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子供の落書きより酷い


「娘さんを僕にください、だとぉ!?」


 レバンは土下座していた。


「…………」

「悪いがダリウスの息子とはいえ、そう簡単にはやれん。これでも俺が男手一つで大事に育ててきたんだ」

「え、え」

「わかったなら帰れ!!! もう二度と家の敷居を跨ぐな!」

「ドナンさん……?」


 重ねて言うが、レバンは土下座していた。

 ライラック家へ帰り着き、ドナンに事の顛末を話した。話を聞き終えたドナンは、少年に椅子ではなく床に膝をついて正座するよう指示したのだ。


「なんだレバン」

「その、これの意味がわからないのですが……」

「わからないのか! 娘を嫁にもらうための通過儀礼じゃないか! 一度してみたかったんだ!」


 正座の後、手を床につくよう言われたレバンは、 そのままの体勢で首をかしげた。

 15歳の少年は今まで結婚や恋愛などと、まるで縁がなかったのだ。


「僕はエナを奥さんにしようなんてしてないです。あの、僕はいつまでこうしていればいいんですか、おじさん」

「おじ……お前にお義父さんと呼ばれる筋合いはない!!」

「呼んでないよ」

「いつまでやってんのよ、父さん」

「ん?」


 少女の声にレバンは顔をあげた。声の主はドナンの真後ろ。

 旅の準備を終えたエナだった。


「おお、エナ。今父さんがレバンがお前に見合う男か確認をだな……」

「そんなのいいから。悔しいけどレバンは私より強いし、弱点も補ってくれるんだから大丈夫。レバンも一人じゃ大変だろうし」

「いや僕は別に」

「大ッ変! だろうしね!」

「…………うん」


 エナの大声にレバンは空気を読んで黙った。15歳の少年は、そろそろ場の空気もわかるようになっているのだ。

 ドナンが少年に手を貸し、立ち上がらせる。


「冗談に付き合ってくれてサンキューな。お前がエナでも大丈夫だと思うなら連れていってやってくれ。エナもお前が気に入ったらしいしな」

「はぁ!? どこが!?」


 エナは大声で反応する。

 耳まで真っ赤にしていて図星なのだろう、とレバンは思ったが、自意識過剰は良くないと首を振った。

 思春期の彼はどれが自意識過剰でどれが本当に当たっているのかが、まだわからない。


「まあまあエナ。今は同じ年の男の子に素直になりにくいだろうけどな。でもいつか絶対に素直になっておけばよかったと思う日が来るんだ。だからあまりツンケンするな」

「例えそうだとしても父さんの言葉は認めない!!」


 言って、エナはプンと顔を背けた。


「さて、レバン。ここからどこへ向かうか決まっているのか?」


 むこうを向いてしまったエナの様子に笑いながら、ドナンはレバンに訪ねる。


「うーん」


 レバンは迷う。おとぎ話で大陸の塔の話は知っていたが、それが実際はどの辺りなのか、またどうやって行けば良いかを知らなかった。


「わからないならこれ、持ってけ」


 そういってドナンは少年に紙を差し出す。レバンが広げるとそれは地図。


「ダリウスが昔描いた大陸の地図だ。それがあれば、おおよその町の場所がわかるだろう」

「えぇ……」


 地図には子供の落書きのような丸い大陸と、汚い字で町の名前か何かが描いてあった。

 読む為に広げたレバンが引くくらい、地図とは思えない地図だった。


「あの、これ……」

「もうひとつセナンさんが描いた地図があるがどうする」

「母さんの方でお願いします!!!!」

「ガッハッハッハ!!」


 大声で笑いながらもう一つ地図を差し出すドナン。レバンはそれを受け取り、広げる。


「母さんの方だけ貰っていきます!!!」


 読んだ瞬間レバンは叫んだ。母の地図は精巧に描かれており、どこが通れてどこが通れないか。

 また、それぞれの町の距離感もしっかりわかるようになっていた。


「だろうな! ガッハッハッハ!」

「父さんのはダメだ……。それよりドナンさんは何で父さん達の地図を持ってるの?」


 あぁ、と頷くとドナンは真面目な表情に戻る。


「地図自体はお前の父親と母親が旅の途中に描いていった物だ。そしてヨーナリー島に帰るとき、二人は俺に預けたんだよ。もう使わないからと」

「へぇ……」

「俺のほうが大陸に行くことが多いからってのもあるがな! 毎日魚じゃ飽きるからよ! たまには大陸の肉を買いに行くんだぜ!」


 そしてまたドナンは豪快に笑う。レバンもつられて一緒に笑った。

 ひとしきり笑ってからレバンは訊ねる。


「この地図で見れば次は……クレアフィーホーダーってところが一番近いの?」

「そうだな。クレアフィーホーダー、通称クレアフィーの町が南に行けば割りとすぐにある。肉が美味いぞ」

「そっか」


 ドナンが頷くと、少年は地図を閉じた。そして途中から二人をただ見ているだけだったエナに声をかける。


「エナ! まずはクレアフィーに行こう! そこで美味しい肉を食べよう!」

「……そうね。行きましょう」


 エナはわざと気だるそうに言ったが、口許は嬉しそうに緩んでいたのを少年と父は気付かなかった。


「さて、とりあえず出発は明日にしておけ。レバンは特に今日は疲れただろうから、空いてるベッドで寝ていけ」

「いいの!? ありがとう!」

「おう!」


 そして次の日、レバンとエナは荷物をまとめ、朝日より早く出発した。





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