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銀の月  作者: 紅花翁草


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12/30

王都オルトリアス 2

 私達を乗せた馬車は、来た道をそのまま戻って商店街に向かっていた。馬車の中ではティオが次の目的地を決めかねている。

「つぎ、どこ行こうかな。昼には少し早いし、…そうだ靴屋いきましょうか。」

 私は、おじ様に貰った皮の靴を見直した。

「これで、じゅうぶんな気がするんだけど?」

「今までなら、それで良かったんだけど、あの服には合わないと思うから。」

 ティオの目線が隣に座っているハミルさんの足元を示した。

(あぁ、そっか。)

「そうかもね。それじゃあ、お願いします。」

 少しして、隣で眠そうにしていたモカが、私の膝の上に乗っかってきたので私は頭を撫でて両手で支えた。

「モカ。海、楽しかったね。」

「はいです…」力ない返事のモカに、なおは「寝てていいよ。」とそっと抱きしめる。車輪の音と振動とモカの温かさで、私も眠たくなってきた。


 胸を反らして、睡魔を振り払いながら私はティオと今日の予定を話合った。

「私達、王族や貴族が買い物する時に行く広場があるので、今日もそこに行こうと思うの。」

 ティオが楽しそうに話す。

「先ずは靴屋ね。もう年配のお爺ちゃんがやってる店なんだけど、とっても綺麗で美しい靴を作ってくれるの。サイズ合わせの手直しなら、1時間もあれば、やってくれるのよ。」

 「次は…そうね。昨日食べたケーキのお店も広場にあるので、そこでティータイムしながら、靴が出来るの待ちましょうか。」

「そのあとは…」

 ティオの目線が、私に移る。

「なおは、何か見たいのある?」

「そうね…」 考えてみたけど、思いつかなかったので、

「ケーキ食べながら決めようかな。」

「そうしましょうか。」 ティオがハミルさんに視線を移して何か言いたい表情だったけど、すぐ私に視線を戻していた。


 馬車は賑わいが見える町に入っていった。

 人々が行き交う大きな街道から、すこし細い道に馬車は入っていく。少し走ると、白から緑の景色に変わっていった。 

 緑の木々と芝生の間を馬車はゆっくりと進んでいく。

「すごく静かなところだね。さっきの通りと全然ちがうね。」

 私は寝ているモカを落とさないように、窓側に移動した。

「でしょ。ここはみんなのオアシスなの。この奥に泉が沸いててね、この町が出来る前からあるんだって。 この森抜けたら、すぐだから。」


 森の端には大きな石の門が立っていた。馬車は門の下を通って大きな円になっている広場に出た。真ん中には小さな泉を囲んで出来た水場があった。

「なお。着いたわよ。」

 ティオとハミルさんが降りたあと、寝ているモカを抱いたまま、私は馬車の外に出る。

 広場の外には数店のお店が広場に沿って並んでいた。


「オアシスの泉ってそこにあるやつ?」 

 私は広場の真ん中にある噴水を指差した。

「もっと大きいのが森の中にあるの。この泉も小さいけど、オアシスのひとつだよ。」

「そうなんだ。」

 広場は大通りの商店街ほど人は居なかったけど、数十人ほどの人達がゆったりと過ごしているのが見える。

 ティオは、一礼する人達に手を振り、すぐ近くの店に私を連れていく。

「ここがいつも利用する商店街みたいな場所よ。 で、ここが靴屋さんね。」

 扉をハミルさんが開けて、ティオが店の中に入っていった。


 黒髪の青年が私達を迎えてくれた。 

 私が店に並んでいる靴に目を奪われている間に、青年と言葉を交わしたティオが、私のところに来てくれる。

「なお。店にある靴で気に入ったのあったら言ってね。それを加工して、あの服に合わせるからね。」

 奥から、70才過ぎの老人が私達のところに来て、

「ティオお嬢様。ご機嫌よろしくてなによりです。孫から注文の事は聞きました。ごゆるりと、していってください。」

「はい。突然の訪問ですが、よろしくお願いします。」

「あの、よろしくお願いします。」

 ティオの後に、私は老人に挨拶を交わして、ティオと靴選びを続けた。

「これに、しよっかな。」

 私は白いショートブーツを選んだ。銀の細工がとても綺麗であの鎧と合いそうだったし、カードケースとも、似合いそうだった。

 ティオも同意見で、すぐにティオは老人に靴を持っていった。

「なおも足のサイズを測るから、こっち来てね。」

 私はティオに言われるまま、指定された椅子に座った。まだ寝ているモカを膝の上に置いて。


 店の奥からさっきの青年が出てきて、椅子に腰掛けた私に一礼をして、足の採寸を始める。

(モカのこと・・気にしてないみたいだけど・・なんでだろ・・)

 ほどなく採寸が終わり、私達は靴屋を出た。


「それじゃ、次は、お菓子屋にいきましょうか。」

 私にそう言って、ティオは店の前で待っていたハミルさんに声をかけて、並んで歩き出した。

 私は二人の後ろを少し離れて歩いていく。


 2軒隣のお菓子屋さんの中に入ると、香ばしい焼き菓子の匂いと甘いケーキの匂いが私のお腹を刺激した。店の中にはテーブルが沢山あり、沢山の人たちが楽しそうにしていた。


 腕の中で寝ていたモカが、もぞもぞと動き出して目を覚ました。

「クッキーの匂いがするです。」

 まだ半分寝ているモカに小さな声で私は

「そうよ。モカ。お菓子屋さんに着いたよ。」

 ティオもモカが起きた事に気づいて、笑顔を向けている。


 可愛いエプロンをつけたメイドさんとティオが挨拶を交わす。

「この奥に離れの席があるから、そこに行きましょうか。」

 入り口から動かないハミルさんを見たティオは少し強い口調で話しかけていた。

「ハミルも一緒に来てくださいね。」

 小声でティオは 「あれくらい言わないと来てくれないのよ。」

 ハミルさんが鎧を戻してローブ姿で私達の少し後ろをついてくる。


 お姫様モードのティオに連れられて私達は奥へと入っていった。

 屋根のついたテラスには四角いテーブルが3つ並んでいて、一番奥のテーブルをティオは選んだ。ティオとハミルさんが並んで座ってから、私はモカ抱いたまま、ティオの対面の椅子に座る。

 ほどなく、さっき話していたメイドさんが、沢山のケーキと焼き菓子が乗ったワゴンを押してくる。

「お待たせいたしました。こちらが今日のお菓子でございます。」

 モカが私の膝から飛び上がり、肩の上辺りでふわふわと浮いた。

「モカ、いきなり飛んだらびっくりするでしょ。」

「ごめんなさいです。」

 手を伸ばしモカを膝の上に戻して、私はメイドさんに謝ろうと顔を向けたら、声にならないほど驚いていたのが判った。

(あっ、これが普通なんだよね。)

「びっくりさせてごめんなさい。大丈夫ですか?」

 メイドさんは深くお辞儀をして「大丈夫です。」と答えた。


 ティオが何事も無かったようにケーキと焼き菓子を選んだので、メイドさんも普段通りの仕草でお皿の上に並べていった。

「なお。好きなだけ選んでね。モカも遠慮しなくていいからね。」

 私はモカをテーブルの上に置いて一緒にお菓子を選んだ。

 ハミルさんの分はティオが選んでいたようで、それぞれの前にケーキと焼き菓子が配られた。

 

 メイドさんはワゴンの中からティーポットとカップを取り出し、注いで並べようとしていたけど、動きが止まったので、私は、

「この子の分もお願いします。」

「はい。」と緊張した声の後、私達の前にカップを並べた。

 並び終えて、一呼吸したメイドさんに私は会釈した。緊張が解けたようで、笑顔が戻ったメイドさんは、私達に一礼をしてワゴンを引いて戻って行った。


「靴屋でも、広場でも、モカのこと、なにも無かったから精獣に理解ある場所なのかなって思ってたけど、そうじゃなかったみたい。」

「たぶんだけど…」 ティオが少し笑いながら、

「寝てたから、ぬいぐるみだと思ってたんじゃないかな。」

 私は少し恥ずかしくなって、

「それって、いい大人がぬいぐるみ持ち歩いているって事だよね…」

「そうなるわね。」

 ティオが今にも声を出して笑いそうになっているのが判った。

「まあ、怖がられるよりは良しとするかな。」

 モカを見て私も笑いそうになった。

「なお。もう、食べてもいいのです?」

「そうね。いただきましょう。」とティオが言って、私はモカの皿のケーキを小分けした。


 私達は暖かい日差しの中、ティータイムを過ごしていた。

 入り口からメイドさんが新しいポットを抱かえて来る。その後ろから数人の人達が入ってくるのが見えた。

「ティオさま~。」

 ハミルさんが席から立ち、来客の人達に一礼をすると、メイドさんの後ろに居る、付き添いだと思われる人達もその場で一礼を返していた。


 メイドさんの横をすり抜けて、私たちのテーブルに来たのは、短い青い髪の、可愛い少女だった。

 テーブルの前で丁寧な、お辞儀をしたその少女は

「エリオナ・シーナです。初めまして。」と、私に挨拶をした。

(あっ。船の…水の巫女さんだったかな…)

  私は一度、席を立ち「月乃宮 なおです。」と返して、隣できょとんと、しているモカを紹介しようとしたけど、私はどう説明していいのか判らず、困惑していると、ティオが代わりに言ってくれた。

「エリオナ、そちらの精獣はモカ様といって、今は、なおさんの精獣です。」

(なんか、曖昧な言葉だけど、仕方ないよね。ありがとね。ティオ)

「それと、メイドが困っているから、早く席に着いてね。」


 ハミルさんが席を立って譲ろうとしたのをティオが制した。

「貴方は座ってて。」

 ティオが空いている隣の席にエネオナちゃんを座らせるとメイドさんが空になっていた私達のカップに新しい紅茶を注いでくれた。

「すぐにご用意いたしますので、少しお待ちください。」

 メイドさんは急ぎ足で戻って行った。

 

 エネオナちゃんの付き添いの人達は隣のテーブルについていた。

「エリ? どうして、ここに居るって分かったの?」ティオが訊ねた。

「朝、ティオねぇさまの馬車が港に来たのが見えたんだけど、海岸に行っただけで戻って行ってしまわれたので…会いにきてくださったのかと…」 少し言葉が小さくなっていた。

「だから、追いかけて来ちゃいました。…やっぱりご迷惑になってしまいましたか?」

 ティオが笑顔でエネオナちゃんの頭を撫でて、

「いいえ。私もエリに会いたかったので、今日の夕刻にでも、お邪魔しようかと思ってたのよ。来てくれてありがとう。」

 

 メイドさんが新しいお菓子を並べ終えるをまって、私達は、ティータイムを再開した。

 エリオナちゃんはケーキを頬張りながら話し始めた。

「ティオねぇさまは、月礼祭で親善試合でるのですよね?」

「そうよ。リエムリムからは、マリエルさんって方が出るのですよね。」

「はい。一番のファルト使いです。私もいつか、ティオねぇさまと戦えるようになりたいです。」

 ケーキを食べる手を止めることなく、エネオナちゃんが答えた。

 1個目のケーキを食べ終えたエリオナちゃんの口元にクリームが残っていたので、ティオがハンカチで拭いてあげた。

「慌てなくていいのに。」

 本当の姉妹に見えるくらい二人の仕草が自然だった。


「ティオねぇさま。」

 エリオナちゃんの視線が私に向けられた。

「なおさまもファルトをお持ちのようですが…」

「そうよ。この私と試合して、勝つほどの実力があるのよ。」

 乗り出す勢いでエリオナちゃんが話しかけてきた。

「すごいです。今度、私と対戦してほしいです。」

 少しビックリして、手に持っていたカップを落としそうになる。

「勝ったっていっても僅差だったし、私の方こそ、是非お願いします。もっと色んな人達と対戦したいと思っていたから。」

「はい。」

 小さな少女は嬉しく頷いた。


 私は空になったモカの皿と新しいケーキが乗った皿と取り替えた。

「ちょっとまっててね。」 フォークで小さく分けてあげた。

 モカはくちばしの周りにクリームをつけたまま、新しいケーキを食べ始めた。


「ティオねぇさま?」

 エリオナちゃんがちらちらと、モカを見ている。

「なに?」

「モカ様って精獣・・・なんですよね?」

 ティオがモカを再確認するように見つめ、そして笑顔になって、

「変わってるでしょ。 私達が知っている精獣とは全然違うけど、モカは精獣ですよ。」

 ティオが楽しそうに話始めた。

「ねぇ。なお。精獣ってね・・・。」

 私は笑っているティオの次の言葉を待っていた。

「食事って取らないのよ。」

「は? えぇー! 」

 隣で無心でケーキを食べているモカを凝視した。

「え? …なんで?」

 混乱している私をよそに、ティオは笑いながら言葉を続けた。

「正確には、食べる事しなくても大気の中や契約者の魔力だけで成長するから。」


 私は黙々と食べているモカに確かめてみた。

「はいです。僕達は自然にある魔力を吸収して生きてます。」

「じゃあ…なんで食べてるの? お腹空いたっていつも言ってるし…」

 食べるのを中断したモカのくちばしの周りについているクリームをハンカチで取ってあげた。

「なおがくれたから。」

 モカが嬉しそうに教えてくれた。

「初めてクッキー食べた時、ぼく嬉しかったです。美味しかったです。」

(味覚あるのに、食べなくてもいいなんて…)

「そっか。じゃあもっと色んな物一緒に食べようね。」

 私はモカの頭を撫でて、私のケーキを少し切り分けてモカに食べさせた。

「ん? じゃあ今まで一緒にご飯食べてたのって、みんな不思議だったの?」

 ティオが笑いながら答えてくれる。

「そうよ。でも私は、契約者のなおが当たり前のようにしてたし、モカも美味しそうに食べてるし、そんな二人がとても自然だったから、すぐに普通に見えたのも、確かよ。たぶんみんなそう思ってるとおもうわよ。」

「はい。私もお二人のお姿を見て、羨ましくおもいました。」

 エリオナも笑顔で答えてくれた。

「私のお兄様の精獣なんて、喋ってくれないし、目が怖いし、ほんとモカ様と全然違うんです。」

「そうね。アルカさんの精獣は無愛想だよね。でも、私が知ってる精獣はみんなそんな感じ。」


 私は手を伸ばしてクッキーを取っていた。

「エリオナさんのお兄さんって精獣と契約してるんだ。」

 私は色々聞きたくなったけど、何故か聞かないほうが良いような気がした。

(モカはモカだしね。)

 クッキーを口いっぱい頬張り、カップの紅茶を一気に飲み干した。

「モカ。美味しいね。」

「はいです。」 モカは、またクリームで汚れていた。


「そうだ。次の目的地を決めないと。」

 私はモカのクリームを取りながら考えた。

「泉を見てみたいかも。」

「それいいかも。それじゃあ、エリも一緒に行かない?」ティオが尋ねて

「はい。ティオねぇさま。ご一緒したいです。」 焼き菓子を食べていたエネオナちゃんが嬉しく微笑んだ。

「なおも良いよね?」

 私は「もちろん。」とエリオナちゃんを見て、

「一緒に行きたいと私も思ってたの。よろしくね。」

 私とエリオナちゃんはもう一度、挨拶を交わしてケーキ屋を出た。

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