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Ice cube④

「青井さん、例の男の動向を突き止めました。至急、こちらまで応援をお願いします」


「わかった。すぐに行く」


 そう言って私はあの路地裏事件の犯人、宗教団体の囮として動かしていた男が向かったと言う、寂れた廃工場へと足を向けた。


 ーーあの男の取り調べから、路地裏事件の被害者であり麻田の立ち上げた新興宗教団体による薬物事件の被害者家族。『薬師寺クリス』と言う少年がチョコレートと称する薬物を売っていると言う情報が入っていた。


 しかし私は、未だに信じられない。


 薬物のせいで妹があんなことにってしまったのに、その兄が薬物を売る側になるとは思えなかったのである。

 現に証拠は男の証言のみなので、うかつに彼を逮捕することはできないが、調べればいくらでも粗が出てきそうでもあった。


 まさかとは思うが彼もまた宗教団体と繋がりがあるのだろうか?


 いいや、ないだろう。そう信じたい。

 捜査に感情を持ち込むのは間違っているとはわかっているが、できればこの件は保留にしておきたい。


 そう、今は何よりも早く娘の仇を討つことが先決だ。


 囮の大男が釈放されてからというもの、毎日日替わりで刑事が張っていた。男の動向を確認するためだ。

 しかしあの大男は刑事の目をかいくぐり、週に一度の割合で姿を消すのだった。薬物中毒者のやることは一つしかない。薬を買いにいっているのだろう。


 それにしてもプロの刑事の張り込みが大男にバレている。なぜかはわからない。

 あの大男に刑事の存在を吹き込んだ奴がいるとしか思えないのだ。


 いつもどこに消え、何をしているのかを突き止めることが宗教団体の尻尾を掴む重要なカギになるはず、と言うのが私たち『新興宗教団体テロ対策本部』の出した決断であった。


 **************************


 ーー廃工場に到着した。外観はいかにも廃墟といった感じで、少しでも地震が起ころうものならすぐに倒壊しそうな雰囲気さえある。

 男を張り込んでいた刑事は先に中に入っているらしい。

 私もその刑事に合流すべく、廃工場の中へと足を進めた。


 中は外観から想像もつかないほどキレイだった。いや、これはキレイというより別世界のようだ。複雑に入り組んだ通路は全て白いタイルで形成されていてチリ一つ落ちていない。

 もしものために銃の安全装置を外して、構えながら通路を進んだ。

 あまりにも複雑なその通路は、分岐点を何度曲がっても中心部へたどり着けなかった。何か細工でもあるのだろうか?と、三度目の分岐点を曲がった直後のことだった。


「よくもクリスお兄ちゃんをたぶらかしてくれたわね。絶対に許さないんだから!あんたが死ねばクリスお兄ちゃんはボクだけのものになるんだ!」


 女の子が二人、そこにはいた。

 背の低いショートカットのほうが、なにやら髪の長い女の子を階段下の壁際まで追い詰めていた。

 ショートカットの女の子の手には包丁が握られている。

 こ、これはどういうことだ!


「君達!落ち着きなさい。まずは包丁を下ろして話し合わないか?」


 ひとまずショートカットの女の子を刺激しないように、優しく語りかけた。

 二人ともこちらに気づいたようだったが、一向に包丁を下ろす気配がない。

 よく見ると、髪の長い方の女の子は魔法使いが来ているような黒いローブを来ている。


「君はもしかしてあの時の!」


 そう、あの路地裏事件の事件現場で遭遇した、謎の女が着ていた宗教団体の制服そのものなのだ。

 私は下ろしていた銃を構え直し、その黒いローブを着た女の子に照準を合わせた。


「二人とも動かないでくれ。君たちは宗教団体テロ対策本部の重要参考人として署まで動向してもらう」


 黒いローブを着た女の子は、銃口を向けられていると言うのにうっすらと笑みを浮かべた。


「これはこれは、あなたが噂の青井さんですね?初めまして」


「うるさい!黙れ!あんたどういう状況かわかってんの?ボクから包丁で刺されるかもしれないって時に、銃まで向けられてんのよ」


「あなたが私を殺すですって?無理にきまってるじゃない。うん、絶対に無理。あんまりこの件に深入りしたら、あなたもタダじゃすましませんよ」


「それはこっちのセリフよ。ボクの目的はただ一つ。あんたを殺してクリスお兄ちゃんと一緒になるの」


 二人は睨み合いをはじめた。状況があまりよく分からない。

 この二人は何をいっているのだろうか?

 それに、クリスお兄ちゃん?薬師寺君のことか?

 やはり薬師寺君もこの件になんらかの形で関わっていると言うことか。


「二人ともやめなさい。とにかく包丁を下ろして離れるんだ。でないと、私も強行手段を使わなければならない」


 すると、ショートカットの女の子が急にこっちを向きキッと私を睨んだ。


「うるさいうるさいうるさいうるさい!刑事かなにかわかんないけど、ボクの行動を邪魔するやつらみんな殺す!」


「君は何を言ってるんだ。しっかりと状況を説明してくれ」


 その時、ショートカットの女の子こちらを向いたのをいいことに、黒いローブの女の子が突然包丁を持った手をはたいた。


 カランカラン


 白いタイルの上に包丁が転がる。


 その瞬間、包丁を落としたショートカットの女の子か黒いローブの女の子に掴みかかった。黒いローブの女の子も、それに応えるように激しく互いの腕を掴み合い、時に拳で相手を殴りつける。


「やめるんだ!二人とも離れて!」


 聞く耳を持たないらしい。

 より一層激しさをましていくばかりだった。

 その時、どちらかの服からポロっと学生証のようなものが落ちた。まだ二人は気づいていないらしい。


 私は銃を構えたまま、その学生証を拾った。

 学校名は聞いたことがない。県外の中学校のものらしい。


『麻田 恵』


 そう学生証の生徒名の欄に書かれていた。

 麻田!麻田だって?

 という事は、彼女のどちらかはあの麻田と繋がりがあるというのか?


 その時、黒いローブの女の子の拳がちょうどショートカットの女の子の腹に入り、ひるんだ。

 その一瞬を見逃さず、黒いローブの女の子は階段を駆け上がりドアを開けて奥へ入っていった。


「うっ、うう、待て......」


 ショートカットの女の子はそれを追いかけようとするが、痛みが回復せずに動けないでいる。


「動くな!君はもう負傷者だ。手を上げて大人しくそこに座りなさい」


 一人は逃がしてしまったが、この子だけはなんとしても確保しなければ。しかし、手を上げることなく、私との睨み合いが始まった。


「君の名前は麻田で間違いないかい?」


「うるさい。麻田だったらなんだっていうのよ!」


「そうか。君が麻田か。そういうことなら、なんとしても逃すわけにはいかない」


「それは無理、この痛みが回復したらあの女を追うわ」


 女の子の体制が徐々に元どおりに戻っている。

 痛みが回復した瞬間、どうにかしてこの女の子を抑えなければ!


 その時だった。



「麻美!おい!俺だよ!こんなところで何して......」



 ーー被害者遺族、チョコレート型薬物の販売疑惑のかかった少年。薬師寺クリスが現れた。

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