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チョコレイトディスコ④

「お兄ちゃん、ご飯できたよ!」


 セナの声で俺は目を覚ました。いつの間にか寝てしまってたらしい。


「あれー?お兄ちゃんいないの?入るよー?」


 ガチャっとドアを開けセナが俺の部屋に入ってきた。俺は慌てて、まだ顔に感じる涙のあとを拭いた。


「お兄ちゃん?もしかして泣いてた?目、赤いけど......」


 しまった。寝ぼけていた。まだ顔を見せるわけにはいかなかったんだ。ここで俺が泣いていることが妹に知られれば、学校でなにかあったと悟られる。


「いやー、なんか怖い夢見ちゃってさー。ちょっと顔洗ってくるわ!」


 俺はすぐに顔を手で隠し、急いで洗面所に向かった。あ、ちょっと!、と妹が言っていたが無視した。

 冷たい水で顔を洗い目の赤さもだいぶ落ち着いた。さっきは無視してしまったが、絶対に怪しまれているだろう。飯の時が勝負だな。俺は意を決して食卓へ向かった。


「今日はねー。セナ特製ハンバーグなのです!お兄ちゃん、ハンバーグ好きだったでしょ?さあ、食べて食べて!」


「お、おう!うまそうだな。い、いただきます」


「はーい、どうぞー」


 俺は勢いよく食べ始めた。さも食べるのに集中してます。と言う感じで。

 なにを聞かれるかとかなり構えていたが、セナはいつもとなにも変わらなかった。いや、ひとつ変わっていたと言うかビックリしたのは、夕食に俺が好きなハンバーグが出てきたことだった。

昨日まではカレーを作ると言っていたのに、突然のメニュー変更。

やっぱりセナはなにか感づいている。


「お兄ちゃん、学校でなにかあった?」


 急に核心に迫る質問を投げかけられた。俺は口いっぱいに頬張っていたハンバーグをノドに詰まらせ、水で流しこんだ。


「な、なんでそんなこと聞くんだ?」


 恐る恐る聞いた。


「お兄ちゃんが公園のブランコで座ってた時から、なんか悲しそうな顔してるんだもん。さっきは泣いてたし」


 公園で俺はそんな顔をしていたのか⁉︎多分、声をかける前に俺のことを遠くから見ていたんだろう。


「そ、そんなことないよ。ちょ、ちょっとセンチメンタルな気持ちになって見たかっただけさ。俺も思春期の高校生だからな。思うところはたくさんあるもんだぜ」


 我ながら苦し紛れとはいえ、いい理由を思いついたと思った。


「お兄ちゃんがセンチメンタルな気分になってるとこ今まで見たことないもん。昨日まではあんなにはしゃいでたのに、絶対おかしいと思うのです。何があったの?」


 ダメだ。妹は騙せない。もう言った方がいいのか?いいや、妹にイジメられてるから助けてなんて兄として言える訳がない。


「................................................」


 俺はだんまりを決め込んだ。

 これでは何かあったと言っているようなものだ。

 しかし言葉として発しない以上、俺に何が起きているのかは絶対にわからない。

 少しの沈黙のあと、セナは口を開いた。


「もう、強情だなー。わかりました。もう聞かないのです。お兄ちゃんが言いたくなった時に言って。セナがいつでも相談にのってあげるね」


「............なんで?」


 俺はセナの優しい言葉に疑問をいだいた。


「なんでセナはお兄ちゃんのことに首を突っ込んで来るんだ?これはお兄ちゃんの問題なんだから、セナは関係ないだろ⁉︎」


 妹を、俺の心配事に巻き込みたくない一心だった。言い切ったあとに、下をうつむき後悔した。心配してくれているセナにひどい事を言ってしまった。泣き虫のセナのことだ、涙を流していることだろう。と、顔を上げてみると、セナは笑っていた。


「そんなことないよー。セナとお兄ちゃんは、二人しかいない家族なのです。家族が辛いときには、助けてあげるのが普通だって言ったのはお兄ちゃんだよ?今度はセナがお兄ちゃんを助けてあげる番なのです。それにね、セナはお兄ちゃんの悲しい顔は見たくないのです」


 俺も昔、そんなこと言ったっけな。妹の説得に心が動かされかけたが、ギリギリのところで踏み留まった。いや、妹の成長に感極まってしまいまた泣きそうだったので、食卓を飛び出し自分の部屋にこもった。セナは、もう待ってよー、と言っていたが部屋には入って来なかった。


 ーーーー俺はベッドに寝転び、さっきセナが言った言葉を思い出した。


『今度は、セナがお兄ちゃんを助けてあげる番なのです。』


 まさか、セナからそんな言葉が出てくるとは思いもよらなかった。

ーーーー俺達は二年前に両親を亡くした。

オヤジが経営していた会社が倒産し、莫大な借金が残った。それに耐えきれなくなったオヤジやオフクロは、当時住んでいた家で遺書を残し首を吊っていた。

第一発見者は妹のセナだった。

まだ中学生になったばかりのセナには、とても現実を受け入れることができなかったのだろう。


俺が家に帰るまで、セナは首吊り死体の前に力なく座り込み、死体(かあさん)に話しかけていた。


俺はすぐに救急車と警察を呼び、セナも病院に連れて行った。

それからセナは、あまりの精神的なショックのせいで入院することになってしまった。俺は病院に泊まりこみ、妹の回復のために全力を尽くした。しかし、完全に回復する前に強制的に退院することになってしまう。

俺達は住んでいた家もなくなっており、施設に入ることを勧められた。だが突然現れた父の弟と名乗る男に引き取られることになってしまった。

最初は優しい叔父と叔母だったのだが、ある日、両親の保険金が目当てだとわかった。目的がバレると、猫をかぶっていた叔父達は本性を表した。


俺達をまるで、保険金が入るまでの人質のように扱った。


保険金が入ってからは、もう出て行って欲しいとでも言うように辛くあたり始めた。俺はそれでも、家があるだけマシだと我慢できた。しかし精神を病んでいたセナは、あまりのストレスに自傷行為を始めてしまった。

叔父たちはそれを気味悪がり、一層セナを責め続けた。

俺はそんなセナを守るため、叔父達とセナをなんとか近づけないように努力した。

セナにも、早く元の明るいセナに戻ってもらえるようにいろいろと試していた。


ある日、俺がネットで見つけた高校生のラップバトルの動画をセナに見せると、みるみるうちにセナは笑顔になった。

それからは、セナと一緒にヒップホップの動画を見たり、CDを集め始めた。するとセナはどんどん回復していき、医師からも元の状態に戻ったとお墨付きをもらった。

まだ薬は飲んでいるが、一応、完全な回復と言ってもよいだろう。それから、セナの回復と俺の高校合格を機に、叔父達を説得し二人で新しい生活を始めることになり、今に至る。


 俺が中学生の時に影が薄かったのは、学校どころではなかったからだろう。セナも、自分のせいでお兄ちゃんが中学生活を楽しめなかったと思って、自己紹介を考えるときもあんなに必死に手伝ってくれたのだろう。


 ーーーーずいぶん考え事をしていたようだ。気がつくと、もう日付が変わっていた。

それにしても今日はセナに言いすぎた。昔のことを考えるとセナの気持ちもわかる。


セナに頼ってみてもいいのかもしれない。


とりあえずさっき言ったことを謝りに行こうと、俺はリビングへと向かった。

 リビングに行くと、電気は消えていたがテレビが付けっ放しだった。セナはソファに寝転んだままスヤスヤと眠っていた。テレビにはセナの好きなMC GANが映っていた。


 俺はテレビを消しセナに毛布を掛けてあげたあと、おやすみ、と言って自分の部屋に戻った。

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