庭園に吸い込まれていく。

[まあ、わたしとなおの意識が繋がったから、この場所も繋がったってことかしら。]

(じゃあ、これからは、寝るたびにリナの部屋に来るってこと?)

[そうなるとおもうわ。扉を閉めるように、入れなくする事も出来ると思うけど。]

(嫌よ。リナとこうやって話せるって嬉しいんだから。もしかしてリナが迷惑に思ってたりする?)

[ちょっと意地悪言ってみただけ。わたしもこんなふうに話せるなんて思ってもみなかったから、嬉しくて、ついね。]

(あ! 思い出した。すっごく、痛かったんだから。)

 悪戯顔でリナはくすくす笑っている。

(でも、ほんとありがとう。大切なもの、いっぱい守れたよ。)

[どういたしまして。、これからは、いつでも呼んでね。]

 緑の香りがするそよ風が私を撫でる。

(これから毎日、こうやって、話できるのね)

 

 自然と会話が止まり、心地いい静寂が私を包む。

[改めて、よろしくね、なお。]

(よろしく。)

 私は、手を差し出しリナに握手を求める。握ったリナの手は温もりと感触が確かに在った。

[さてと、私は寝ていたからいいけど、なおは寝ないとね。]

(そうなの? 夢みたいなものじゃないの? ここって。)

[全然違うわ。体は寝ている状態だけど、意識は起きてる時と同じだから、このまま朝になると、寝不足と同じになるのよ。]

(そっか。)

 私は、立ち上がり周りを見渡し、空を見上げた。

(どうやって寝るの? これ…)

 リナが最初に見たベットをソファーの隣に出してくれた。

[そのベットで寝ればいいわ。]

(なんか、不思議な感覚。)

 私は意識の部屋でふかふかのベットの感触を感じながら静かに目を閉じる。

(リナが起きてるって思うと寝れないんだけど。)

[それじゃ、私も一緒に寝るわね。]

 そう言ってリナがベットに横になる。

 少し照れ笑いを見せ合う私とリナ。

(おやすみなさい、リナ。)

[おやすみ、なお。)


「なお様、起きて下さい。」

 私は、遠くから聞こえる声に気付き、意識が体を感じる。目を開けて隣に寝ているモカの姿が見えた。

「そっか、もう朝なのね。」

 体を起こして、ベットの側にいる黒髪の女性に朝の挨拶を返す。扉の一歩入った所には、ミレさんが衣装ケースと身支度用のワゴンを準備していた。

 モカも目を覚ましてゴロゴロと動き出していた。

「なお~おはようです。」

 モカの頭を撫でて、私はハレさんに視線を戻した。

「もしかして、寝坊してしまった?」

 まだ、筋肉痛のような痛みが残る、重い体を動かしてベットから起き上がった。

「いえ、朝食の時間に合わせて、これから身支度を済ませていただきますので、大丈夫ですよ。」

 ハレさんとミレさんの介助で、私は着替えと身支度を済ませる。

「ありがとうございます。今日もよろしくお願いします。」

 私が頭を下げて挨拶した後、二人が返すように頭を下げる。見合う笑顔が3人を可笑しくさせた。


 扉を叩く音がした。

 返事を返すと、ティオが勢いよく入ってくる。

「おはよう、なお。体の調子はどう?」

 ティオに向かって、ゆっくりと手を上げて答える。

「まだ、こんな感じ。」

 私は少しの痛みも隠さずに、表情にも出す。

 ティオが癒しの魔法で、痛みを和らげてくれた。

「まあ、だいぶ良くは、なっているわね。それじゃ、朝食に行きましょうか。」

 ハレさんとミレさんに「行ってきます。」と言って、ふわっと私の側に飛んできたモカと一緒に、部屋を出た。

 廊下に出ると、食事の部屋に入っていくお母さんとお祖母ちゃんの姿が見えた。

「急ぎたいけど、ダメだ。無理。」

 私は笑いをこぼしながら、ティオの手を支えに歩く。

「今日は大人しく、してないとね。」

 同じように笑いをこぼしながら、ティオが私の手を引く。

「僕も、なおのために、がんばるです。」

 ふわふわと浮かんでいるモカが少し頼もしく見えた。

 そんなモカを見て、私とティオは可笑しさが増して、声を抑えるので必死になっていた。


 息を整えて私達は、お母様達の待つ部屋の扉を開けた。

「お母様、お祖母様、おはようございます。」

 私は、ティオの真似をしながら慣れない挨拶をして、席に座る。

 この場所での食事にはだいぶ慣れた私は、お母さんがしてくれていた、食後のお茶出しを手伝った。

 王妃と姫になった二人の会話を聞きながら、今日一日の予定を知った私は、それぞれの部屋に戻る、お母さんとティオ、お祖母ちゃんに手を振って、モカと二人で部屋に戻る。


「私の今日の予定は、昼ぐらいだろうって事の、ミリアの訪問だけ。あとはこの体を休める事かな。」

 日差しがまだ冷たい、朝の空気を窓から感じながら、モカと二人で外を見ていた。

「ベットでゴロゴロしてよっか。」

 まだ痛みが引かない体を、沈めるように私はベットに横になった。

 モカは私の頭のいつもの場所で、いつものように寛いでいる。

「祭りの日までには、動けるようになるかな~。モカと一緒に色々見たいけど…そっか。」

 私はモカの体を撫でる。

「見に行けても、モカを怖がる人達で…ううん。そんなのは気にしないで私はモカと一緒に楽しみたい。」

 モカが私の頬に擦り寄った。

「はいです。」

 

 扉を叩く音がしたので、私は体を起こして、少し大きな声で答えた。

 ハレさんとミレさんが果物を載せたワゴンを持って入って来た。

「お体のほうは、どうですか?」

 そう言ったハレさんが、部屋の入り口に立ち止まっている。

「まだ、だめみたい。月礼祭までには、ふつうに歩けるくらいには戻るといいんだけど。」

「なにかあれば助力ですが、私達に遠慮なくお申し付けください。」

 私はベットに腰掛けるように座り、入り口で立っている二人に頼みごとを早速することにした。

「それじゃ、こっちの長椅子に座ってもらって私達の話相手になってくれませんか?」

 手招きで、二人を呼ぶ。

「それでは、お茶と果物をテーブルに用意します。」

 ハレさんとミレさんは流れるような仕事でテーブルに並べるのを見ながら、私は一人掛けの椅子に座り、モカを膝の上に呼んだ。


 テーブルを挟んで、祭りの事や、城の日常とか色々な事を聞いた。

 二人との会話で楽しい時間が過ぎていく。


 扉の叩く音で、私達は会話を止め、ハレさんが扉を開けに席を立つ。

 ミリアさんが来た事の連絡だったので、私はモカと一緒に、連絡に来てくれたメイドさんに連れられて、ミリアさんが待っている部屋に向かった。


 大きめの応接室みたいな部屋の中で、ミリアさんが一人、テラスから外を見ていた。

「おまたせ、ミリア。」

 私のぎこちない歩みを見てミリアさんの笑顔が不安な顔になる。

「なお。どうしたの?どこか怪我したの?」

「ちょっと無理して、全身筋肉痛になっちゃった。」

 私は少し笑いながら答えると、ミリアが少し考えたのか、少しの沈黙の後、

「その筋肉痛は、無理した頑張りで、誰かを救った証だよね。ちょっと羨ましいかな。」

 微笑の後、少し悲しい顔になったミリアさんに私は返す言葉が無かった。

「ごめん。昨日ね、何も出来ないまま終わってしまって、騎士としてあの場所に居たのに…」

 私は強く言葉を返した。

「それは、違うわ。ミリアはミリアにしか出来ない事をしたんだよ。悩むことも、ううん、後悔することも、絶対に要らない。」

 突然の私の言葉でミリアがビックリしている。

「ティオさんに聞いたの?」

「あっ、うん。そうなの。」

「そっか、ありがとう。そうよね…」

 テラスの外をもう一度、見るミリア。

 テラスから見える中庭に、ミリアの竜と、兄のロイの姿が見える。

「ちゃんと、これからの事を考えて進むわね。」

 

 私達は大きな丸テーブルに並んだ椅子に座った。モカは私の目の前のテーブルに降りた。

「モカも元気みたいね。」

「元気です。」

 ミリアの顔に笑顔が見えた。

「なおとモカは数日後には、元の世界に戻るのよね?」

 短い交友期間だと、あらためて身に感じる私だった。

「うん。お祖母ちゃんが昨日来てて、月礼祭が終わったら帰る事になってる。でもね、またこっちに来てもいいって言ってくれたから。」

「それじゃ、また会えるって、期待していいのよね。」

 私は強く言葉を返す。

「もちろん。絶対に会いに行くから。」


 扉の叩く音で私達は振り向くと、開いた扉から、鮮やかに輝く緑の髪の女性が入ってきた。

「リッサ。どうしたの?」

 ミリアが立ち上がって来客の女性を迎える。

 私は、昨日の緑の鎧を着た騎士だと気付く。

 私とモカに一礼すると、ミリアに引かれるように、席に来る。

「初めまして、私はなおって言います。この子はモカ。」

「初めまして、突然の訪問で申し訳ございません。私はリッサ・ソワール、風の騎士をしています。」

 挨拶を交わした私達は椅子に座り、リッサさんの訪問の理由を聞いた。

「マイ様がルミナ様と昨日のお話をしている時に、ミリアの話が出て、気になってる私に、直接会って来なさいって。」

「お二人は、知り合いなのですね。」

 私の発言にミリアが、

「普通に喋っていいよ、なお。わたしとリッサは、ロレンさんの家で一緒に稽古した友人なの。」

「おじさんの所で?」

 疑問に答えるミリアの話で、おじさんは魔法騎士として、おばさんは魔術の先生として、昔、数人の子供達の教育をしていて、その時の子供がミリアとリッサ、ティオ。あと大地の女性騎士の4人だったと知る。

「ん? 女の子ばかりだったの?」

 リッサさんが付け足すように答える。

「騎士を目指す女の子って居なかったのよ。教える方も、どう接すればいいのかもね。で、ルミナ様の計らいで、魔法を組み合わせた剣術で素晴らしかった、おじ様と高位巫女だったおば様の家で5年くらいお世話になったの。」

「そうなんだ。おじさんて騎士だったのね。あれ? でもモカの時って剣使ってなかったけど…」

 ミリアが少し悲しそうな顔になって教えてくれた。

「わたし達が習うずっと前、遠征討伐の時に大きな怪我をして、全力の剣技は出来なくなったって聞いたわ。」

「そうなんだ…」

 私がうつむくと、

「それでも、わたし達を立派な騎士に育てるくらいは余裕な先生でしたわ。」

 リッサさんが尊敬の意を込めた言葉で私の気持ちを晴れさせてくれた。


 また、扉の叩く音がして、ハレさんとミレさんがワゴンを持って部屋に入ってきた。

「なお様、ティータイムの用意が出来ましたので、皆様でお召し上がりください。」

 二人のメイドが、数種のケーキや焼き菓子が乗ったケーキスタンドをテーブルの真ん中に置いて、私達の前に並べられたカップにお茶を注いで私の後ろに待機した。

「なんだか、なおって貴族のお嬢様に見えるんだけど。」

 ミリアが疑惑の視線を私に送っているのが見える。でも声は、茶化している感じだった。

「え! え~と…」

 モカにケーキを取り分けながら私は、言葉に詰まっていると、リッサさんがさらに質問を被せてきた。

「ティオとなおさんは、どういうお知り合いなのです?」

 この質問には、ミリアもどこまで話していいのか悩んだらしく、私と同じように、言葉が出なくなっていた。

 私とミリアはお互いに、視線を重ね、どう切り出すのかを考えていた。

「え…っと。」

 後ろのハレさんとミレさんも聞いてるからと、悩んでいる私は嫌な汗が出ていた。

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