Crazy sexy wild 12
「一体なんなんだ!この状況は!」
全く意味がわからない。なんで恵ちゃんの後を追っていた麻美がここにいるのかも、青井が麻美に銃を向けていることも。
ただ一つだけ理解できるのは、決していい状況ではないということか。
「な、なにがあったんだ!おい麻美!なんでお前は青井さんに狙われてるんだ!」
俺は意を決して麻美と青井の間に入り、まず麻美に問いかけた。
「クリスお兄ちゃん!ボクが心配で来てくれたの?嬉しい!」
「おいおいそんなこと言ってる場合じゃないだろ!青井さんも!なにがあったんですか?」
青井は、銃を向けたまま口を開く。
「薬師寺君、その子から離れるんだ。一体なぜ君がその子と知り合いなのかはわからないが、その麻田と言う女の子は危険だ。この廃工場にいる以上、宗教団体との関係性も考えられる」
「なんで青井さんが麻美のフルネームを知ってるんですか!それに宗教団体!それって、セナをあんな姿にした宗教団体ですか?」
「その通り。さっき、ちょっとその子と一悶着あってね。その際にその子の身分証を確認させてもらったよ」
「一悶着って、一体なにが......」
一悶着、俺は辺りを見回した。
あった。青井立っている位置から少し離れたところに、麻美が持っていたであろう包丁が落ちていた。
青井と麻美になにかトラブルがあったのか。
それにしても、麻美が宗教団体と関係が?そんなはずはない。麻美はあのゼリーを食べなければ、普通の女子中学生だ。
そうか!ここはあの宗教団体がクスリを作っている工場なのか!だから、青井さんもここにいるんだ。それならば、麻美のことは誤解だ!なんとかしなければ!
「青井さん、銃をおろして下さい。麻美は宗教団体との関わりなんてありません!この廃工場に来たのも、別の理由があって......」
「ほう、別の理由ね。その理由の中に、チョコレートは含まれているのですか?」
体に衝撃が走る。
「な、なんでそれを......」
なぜ青井がチョコレートのことを知ってるんだ!
それに、俺にそのことを聞いたという事は、バレてる。
俺がチョコレートを配達してることを青井は知っている!
「君もここに来ているという事は、薬物関連で宗教団体と繋がりがあることを疑わざるおえない。その女の子と宗教団体との関連性も気になるしね。チョコレートの件は、その後にゆっくりと話を聞くとしよう。薬のせいで妹があんなことなってしまった君が、種類は違えどその薬を売っているとはね。見損なったよ、薬師寺君」
なんでバレたんだ。それに、この展開は非常にマズい。ここで俺が捕まってしまったら、セナの治療は続けられないばかりか、なんの罪もない麻美が誤解されて捕まってしまう。
「青井さん!誤解です!俺はチョコレートなんて売ってないし、麻美も宗教団体とは関係ないんです!理由は話します。だからとにかく銃をおろしてください!」
「すまない薬師寺君。それはできない。売人とわかった以上、君は私の敵だ。それに私が銃をおろしたらそこの彼女は階段を上がって逃げてしまうだろう。君には黙っていたが、あの宗教団体の教祖は『麻田』と言う名前なんだ。この宗教団体に関係する廃工場にいる事と、麻田と言う苗字。あまりにも彼女は怪しすぎる。包丁を所持していたことからも、このまま彼女を見逃すわけにはいかない」
「そ、そんな......」
宗教団体の教祖か『麻田』だって?たしかに麻美の苗字も『麻田』だが、絶対に宗教団体とは関係ない!あんなにセナと仲良くしてくれた麻美が、自分では手を下さないとはいえ、セナをあんな姿にするとは到底思えない!
「青井さん!本当に誤解なんです!信じて下さい!なにかトラブルがあったことも謝ります。麻美もなんとか言ってくれよ!」
その時、ずっと無言で俺と青井の話を聞いていた麻美が素早く動き出した。
「お、おい麻美!」
俺をバッと押しのけ、銃を向ける青井の手に噛み付いた。
「うっ、やめなさい!銃が暴発してしまう!」
やけにすんなりと麻美の攻撃を青井が許したと思ったが、俺が麻美と青井の間に立っていたことで、青井からは俺の体が邪魔になり麻美がどこから出てくるのかがわからなかったのだろう。
「クリスお兄ちゃん!逃げて!」
青井の手に噛み付いたまま、喋りにくそうに麻美が叫んだ。
「や、やめろ麻美!それは本物の銃だぞ!青井さんから離れろ!」
青井は、麻美に噛み付かれた銃を持つ手を激しく動かしている。いつ事故で引き金が引かれるかわからない。
「仕方ない。少しの間、この子には眠っていてもらうよ」
そう言うと青井は、噛まれていない腕で麻美の首の裏あたりを手刀で叩いた。
あんなに勢いのあった麻美の体から力が抜けて行くのがわかった。ついには噛み付いていた口を離し、青井の足元の床にバタっと倒れこんだ。青井は麻美から噛まれた手を反対の手で押さえ、息を荒くしていた。かなりの力で噛まれたのだろう。青井の手からはドクドクと血が流れだしていた。
「麻美!大丈夫か!」
急いで倒れた麻美の側に近寄る。
大丈夫そうだ。息はしてる。ただ眠っているだけだ。しかし、このままでは何も解決していない。青井はまだ俺達を疑っている。このままじゃ......、やるしかない!
麻美の安全を確認した後、すぐに近くに落ちていた包丁を拾い上げた。
カチャ
包丁を拾い上げた俺の背中の方から、金属の音が聞こえた。ビクっとなった。音の正体は見えなかったが、それが一体何の音なのかすぐに理解したからだ。
「薬師寺君、その包丁を離すんだ」
青井の声が聞こえた。ゆっくりと振り向く。
青井は、包丁を手にした俺に向かって銃を向けていた。
さっきはあまり感じなかったが、命の危険にさらされると体の内側から恐怖が湧き上がってくる。
俺はそれを無理矢理に抑え込んだ。
「バカなことはやめるんだ。余計に君たちを疑わなくてはならなくなる」
「青井さん。今の青井さんには、何を言っても信じてもらえないと思います。でも、これだけは言える。僕達は宗教団体とは何も関係ない。本当に偶然この場所に居合わせただけなんです。お願いです。僕達を見逃して下さい」
「すまない。やはり信じられない。見逃すことも難しい。特にその女の子だ。情報の少ない宗教団体の唯一の手がかりとなりうるかもしれないからだ。君もチョコレートの件がある。まだ確実に君がチョコレートを運んでいると証明することはできないが、情報が入った以上署で話を聞きたい」
ダメだ。何を言っても俺と麻美は捕まってしまう。
最悪のタイミングで最悪の出来事が起こってしまったのだ。
「わかりました。それじゃあ、俺も覚悟を決めます」
覚悟を決める。
そう、このままではセナも麻美も俺も不幸になってしまう。俺がなにかをしなければ、この状況は打破できない。
俺は両手で包丁を持ち、刃先を自分の首に少し突き刺した。
「......うっ」
首筋を熱い液体が流れるのがわかった。
「何をしているんだ!薬師寺君!やめるんだ!」
「青井さん。これが俺の覚悟です。もしこのまま俺も麻美も逮捕されてしまうのなら、セナもいずれ死んでしまうでしょう。麻美も社会的に死んでしまう。そんな人生を送るくらいなら今ここで死んだほうがマシだ。青井さんが俺らのことを信じてくれないのなら、俺は自殺します」
「落ち着きなさい!何も君が死ぬことはない!妹さんの件は大丈夫とは言えないが、今生きている君が死んだら妹さんが目覚めた時に悲しむはずだ」
「大丈夫です。僕が逮捕されればセナが目を覚ますことはない。俺は本気なんです。青井さん、自分のせいでセナはあんな姿になったんだ、なんでも言うことを聞いてくれるって言いましたよね?今それを使います。俺達を見逃して下さい」
「そ、それは......」
俺の提案に青井はしばらく考えこんでいた。
胸の鼓動が早くなる。青井はどんな決断を下すんだ。
答え次第では、この首に少しだけ刺さっている包丁を押し込まなければならない。
その時だった。
バーーン!
階段の上の部屋、それもわりと近い所から何かが爆発するような音が聞こえた。思わず音のする方を振り向いてしまう。
「どうやら、この心理戦は薬師寺君の勝ちのようですね」
青井が言った。
「私の本来の目的は、君達を逮捕することではないんです。ここで君達と話している間に、私の追っている事件が動き出してしまったらしいですね。いいでしょう。今日は見逃します。しかし、次に君と顔を合わせる時には私は君の手に手錠をかけるでしょう」
ゴクリ、と唾を飲んだ。
「わかりました。ありがとう、青井さん」
青井は手に銃を持ったまま階段を駆け上がり、爆発音のした方へ走って行った。
首に刺した包丁を抜き、投げすてる。
床に両手をついて意識が飛びそうになったのを我慢した。
今までに味わったことのない命の取引、極度の緊張を我慢していたのが解けた途端に、ドッと疲れが襲ってきたのだ。
息が切れ、汗が流れている。今頃、体が震え始めた。
しかし、俺はやった。この状況をなんとか切り抜けた。
いいや、まだだ。
麻美の件はまだ終わっていない。
俺はまだ意識を失っている麻美を背中に抱えて、廃工場を後にしたーーーー




