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到着、シーザー……?

「ついた……な」

「う、うん。……ここがシーザーかぁ」

「素朴な村ね……」


 三人はシーザーに着いていた。藁の屋根が目立つ、簡素な作りの家が並ぶ村だ。近くには田畑があり、まばらに動物が飼育されている。


「僕、島から出たことなかったから皆ビンデルみたいな町だと思ってたよ」


 レバンが村を歩きながら言う。その言葉にエナも頷いた。


「私もティープ港からクレアフィーまでしか行ったこと無かったから……。なんと言うのかしら、文化的衝撃?」

「俺は王国だが、このくらいなら見慣れている」


 王子は複雑そうに眉を曲げ、微笑む。


「宿なんて無いよね……?」

「多分な」


 三人は村の中を見て周りながら話す。どうにも人の気配は少ないし、家の中には誰か居るのかもしれないが外には誰も居ない。かといって排他的と言う雰囲気も感じないので、本当に人が少ないだけなのかもしれない。


「……どうしよっか」

「最悪宿は無くてもいいが、食料が無くなりそうだ。ガファンの干し肉も、次の町までは持たないだろう」

「そうねぇ……」

「一旦全部訪ねてみようよ」


 レバンが試しに一軒、扉をノックしてみる。返事はない。


「中に人が居る気配は?」

「するような、しないような……。普通物音が鳴ったら少しは反応すると思うんだけど、それがないんだ」

「ふむ……」


 オルザースが隣の家をノックする。そこも返事がない。三人は諦めず一軒ずつノックして回った。

 すると、村の端にある家で反応が返ってきた。


「……はい」

「! 誰かいたよ、どうする?」

「どうするも何も、とにかく話をしてみるしかないだろう」


 中から聞こえたのは男性の声だった。シーザーに来て初めての人の声に、レバンは表情を輝かせる。

 だがそんな彼の表情とは裏腹に、顔を出した男性は酷く暗い顔をしていた。


「……旅の人ですか」

「ああ、今困っていてな。食料か何か欲しい」

「オルザース、そんな言い方ダメだよ」

「私達、お金ならあるわ 。だから助けて貰えないかしら」

「……」


 男性は暗い表情で三人を見詰めた。


「お金なんて、今はいらない。僕は人助けなんてしてる余裕なんてないんだ……この村は君達を助けられないかもしれないから、次の町へ行った方がいい」 

「貴様誰に向かって」

「こ、困り事があるなら! 僕達が何とかします! 僕達は旅する何でも屋ですから!」


 血管をピクリと動かしたオルザースを慌てて止めるレバン。


「何でも屋……?」


 男はピクリと眉を動かした。そしてそれを見逃さなかったのはエナとオルザース。


「なにか困り事があるなら何だってするわ! だからお願い!」

「ああ、俺達ならどんなことだって解決してみせる。昨日は化身も倒したしな」

「化身を……!? それは本当に!?」


 畳み掛ける二人が頷くと、男は扉を開いた。


「入ってくれ。君達なら僕らを助けてくれるかもしれない」


 男に案内され、三人は扉を通る。家の中は見た目から予想されるように、簡素でキッチンとテーブルとベッドしかない。そして部屋を仕切るようにカーテンが一枚引いてある。


「そこは?」

「今は触れないでくれ。後で見せる」


 三人はそれぞれ椅子に座り、男も席についた。テーブルを囲んでエナ、レバン、オルザースと男性の円型に座っている。


「僕はヒルギ。この村は今、僕ら以外眠ってしまっている」

「僕ら?」

「奥に妻が居るんだ。そのカーテンの向こうにね」

「そうなんだ……」


 ヒルギと言う男性は、先程よりは明るい顔になっていた。彼は剃り残しの少しある顎を、右手で触りながら話す。歳は二十五から三十くらいだろう。


「話すと長いんだけど……。ある日シーザーに旅人が来たんだ。女の人でね。黒い髪が綺麗な仮面の女の人だった」

「仮面の女……」


 レバンはボソリと呟く。ふと左側を見るとエナも神妙な面持ちで彼を見ている。同じ事を思い出しているのだろう。


「仮面の女は酷く苛立っていたらしい。その様子を見た心優しい妻が声を掛けたんだ」


 とてもじゃないが栄えているとは言えないシーザー村だが、そこに住む人々は心が豊かな人ばかりだった。そしてその内の一人のヒルギの妻が、仮面の女に声を掛ける。


「その時僕は村の真反対で農作業をしていたんだけど。その女から紫の光が溢れだし、次の瞬間には村を全て覆っていた」


 男は顎を擦りながら、落ち着かない様子で続ける。


「僕が最後に見た光景は、倒れる妻とたくさんの村の人だった。僕はその後視力を失ってしまったから」

「っ……」


 レバンは唾を飲む。仮面の女にそんな力があるとは思わなかったが、あの時。もしクレアフィーでレバンらに襲い掛かっていれば、どうなっていたかわからない。


「村の人は眠り続けてしまい、僕は目が見えない。地獄のような日々が続いた」


 けれど、と彼は続ける。


「数日前にまた旅人が来た。目が見えないから姿は見ていないんだけど、少年と何人かの大人達だったと思う……。その彼が何と僕の視力と、村人の呪いを解いてくれたんだ」


 しかし、その旅人の少年が解いたのはヒルギの視力と村人の呪い。村人の方は半分しか解けなかった。つまり昼は眠り続け、夜にだけ活動できるようになったわけだ。


「それでも十分助かったんだが、僕の妻の呪いだけは一切解けなかった。いくつもの方法を彼は試してくれたそうだが、先を急いでいたこともあり解けないまま旅立ってしまった」


 だがその少年は一つだけ言葉を残していった。


「妻の呪いは、呪いではあるのだが一種の病気でもあると。だからその病気を治せる薬さえあれば、彼女を助けることが出来る、と」



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