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銀の月  作者: 紅花翁草


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10/30

ミレナの加護 2

 私は改めて部屋を見渡した。

 部屋の奥は大きな窓があり、夜空が見えている。天井には大きなシャンデリアが二つありそのシャンデリアの石一つ一つが光っている。


 入ってきた入り口近くの壁に、もう一つ扉があった。

(派手じゃないって言えばそうなるのかな? でも私にとってはおっきいのよね。)


 田舎者視線で見渡していると開かれいる扉からルミナ王妃が私達と同じようなドレスで入って来た。白1色でまとめられたドレスで胸元には綺麗なネックレスが光っている。

 執事さんが椅子を引き、私達の前にルミナさんが笑みを浮かべて腰を下ろした。


「おまたせしました。それじゃ食事をしながら会話を楽しみましょうか。」

 そう言うと執事が入り口近くにあった扉を開けた。いつの間にか入り口の扉は閉ざされている。


 いい匂いと一緒にコックさんらしい男性がワゴンを引いてルミナさんの所に来た。執事さんも奥から別のワゴンを引いて、私とティオの後ろに戻ってきた。

 ほどなく食事が並べられる。

 ルミナさんとティオが片手を胸に当て、目を閉じたので、私も真似をした。モカは膝の上でずっとまっている。


「では、いただきましょう。」

 ルミナさんの言葉で私は目を開けモカに小さな声で

「モカ。おまたせ。」

 そういって私はモカをテーブルの上に下ろす。

 ティオが執事さんにお皿を1枚用意させていた。

 私はティオにお礼を言って、モカの前に皿を置いてくれた執事さんにもお礼を言った。

「モカ。食べたい物、言ってね。切ってあげるからね。」

「うん。それほしいです。」 ナイフで小さく切り取った料理をモカのお皿に置いた。

 それから、私もお皿に並んだ美味しそうな料理を口に運んだ。

「おいしぃ。」 誰と無く笑みをこぼして、私は目の前にある料理に感動していた。

「でしょ。料理長の腕が良いからね。」 

 ティオが誇らしげに私の視線をルミナさんの奥にいるコックさんに移す。


 料理長だった男性が、私に深いお辞儀をしているのが見えたので、顔をあげた料理長に私は笑みを返した。

 ワゴンに乗っているすべての料理をテーブルに並べた執事と料理長は調理場の部屋に戻り、扉を閉めた。


 部屋には私達3人とモカだけになった。

 ルミナさんが料理を取り分けながら私に話しかけてきた。

「なおさんの世界ってこことは、随分違うのでしょうね。」

「私もその話。楽しみだったのよね。」

 ティオがまだ口の中に料理を残したまま、私の方を見ている。

 ルミナさんがそんな姿のティオを呆れ顔で見ている前で、私はモカに頼まれた料理をお皿に取りながら『はい。』と答えた。


 私は少し料理を口に運ぶのを遅くして、自分の世界をゆっくりと話した。

 最初は似ているところから話す事にした。その方が伝えやすいと思ったから。

 海・大地・空・太陽は大差なく、沢山の文化がそれぞれの国を作っていて、このオルトリアスの文化と似ているヨーロッパ地方の話を私の知る限りで喋った。

 そして、ちょっと違う、月の話から食べ物、動植物の事。そこから、全く違う【機械文明】の話になっていく。

 

 ティオはそんな会話をおとぎ話や伝説を聞く子供のように色々判らない所を聞き返してくる。

 それとは対象的にルミナさんは真剣な顔をしていた。

 私は食事と会話が楽しくて、沢山の事を話していた。

 料理のほとんどを食べてしまって手が止まった私に、ルミナさんがティーポットからカップにお茶を注いでくれた。


「なおさんの世界は試練などなく、過ごし易いのかしら?」

 ルミナさんのその言葉で、私は、私達の世界の争いや競争。壊されていく世界の話をした。

 そして、私は素直にその問いに答えた。


「大きな争いから、自分の生活のための争い、競争がありますが、その中で小さな幸せも沢山あるので多分、この世界の人達が感じている気持ちと変わらないと思います。」

 ルミナさんが少し笑顔になって「そうね。それが人が願う、幸せかもしれませんね。」

 

 3人とも食事を終えてひと段落したので、モカに果物を切り分けて私は胸から宝印石を取り出した。

「なお! それって、どうしたの?」

 ティオがびっくりした声で私の顔を見てきた。

「銀竜ナセラさんから貰ったの。」

 なぜかルミナさんもちょっと驚いている顔をしていたのが見えたので変に思ってルミナさんに同意を求めたら。

「なおさん。そんなところにしまってたの?」

(そっちでびっくりしてたのか~。やっぱり、ダメだったのかな?)

 私はちょっと照れながら「しまう場所がなくて…」

 ルミナさんが笑みをこぼしながらティオに説明してくれた。

「なおって本当に、何者なの?」

 ティオが呆れ顔とも困惑顔とも分からない顔でわたしを見てくる。

「さぁ~。私にもよく判らないのよ。」

 その言葉でティオが笑い声を出しながら、私に手を差し出したのでそっと宝印石を渡した。

 まじまじと観察したティオは私の手に石を戻す。

「まだ、使ってないのよね。中、何が入ってるの?」

「うん。」と私は答えて、

「あっ。この宝印石って誰でも使うこと出来るの?」

 今思いついた疑問を私は尋ねた。


その問いにルミナさんが答えてくれた。

「ふつうは、ただの宝石に本人が魔力を注いで宝印石にして、そこに入れたい物を入れるのです。そして、その魔力に反応して取り出したり入れたりするの。だから、本人しか使えないの。たぶん、ナセラ様は、なおさん専用に作ったと思いますからたぶん、なおさんにしか使えないと思います。」


「魔力ない私なのに?」 

 私は宝石を眺めながら聞いてみた。

「ええ。魔力って本質はその人が出しているオーラなので魔力まで高めなくてもその波長さえ読み取れればいいのです。ナセラ様なら簡単な事ですし。その波長と同じ魔力を作って宝印石を作ったと思います。」


 私はその言葉で納得した。

ルミナさんが続けて、

「後で私の部屋で試着してみましょうか。」

 その言葉を聞いたティオが「私も行っていいのでしょ。」と自分の母親に強請っていた。


「もちろん。それと、この事は、他の人には絶対に禁句としますから。」

 ティオが乗り出しそうな格好のまま私に向かって

「そうよね。そんな事が知れたら、国の存続に関わってくるかもね。」

「えっ? やっぱり、これって、もの凄い事なの?」

 私はちょっと小さな声でティオに聞き返す。

「もちろんよ。」 真剣な顔でティオが答えて、そして少し楽しそうな顔になっていた。


 モカが私の膝の上に戻ってきた。

「もう。おなかいっぱいです。」 眠そうな声でモカが私の膝の上でゴロゴロしている。

「食べすぎだよ。」

 私はモカの鼻先を突っついて笑った。

 ティオもルミナさんも笑っていた。


「それでは、私の部屋に行きましょうか。」

 そう言って、ルミナさんがテーブルに置いてあるベルで執事を呼び、私はティオと一緒にルミナさんの部屋に向かった。

 モカはもう、私の腕の中で眠っていた。


 ティオの部屋と階段を挟んで、反対側になる部屋がルミナさんの部屋だった。

 食事部屋を出るとルミナさんとティオのメイドさんが待機していたけど、ルミナさんが支度部屋に戻るように言ったので、ルミナさんが部屋の扉を開けてくれた。


 王妃様の寝室はティオの部屋よりすこし広く、扉が2枚あるけど、部屋の感じとしてはティオの部屋とあまり変わらない感じだった。違う所は、いくつかの絵が壁に飾られている。


 風景画ばかりの中、一つだけ男性の肖像画があった。

 私は素直にその絵を見ながら聞いてみた。

「この絵ってティオのお父さん?」

 ティオが私の前にきて話してくれた。

『そうよ。でも、私が生まれるちょっと前に死んでしまって…』

 ティオの言葉が詰まる。


 私は「そっか。」 と肖像画を眺めているティオの後ろ姿に答えた。

 ルミナさんもすこし寂しそうな顔をしていた。

 ティオが振り向いて聞いてきた。

「ねぇ? なおの両親はどうしてるの?」

 私は真っ直ぐティオを見て

「私がまだ赤ちゃんの時、火事で亡くなったの。私はたまたま、お祖母ちゃんの所にいたから。」

 腕の中で寝ているモカをそっと抱き寄せて私は続けた。

「寂しいけど、幸せだと思ってるの。強がってるかもしれないけど、笑顔をくれる人達が私を見ていてくれるから。」

「そうね。」 後ろからルミナさんが優しく肩を撫でてきた。


 それから、すこし声を高く、はっきりとした口調で、ルミナさんが喋る。

「それでは、宝印石をつかってみましょうか。」

 私はその言葉に「はい。」と答えて、モカをソファの上にそっと置いた。

 ティオも私の側に寄ってきて手の中の石を眺めている。

 私はルミナさんに言われた事を思い出して、上着とスカートを外した。

「ドレスも外した方がいいかな?」

 ティオもルミナさんも「その方がいいかも。」と答えので、私は下着姿になった。

(ちょっと、恥ずかしいな。)


「えっと・・・どうすれば服出るの?」

 私は手に持った宝印石を眺めながら尋ねた。

 ティオが手の宝印石を人差し指でそっと触れる。

「こうやって、どこでもいいから手の指先を当てて、パンって言葉を念じれば良いの。」

「パン?」 

 私は食べるパンを思い描いていた。

 ティオが可笑しそうにしている。

「そのパンじゃなくて、発音は弾ける音のパンって感じでね。」

 ティオは指先を引いて少しだけ後ろに下がった。

 

 私は手の中の宝印石を包むように持って心の中で念じてみた。

(ぱん!)


 宝印石が光ったと感じると、私自信も光の中に居る感覚に襲われた。

 光は一瞬で消え、私は体に付いた重々しい装備品を見つめる。


「何これ…服じゃなくて…鎧だよ…」


 ルミナさんとティオに視線を戻すとビックリした表情で私の格好を見ていた。

 ルミナさんが私の側まで寄ってきて、目の前にある、白銀に輝き全身を包む鎧を品定めするような顔で覗き込む。

「これって、もしかして…ミレナの加護って言われる鎧かしら。」

 ティオが鎧の肩当を触っている。

「それって、月の精霊ミレナ様が唯一、人に与えた神具の事?」

 私はその言葉を聞いて驚いた。

「なんでそんな物を私なんかに?」 

 ルミナさんとティオに私は問いかけた。

「銀竜ナセラ様の真意は判らないけど、なおさんには最適な防具なのは確かですね。」


 ルミナさんが私の手を取ってそっと持ち上げた。ダンス相手の手を取るかのように。

「これはまだ魔法に目覚めていない、四界の時代の月の巫女に与えた防具で、なおさんみたいに魔法が使えない人用って事になるの。内なる魔力を増幅させて、この鎧を媒介に魔法を使う事が出来るのです。もう伝説の物だと思っていましたが。」

 

 ティオが鎧のあちこちを触っては溜め息を付いていた。


 

 私は体の殆どを覆っている白銀の鎧を確かめるように眺めた。

 肌が見えているのは首から胸元辺りと腰辺り。太ももの上の辺り。あとは関節の部分だけだった。よく見るとスカートのようになっている腰下の防具は数枚のバラバラな構造になっていて、足を上げたりすると、その部分だけ動きに合わして可動するので、今の格好だと下着が見えてしまう。

 私は「う~ん。」 と悩みの溜め息を付く。

 

 ルミナさんも少し悩んでいた。

「長いふわっとしたフレアスカートと、足にはこの鎧にあう靴を。上の服は体のラインに合わせたドレスのような感じで作ればいいかしら。素材は銀礼の神官と同じのを使って。そうね、綺麗な刺繍を施して、少し宝石も付けてみるのもいいかしら。」


 ティオもルミナさんの考えに賛同したらしく、「うん。うん。」と相槌を打っている。

「それと、なおさんがこの鎧を人前で着けたとしても、誰もミレナの加護だとは思わないでしょう。」

 ティオが私の姿をもう一度確認すると。

「それもそうね。」

 私とティオは顔を見合わせながら笑い合っていた。

「これ、脱ぐのは…どうするの?」

 鎧の感触を確かめながらわたしは尋ねた。

「えっとね。モートって心の中で呟けばいいよ。でもちょっと待ってね。」

 ティオはそう言って、ルミナさんに言葉を渡した。

「そうね。その鎧にはもう一つ付いてる物があるのです。使うことは無いと思いますが。」

 少し考えた様子でルミナさんは私を見つめている。

「なおさん。手を前に出してギルディアンヌと声を出してみてください。」

 私は言われた通りにした。


 手の中から光が溢れ出し、光る長い棒が私の前に現れた。私はすぐ理解してその棒を掴んだ。

「これって…」

 光りが消えたその長い棒の先には想っていた物が付いている。

「槍?だよね…」

「はい。その鎧の武具『ギルディアンヌ』。 戦うための武器です。一応覚えていてくださいね。」

 ルミナさんは私の手を、両手で包むように握ってきた。私は銀色に輝く槍を見上げて答えた。

「はい。」と

「戻し方は、手の中に収納するイメージをすればいいはずです。やってみてください。」

 私の手の中にあった槍が泡のように消えていった。


 ティオが私の視界に飛び込んで来た。

「それじゃ、鎧を戻してね。で、明日は朝から街を案内するわね。」

「そうだった。楽しみにしてる。」

 私は下着姿からドレスを着直してルミナさまに挨拶をした。

「今日は色々お世話になりました。」

 ティオも続いて挨拶をする。

「お母様。おやすみなさい。」

 両手を胸に当て小さく頭を下げていた。


 ソファから寝ているモカを抱き上げて、私はティオと寝室に戻っていく。

「なお。また明日ね。おやすみ。」

「ティオ。今日は楽しかったよ。ありがとう。おやすみなさい。」


私はモカをベットの枕元に寝かせて、思い返す時間もないまま深い眠りに落ちていった。

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