王都オルトリアス 1
いつもは目覚まし時計の音と、お祖母ちゃんの声で目を覚ましていた私だけど、普段と違う環境と気持ちだったので、今日は朝日の差し込む静かなベットで目を覚ました。
枕元のモカはまだ寝ているみたいだった。
「今日もいい天気だ。」
小さなバルコニーに出た私は、外の景色を眺める。
城の外壁で町の景色は見れなかったけど、遥遠くまで透き通る空と、色鮮やかな緑が、空と大地を隔てている。中庭の庭園から鳥の囀りが微かに聞こえてきた。
「えっと、私は今からどうすれば…」
部屋に戻った私は、昨日外した上着とスカートを付けて、ベットに腰掛けた。
モカはまだ寝ている。
(待ってればいいのかな~。あっ…)
私は昨晩、お風呂に入ってない事に気づく。
(喉も乾いたし…)
見渡してもポットのような物は置いてなかった。
私は寝ているモカのおでこ辺りを触りながら途方に暮れていた。
扉を叩く音がした。
私は「はい。」と返事して、扉を開けにベットから飛び出した。
扉を開けようと手を伸ばしてから、手を止めた。
(私が開けちゃダメだったかも…)
私は、扉の前で「どうぞ入ってください。」と声をかける。
程無くして、二人のメイドさんがワゴンを押しながら入ってきた。ワゴンには果物とお茶らしいポットが置かれている。
(さすが、メイドさんだ。)
私は感動していた。
「なお様、おはようございます。」
二人のメイドが深いお辞儀をしている。
私は申し訳ない気持ちで、二人の挨拶に応えた。
「おはようございます。今日もよろしくお願いします。」
二人のメイドが微笑みを返してくれた。
「なお様、お茶の準備を致します。少しお待ちください。」
「はい。」と返事をして、私はソファーに腰掛けた。
テーブルに置かれた丁度いい温かさのお茶を、私は一気に飲み干した。
空いたカップにお茶を継ぎ足すメイドさんに、私は戸惑いながら尋ねる。
「昨日、お風呂に入るの忘れてたんだけど…」
(お風呂入る習慣ないって事ないよね? おばさんの家にはお風呂あったし…)
「はい。それでは準備致しますので、今から入浴で、宜しいでしょうか?」
「お願いします。」私はそう言ってから、
「お城の生活って判らない事ばかりなので、色々聞いてもいいですか?」
私はワゴンの横に立っているもう一人のメイドさんにも顔を向けて聞いてみた。
「はい。私共で良ければ。」
「じゃあ、早速なのですが、お名前を伺っても良いですか?」
私は昨日からお世話になっている人なのに、名前を知らない事が恥ずかしかった。
「ハレ。といいます。」
お茶を入れてくれた、彼女は一歩下がって答えてくれる。
長い黒髪で私より背が高く凛々しくもあった。
「ミレ。といいます。」
ワゴンを押していた彼女は私よりも小さく、年下のように見える。
そして彼女もセミロングの黒髪が美しかった。
「もしかして姉妹なんですか?」
「はい。」
ハレさんが答えてくれた。
「そっか~。ハレさん、ミレさん。今日もよろしくお願いします。」
私はもう一度、二人に挨拶をした。
二人も同じように微笑みで応えてくれた。
「果物はお召し上がりになりますか? 朝食の時間が後1時間ほどで支度できると思いますので入浴を先に致しますか?」
「そうね。先に入浴をお願いします。」
「はい。」
私はカップのお茶をもう一度飲み干して、モカをおこしにベットに向かった。
ハレさんとミレさんはテーブルを片付けている。
「モカ。朝だよ。」
すやすやと眠るモカを私は持ち上げて軽く揺すってみた。
「ん~。ふぁ~。…おはようごさいます。」
目をパチっと開けたモカは、パタパタと私の手から浮かび上がった。
「おはよ。モカ。今からお風呂行くから一緒に行ってくれる?」
私の肩辺りに浮遊しながら、モカは返事した。
「なお。お腹空いたです。」
「だと思った。」
私はモカを抱き寄せて、
「後でね。」
扉のところで待機しているハレさんとミレさんに目線を移して、私は二人に連れられて入浴場に向かった。
モカはまだ半分寝ているのか、私の腕の中でウトウトしていた。
私は歩きながらハレさんに色々教えてもらった。ミレさんはあまり喋らない子みたいだった。
入浴場は、部屋と同じ階にあり、いつでも入れると。
昨日はルミナさんの部屋から戻ってすぐ寝たので、ハレさんが扉越しに声を掛けてくれてたけど、返事が無かったので就寝と判断して、業務を終了したと。
メイド業務は朝から就寝するまでの時間、扉の外か中で待機していると。
「昨日はごめんなさい。何も知らなくて困らせたみたいで。」
私は二人が外で待っていてくれた事に謝罪した。
「いえ。お気になさらないでください。」
当然の答えが返ってくるのは判っていたけれど、私の気持ちを伝えたいと思った。
この階層は親族のみの場所なので、今はルミナさんとティオと私の3人だという事。
(嬉しい扱いなんだけど、いいのかな~。でも嬉しいかな。)
白い扉を開けた二人の後を私は追いかけていった。そこは、天井も壁も白い石で囲まれている部屋だった。奥に同じような白い扉がある。
「あの扉の奥が浴場となっています。着替えはここで受け取りますので、そちらの仕切り布の奥でお願いします。」
ハレさんが私に説明している間に、ミレさんはどこかに行ってしまった。
「新しいドレスをご用意しますので、なお様は入浴を。」
「ありがとう。」
私は布の奥に入り、腕の中で寝ているモカを起こした。
「モカ。この石持っててね。」
胸から取り出した宝印石を、目を覚ましたモカと一緒に近くにあったテーブルの上に置いた。
「はい。任せてください。」
モカはそう言うと石の上に座り、少し胸を張った(ように見えた。)
私はモカの頭を撫で、ドレスを脱いで、浴室の扉を開けた。
(やっぱり広い~。)
誰も居ないその浴室は暖かい湯気が部屋一杯に満たされていた。大きな浴槽と、その隣には、仕切りになっている壁から滝のように流れ落ちているお湯があった。
(シャワーがわりに使っていいのかな? 桶とかないし…)
「なお。おはよう~」
入口からティオが突然入って来た。
「私も入浴しにきたよ。」
何故か嬉しそうに手を振ってる。
「おはよう。ティオ。丁度良かった。お風呂の入り方、判らなくて困ってたんだよね。」
「ん? 普通に足から入ればいいと思うけど?」
「いや、そうじゃなくて、体の汚れはどこで洗えばいいのかな?」
「あぁ、そう言う事ね。そこの落ち湯で洗い流すの。」
そう言ってティオは、私がシャワーがわりに使おうと思っていた場所で体を洗い始めていた。
「やっぱりそこでいいのね。ありがとう。」
私はティオの横で同じように手で体を洗った。
(石鹸はやっぱりないのか…)
「ねぇ、ティオ。体洗うときに使う洗剤とか無いの?」
「洗剤? ちょっと、待っててね。」
ティオは少し離れた石棚に飾ってある花瓶から、ソフトボールより少し大きい綿みたいな物を持ってきた。
「これ、花の綿なんだけど、体の汚れ綺麗に取ってくれる。あといい香りもするよ。」
手渡されたそのふわふわした綿を私は体に擦ってみる。
「本当、いい香りがするね。それにこの感触も気持ちいいよ。」
「ティオは使わないの?」
隣で髪を洗っているティオに聞いてみた。
「私は昨日寝る前に入浴した時に使ってるので、今は軽く流す程度でいいのよ。先に行ってるね。」
そう言ってティオは浴槽へ歩いて行った。
「そっか。」
洗い終わってティオの待つ浴槽に私も入った。
「ティオ。このお風呂ってずっとお湯があるの?」
「そうよ。地下水に火の魔法石でお湯に変えてるって聞いてるよ。」
「へぇ~そういう魔法もあるのね。」
湯に寝そべる形で浸かっているティオに私は聞いてみた。
「もしかして、私がここに居るって聞いて、来てくれたの?」
「もちろん。」
そう言ったティオは私の隣で座った。
「ティオ。ありがとう。」
私はとても親切で、気の利く彼女がもっと好きになった。
私達は、一緒に脱衣所に戻り、待機していたメイドさん達から、新しいドレスを受け取った。
私はハレさんとミレさんに着付けてもらい。ティオはティオの部屋で見かけたメイドさん達にやってもらっている。
(メイドさん何人いるんだろう…専属なんだよね…)
「モカお待たせ~。」
私はテーブルの上で座っているモカを迎えにいった。
「寝ないでちゃんと待っていたです。」
「えらいね。」
モカを抱きしめて、私は宝印石を下着の隙間に入れた。
ティオの所に戻ろうとすると、モカは浮き上がって私の隣をついてきた。
「なお、お腹空いたです。」
「私も。」 私達は、すこし笑いながらティオのところに行った。
私達が戻るとメイドさん達は扉からこちらに向かって会釈して通路へ戻っていった。
「なお、朝食の準備出来てるはずだから、一緒に行きましょう。」
ティオの言葉にモカと私は元気な返事をする。
「お腹空いたよね。私も。」
ティオはそう言って笑いながら私の手を引っ張った。
駆け出しそうな勢いで私達は部屋を出た。
夕食と同じ部屋に入った私達は席に着いているルミナさんに挨拶をした。
「お母様。おはようございます。」
「ルミナさん。おはようございます。」
「えっと、おはようです。」
椅子に腰掛ける私達とテーブルに座ったモカを待って、ルミナさんは挨拶を返した。
「みなさん、おはよう。なおさん、よく眠れましたか?。モカさんも元気そうですね。ティオは珍しく早起きでしたね。」
ルミナさんは、とても嬉しそうに、微笑みを浮かべている。
「お母様…」
ティオが拗ねた素振りで答えていた。
「それでは、食事にしましょうか。」
料理長が挨拶をしてメイドさん達が料理を運んできてくれた。
(これ、朝からフルコースなのね。お昼ご飯無いからなのかな。)
昨晩の食事で、モカの為の料理も別に作ってくれていたので、私はモカの取り分けを、しなくてよくなっていた。
「モカ。良かったね。」
「はいです。」
モカも私の取り分けを待たなくていいので嬉しいそうに食べていた。
雑談を少し交わしながらの朝食は楽しく、1時間ほど時が流れた。
「なおさん。宝印石は持ってますか?」
私は昨日と同じで胸から石を取り出した。
「今日、専属の装飾師にネックレスにしてもらいますので、預かってもよろしいですか?」
「はい。お願いします。」
私は石を向かいに座っているルミナさんに手渡した。
「それと、服も仕立てますので、後で採寸をしますね。」
「この後すぐですか?」
(食べ過ぎて、お腹が…)
「はい。今日はティオと外出すると聞いているので、時間的にそうなりますね。」
「そうですね。はい。よろしくお願いします。」
私はお腹をさすって覚悟を決めた。
となりのティオがそんな私を見ながら、
「じゃ、早速、私の部屋行きましょう。」
顔は笑っていた。
「お母様。それでは、外出の準備もあるのでお先に失礼しますね。」
「気をつけて、町の人達に迷惑を、かけないようにするのですよ。」
「はい。分かっています。」
ティオに急かされるように私は席を立った。私はルミナさんに会釈してから、モカを連れてティオと共に部屋を出た。
私が使っている客室の前にはメイドが二人立っている。ハレさんとミレさんだった。
「なおは、私の部屋で採寸するので、一緒に来てね。」
私は二人に頭を軽く下げた。
二人のメイドは私達に会釈したあと、後ろを付いてきた。
ティオの部屋の奥部屋で私はティオと二人で今日の服を選んでいた。モカはティオの部屋のソファーで寛いでいる。
ハレさんとミレさんがティオのメイドさん達と混じってドレスの準備をする。
私は昨日着たドレスと同じような上下に分かれた白いドレスにした。ピンクの刺繍が可愛かった。
(普段、こんな可愛いの着れないから、一度着てみたかったのよね。)
採寸を済ませ、私は選んだドレスを着た。
ティオは薄い水色の足首まである、長いワンピースを選んでいた。首元から胸にかけての銀色の刺繍で大人っぽく感じた。
「ティオ、なんか大人に見える。」
着替え終わったティオが少し背伸びをする。
「そう?」
答えたティオの顔は満足そうな笑みを浮かべていた。
「なおも、とっても可愛いわよ。」
「でしょ。」
私も負けじと胸を張ってドレスをひらりとさせた。
少しの間の後、二人の笑い声が部屋に広がっていた。
メイドさん達に挨拶をして、ティオの部屋に戻った。
私とティオを、ソファーの上で寝ているモカが出迎えてくれた。
「やっぱり寝てたか。」
私はモカを抱き抱えた。
「そうね。」
ティオが笑みをこぼしながら答える。
「それじゃ、準備も終わりましたし、出かけましょう。」
寝たままのモカを抱きながら、私はティオと部屋出た。
扉の外には鎧姿のハミルさんが待機していた。
ティオはいつもと同じ仕草で軽く挨拶をして、ハミルさんも一礼をしていつも通り、後ろから付いてくる。
そんな普段通りな二人を見て私はちょっと楽しい気持ちになった。
腕の中のモカが目を覚ます。
「なおぉ…」
私はまだ寝ぼけているモカの頭を撫で、「楽しみだね。モカ。」
「はいです。」 モカは私の腕から浮かび隣にいるティオに挨拶をした。
中庭に出ると、昨日の騎手さんと馬車が待っていた。
城門をゆっくりと馬車が越えていく。太陽が暖かい光を降り注ぎ始めた午前の町は、活気に溢れた人達の声で賑やかだった。
子供のように、はしゃぐ私を見て、ティオが嬉しそうに笑っている。
「だって、しょうがないよね。楽しいんだから。ね。モカ。」
「はいです。」 ふわふわ浮きながら窓の外を見ているモカも見るだけで嬉しそうなのが判った。
ティオはお姫様モードで、手を振る人たちに窓越しから応えていた。
「そうね。最初に海まで行きましょうか。」
ハミルさんが騎手さんに伝えて、馬車は町の東端の港へと、少し速度を上げて馬車を進めた。
「モカ。海だよ。」
「はいです。」 嬉しさいっぱいの返事で,私の気持ちはまた、嬉しくなっていた。
馬車は商店街を抜け、馬車や荷車が行き交う石畳の大きな街道に出た。
下り始めた丘の先、白い街並みの向こう側に輝く青が見えていた。
ハミルさんがお姫様モードのティオをじっと見つめていた。
「ハミルさんは、いつからティオの護衛になったんですか?」
いきなりの質問に当の本人よりもティオが驚いていた。
「ちょっ、え、なに?」
「なんでティオが驚くのよ。」私は慌てている姿を見て、笑ってしまった。
「はい。」ハミルさんが少しゆっくりと話をしてくれた。
「15歳で騎士の学校を出た私は、討伐部隊で3年ほど務めました。その後に、ティオ様の護衛騎士になりました。なので、3年前になります。」
(3年か~てことは、ハミルさん21歳なのね。)
「お姫様の護衛職に就くなんて、凄い事、ですよね?」
ティオが話しに割って入ってきた。
「そうなの。凄いのよ。 騎士の昇級試験で満点取ったの。18歳の時に、最年少記録だって言ってたわ。」
ティオの説明で少し照れているハミルさんを、私は見逃さなかった。
「やっぱり、ハミルさんは凄いんですね。 その昇級試験で満点取らないとティオの護衛は出来ないんだよね?」
今度はハミルさんが答えてくれた。
「はい。それが最低条件です。あとは騎士団長の推薦や王妃様の判断で任命されます。」
「そっか~。そうなんだ~。」
(あとで詳しく、ティオに聞こっと。)
なにかそわそわしているティオが可哀想になってきたので、私は話を止めた。
丘を下った馬車は住宅街を抜け、畑や果樹園が広がる景色の中にいる。
緑の香りと暖かい風が心地よく、私は絵画のような風景に吸い込まれていった。
馬車の速度がゆっくりとなり、前方に大きな港が見えてきた。
「モカ。港が見えるよ。」
「港です?」
「そう。船とか捕った魚とか、色々集まる場所よ。」
モカがそわそわして、港を一生懸命見ているのが可愛かった。
馬車は港を横目に、浜辺に続く街道を進んでいる。私とモカは港に見える大きな帆船に目を奪われいた。
「帆船見るの初めてだよ~。すごい大きいね。モカ。」
私はずっと外ばかり見ていた視線をティオに向けた。
「ごめんね。ずっと外、見てばかりだったね。」
「そんな、なおを見てるのも、楽しいからいいのよ。」
お姫様モードからすでに戻っていたティオに気づいて私は、ティオと話をすることにした。
「ねぇ。ティオは、あんな大きな船に乗ったことある?」
「毎年1回はここからさらに東にある水の都市『リエムリル』に行くから、その時にあの船に乗せてもらうのよ。」 そう言ってティオは港にある帆船を指差した。
私は「あれに! いいな~。」っとため息まじりで、帆船を見直した。ティオが話を続けた。
「今、あの船には水の姫巫女、エリオナっていう少女が乗っているはずよ。月礼祭の来賓に呼んでるからね。」
「そっか。祭りがあるんだよね。だからこんなに賑やかなの?」
馬車の窓から見える港は沢山の荷車や人々が忙しなく働いてる。よくみると兵士らしい鎧を着た人たちも沢山いるのが見えた。
「うん。沢山の人達がこれから月礼祭にくるから町は準備で大忙しだよ。」
私は、ティオの横にいるハミルさんの鎧姿を見て、思った。
「ティオもハミルさんも忙しいんじゃないの?」
ティオがハミルさんの顔を覗き込むように見つめながら。
「私は月礼祭が始まればそれなりに忙しいけど、それまではいつもと変わらないわよ。ハミルも私の護衛が仕事だから、いつものことだよね。ね?」
そういってティオはハミルさんの返事を待っていた。
「ええ。いつも通りの任務ですし。問題ありません。」
「そっか。ほんとありがとね。ティオ。 ありがとう、ハミルさん。」
モカはずっと外の景色を見ていた。
「なお~。 海が見えるです。。変な、においがするです。」
潮風が馬車の中まで入ってきた。
「海のにおいだよ。もうすぐだね。」
窓の外には海が広がっていた。
馬車は、砂浜の入り口で止まった。騎手が扉を開けて私達は海まで歩いていく。
手を差し出したティオ。ハミルさんが自然にその手を取って砂浜を二人で歩いていく。
私は少し早足で、波打つ浜辺にモカと二人で向かった。
「モカ。海だよ。」
「はいです。」
ふわふわと私の前を飛んでいくモカは逸る気持ちを抑えるように、時々円を描くように私が追いつくのを待っている。
(ほんと、嬉しそう。よかった。)
後ろにはゆっくりとティオとハミルさんが散歩しているのが見えた。
(ティオも嬉しそう。)
私はモカと波打ち際で海を見ている。
「モカ、海はどう?」
モカはふわふわと、波の上を越えて海面を覗いている。
「すごいです。」
「でしょ。海はすごいよね。」
私は目の前の海と空を、ただ、見つめていた。
(私は…どうしたいんだろう…)
モカはずっと海を覗き込んでいる。いつのまにか、ティオが私の隣に立っていた。
「なにを見てるの?」
私は視線を変えずに、笑みを浮かべてティオに答えた。
「…私の世界かな。」
「なおの住んでた世界のこと?」 ティオも海に向かって話している。
「ううん。そうなんだけど。ちょっと、ちがうの。」 私はティオに笑いかける。
ティオがすこし困惑した表情をしていたのを私は続けて答えた。
「私のやりたい事、なりたいもの。…かな。」
私は背伸びをしてもう一度、海をみた。モカが楽しそうにしている。
「まあ、悩んでもしょうがない、ことなんだけどね。」
ティオが私の視線の先を追った。
海と空との境目は太陽に照らされて白く輝く線となっていた。
私はティオに笑顔で返して、大きな声でモカを呼んだ。
「モカ~。そろそろ行くよ~。」
「はいです~。」
私とティオは、馬車の所で待っているハミルさんに手を振って、少し走りながら浜辺を後にした。




