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銀の月  作者: 紅花翁草


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20/30

ファルト召還戦 2

「「マルザード!」」


 イガル達は驚き、目の前に突然現れた人物の名を呼ぶ。魔族の男も同じく叫んでいた。

 腕が切り落とされ、胸まで切り込まれた剣を、残った腕で押さえながらマルザードは後ろに居る魔族に振り向き、言葉をかける。

「悪いな、エンワード。この先を見届けてくれないか。今までありがとうよ。」

 驚きから悲しみの表情をする魔族の男に、笑顔で語るマルザードは小さく呪文を唱える。

 魔族の男エンワードがその瞬、その場所から消えた。


 剣から手を離したイガルは、もうすぐ息絶えるマルザードを見ていた。

「なぜ、こんなことを。」

 風の巫女マイが言葉を洩らす。

 その問いにマルザードは小さな笑みで答え、そして、ちからつき、落下しはじめた。

 崩れ落ちる魔界の門に吸い込まれるようにマルザードは落ちていく。

 魔界の門が塵のように消えていく。

 マイは風の魔法でマルザードを浮かせ、ゆっくりと広場に下ろした。

 領地の無くなった駒達は同じように塵になって消えていく。


 戦っていた者達は広場に降りたイガル隊長の側に集まってきた。

 イガルは息絶えたマルザードから剣を抜き、地面に突き立てる。

 王妃ルミナがゆっくりとイガルの元に降り立った。

「マイ・アンフェルさん、風の騎士の皆さん。助力、心より感謝します。」

 一礼を交わすと、ルミナは地面に倒れているマルザードに祈りを捧げる。そして、直立の儀礼で待っている銀の騎士団達に言葉をかけた。

「取り敢えずの脅威は無くなりました。光の塔とルゲルの賢者の処置については、今北都に行っている私の母、シェラの裁量に任せます。」


 少しのどよめきが起きたが、騎士団達は次の言葉を聞くために静かになった。

「私達は、負傷者の救助を最優先に、避難民の解放と街の修繕を速やかに行います。あと少し、民の為に。お願いします。」


 一同に足を揃えて、王妃ルミナに一礼をすると、それぞれに行動を起こした。

 負傷者を運ぶ者。施設に向かう者。街の被害状況を調べに行く者。

 戦いの終わりを感じる雑音の中、開け放たれた城壁の門の姿に、人々の不安はまだ消える事はなかった。


 魔界の門の破壊と消滅をなおとティオは天空城から眺めていた。

 ティオが安堵の声を呟く。

「おわったのよね…」

 黒い竜もほぼ同時に消えて、召還戦の勝利と戦いの終わりを感じたなおは、駒達をカードに戻した。

「うん。」

 役目を終えた駒カード達は一つの束なり、なおはそれを手に取った。

(ありがと。)

 ファルトケースにそっと戻して、静かになった街を見下ろした。

[なお、お疲れ様でした。それじゃ、まだ残っている事があるのでもう一度、私に代わってくださいね。]

(リナ。お願い、頼んだわよ。)

 なおは親友だったら、思い描く言葉使いで返事をする。

[もちろん。]

 リナもすこし照れながら答えた。


 『リミナスの天空城』のカードをファルトケースに戻したリナとティオは、王妃ルミナの居る広場に向かっていた。

 リナは魔力が乏しくなったティオの手を取って支えるようにゆっくりと飛んでいる。

「ティオさん、召還の護衛、とても素晴らしかったです。お疲れ様でした。」

「あっ、ありがとうございます。」

 手に伝わる暖かさも重なって、ティオは嬉しさと恥ずかしさを同時に感じていた。

「この後も、なおを支えてあげてください。」

 ティオは、頼られた事でさらに嬉しくなり、笑顔で「はい。」と返事をする。

(わたしがお姉ちゃんなんだけどな…)

 なおは言い返せないもどかしさで、頬を膨らませた。


 広場には、王妃ルミナの側に、イガル団長と騎士ハミル。風の巫女と騎士達。それと、青い髪の少女と十数人の水の巫女と騎士が集まっていた。

「エリ!」

 広場に下りたティオは真っ先にエリを抱きしめる。そして、オルトリアスの姫として水の巫女達に一礼をした。


 リナは王妃ルミナの後ろの位置になる場所に、ゆっくりと降りた。

 ルミナはリナに向けた視線を、集まっている人達に戻す。

「皆さん、この戦いで都民を守り、勝利に導いた事に心から感謝いたします。」

 深く一礼をしたルミナは言葉を続ける。

「姫巫女エリオナさんは逸早く、ミレナの神殿で都民を守ってくださいました。そして港周辺をリエムリムの皆さんが。広場では、銀の騎士団と共にマイ・アンフィル様達が。」

 王妃ルミナは、開かれた門の先を見つめる。

「まだ、終わってはいませんが、後は私達で治める事が出来そうです。後日、場をご用意いたしますので、今は、おやすみになってお待ちください。」


 振る舞いに重みがある、30代くらいの水の巫女の一人が、ルミナの前に立ち、儀礼をする。

「私達は船に戻り、いつも通りに過ごします。ルミナ様もお疲れだと存じますが、ご無事を祈っています。もし、助力できることがありましたら、いつでも使いを遣してください。」

 後ろにいたエリオナ達は一同に、儀礼をして数台の馬車に向かった。


 ルミナは風の巫女、マイ・アンフィルの前に移動する。

「マイ様、今回の騒動について、後日お話をお願いします。」

 マイ・アンフィルは笑顔で答えた。

「もちろんよ。金の問題はまだ、終わってません。シェラ様が対処していると聞きましたが。」

「はい。マルザードの孫のサイローズを連れて、光の塔に向かっていると思います。」

 マイとルミナは同様に重い表情になっていた。

「そうですか、サイローズを連れてなのですね。」

 マイ・アンフィルはマルザードの最後の笑みを思い出していた。


 ルミナは今一度、開かれた門を見る。

「マイ様達も、迎賓館でおやすみになってください。」

 マイ・アンフィルは護衛の風の騎士達に労いの言葉をかけた。

 そして、ルミナと同じように門の向こう側を見る。

「今すぐにでも、光の塔へ向かいたい気持ちもありますが、お言葉に甘えて、そうさせていただきます。」

 マイは広場の端に少女を抱きかかえながら座っている、竜騎士を見る。

「その前に、彼女の様子を見てから。」

 

「なあ、ルミナ。おふくろが来てるのか? しかも今、金の塔に行ってるだと。」

 イガルが話の間に入って尋ねる。

「駄目ですよ。お兄様が行くとさらに不安になるだけです。」

 今にも、門を越えて北都に行こうとするイガルを、ルミナは制した。

 二人の会話を聞いたマイは、堪えきれず笑い声がこぼれていた。

「シェラ様は変わらずにお元気なようですね。」

 ルミナは嬉しさと恥ずかしさで照れ笑いを返しながら「はい。」と答えた。


(お祖母ちゃんってどんなことしてたんだろう…)

 なおは少し震えを感じた。

(って、それよりも、ミリアは大丈夫なの?)

[ええ、大丈夫よ。今から行くね。]

 

 リナは話題に出たミリアの症状を、ルミナとマイ・アンフィル達に話し始めた。

「ミリアさんは兄のゴーレム化で、極度の魔力切れで昏睡状態になっています。なので魔力を補給すれば、意識を取り戻すでしょう。今から、その処置を行います。」

 リナの歩みに合わせ、ルミナとマイが移動し始めたので、ティオとリッサもその後に続いた。

 イガルは騎士隊の再編成を、その場に残って始めた。

「こっちの準備は済ませておくぞ。」

 広場の端に向かうルミナに向かってイガルが手を上げる。

 ルミナはイガルの声に振り向き、騎士達に頷くように頭を少し下げた。

 

 ミリアは、座っている兄のロイの腕の中で眠っていた。それをミリアの竜が見守るように居る。

 リナはロイの前で腰を落として、ミリアの胸に手をそっと添えた。

 淡い光がミリアの身体に吸い込まれていく。


 ミリアは、暖かい日差しを受けているような感覚の中、意識がはっきりとしていく。

 目を覚ましたミリアは兄の優しい笑顔と回りにいるルミナ様やマイ様達を見る。


「…夢じゃないよね?」

 ロイが立ち上がり、ゆっくりとミリアを立たせた。

瓦礫の中、負傷者を運ぶ巫女や兵士達、赤い鎧の竜騎士と赤茶の兵士達が広場で整列するように横たわっている。

 ミリアは周りにいるルミナ様達に、大丈夫になったと伝えるために背筋を伸ばして、儀礼をした。

「えっと、ありがとう。本当にありがとう。」

 ミリアは名前の知らない銀髪の少女に深々と頭を下げた。

「あなたの名前を教えて貰えませんか?」

「私はリナ。ミリアさん、身体の違和感はないですか?」

 ミリアは、身体が少し重いような感覚があることを告げた。

「正常な反応でよかったわ。それじゃこれからの事を話します。」


 リナはルミナ達にも聞えるようにゆっくりと語り始めた。

「ゴーレムとなったお兄さんに絶えず魔力を供給しているために、ミリアさんは通常の行動にも今まで以上の負荷がかかっています。それが重さの感覚なんでしょう。」

 リナの言葉を聞きながら、ミリアはロイの顔を見上げる。

「魔力を使わない、普段の生活なら魔力の自己回復で魔力不足になることはありませんが、ミリアさん、お兄さん、どちらか一人でも魔力を使えば、足りなくなって、最悪、命を無くすでしょう。」

 話を聞いている全ての人達の顔が曇っていく。

「命の対価としては、安いと思いますよ。」

 リナは笑顔で言葉を続けた。

「それと、ゴーレムになったお兄さんは、ほぼ不死身です。ミリアさんからの魔力が続く限りですが。あと、胸の炎華石が砕けないかぎり。」

「騎士としては、今の二人には無理だと思ってください。私からの話はこれで終わりますね。」


 リナはルミナに向かってにっこりと微笑んだ。ルミナが意図を汲みとってミリアに言葉をかける。

「数日は迎賓館でお休みになってください。体調の経過も気になりますので。火の長には私から書文を送っておきますね。」

 ミリアは色々と困惑する自分に言い聞かせるように気持ちを整えて、ルミナ様のご好意を受けることにした。

「えっと、なお、なおさんは無事なんでしょうか?」

 ルミナ様とティオ姫がこの場に居る。そんな状況だったからかも知れないけど、ミリアはなおの顔が浮かんでいた。

 ルミナとティオは、同時に微笑んで、大丈夫だと伝えた。

「明日にでも、迎賓館の方にお邪魔するとおもいますよ。」

 ルミナの言葉を聞いたリナが一言、付け加えた。

「城に来てもらったほうがいいかもね。」

 リナが悪戯っぽい笑顔で笑っている。

(え?)

 ルミナがリナの言葉の意味に気付いて、ミリアさんに言葉を続けた。

「そうですね。ミリアさんが良ければ、城にお迎えしてもいいでしょうか?」

 ティオもミリアも疑問な表情を浮かべている。

 ミリアは「はい。」と、流れるまま答えた。

(ねぇ? どういうこと?)

[あとで教えますね。]

 リナの軽い声の言葉で、わたしは言いようのない不安をかかえた。


 ルミナ様の厚意を受け取った風の巫女達とティオ達は、迎賓館に向かった。



 イガルのいる広場に向かいながら、ルミナはリナとティオに労いの言葉をかける。

「ティオ。立派になりましたね。嬉しいですよ。」

「リミナス様、ありがとうございます。私達全てを守れたのも、貴方様の力添えあってのこと。感謝の言葉だけでは、この気持ちを表せません。」

 ルミナは立ち止まり、深く頭を下げた。


「出来ること、すべき事をやっただけよ。召還戦で勝利に導いたのは、なおです。あとで褒めてあげてください。」

(ちょっ、リナ!)

 リナは少し立ち止まって広場を見渡した。

「後の事は、任せます。私は、なおの中に戻りますね。ティオさんも一緒に城に戻りましょう。」

 ルミナがティオを優しく抱きしめる。

「夕刻には戻りますから、なおの事、診てあげてください。私の部屋にモカ様が居ますので、私が戻るまで、そこで待っていてください。」

「お母様の部屋で?」

 ティオは母の言葉に従って、城へ向かう。

 リナから差しだされた手を取って、避難所から、家に戻る都民達の姿を、空から眺めながら。


 城の中庭は、数人の騎士が見回りしているだけで、戦闘の痕跡は、ほとんど残っていなかった。

 リナとティオは防具を宝印石に戻し、城の中に入り、すれ違う執事やメイドたちに挨拶をして、モカの居る母親の部屋に入った。

 モカがルミナのベットの上で、ぐっすりと寝ているのが見えた。

(モカ。…起こしたい。)

「さてと、」 リナがベットに腰を落とす。「ティオさん、それと、なお。」

(ん?)

「はい。」

 二人は、改まって話をしようとするリナの言葉を待った。


「今から、なおの中に戻ります。…で、今日、なおの身体で魔力を使いました。生まれて初めて、私の全開の魔力を。」

(なに? この言い回し…)

 ティオの表情が怖いものでも見たような、青ざめ、苦い顔になっているのに、私は気が付いた。

 リナが、どこか面白い事でもあったような声になって、「じゃ、おやすみ。」と言った次の瞬間。

 今まで感じたことがない激痛が、全身を走り回る。

「いっ! たぁあーいぃぃー!」

 私は、全身、極度の筋肉痛みたいな痛みでベットの上で悶える。

 ベットの振動でモカが目覚ました。

「なお、どうしたですか?」

 言葉が出ない私の代わりに、ティオが強張った顔で答える。

「ちょっとね…」


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