Crazy sexy wild 11
『もしもし!恵ちゃん!今家にいる?麻美がそっちに向かってるんだ!』
家を飛び出した俺はすぐに恵ちゃんに電話をかけた。
『あ、クリスくん?どうしたのそんなに焦って。今からちょっと出かけないといけないんだけど。麻美ちゃんがこっちに向かってるってどういうこと?』
ハッとした。この状況をどうやって恵ちゃんに説明すればいいんだ。麻美が恵ちゃんの命を狙っていると言う、あまりにも非現実的な話を信じてもらえるのだろうか?
『恵ちゃん、今から話すことは本当の話だ。落ち着いて聞いて欲しい』
『なにかな?急に改まっちゃって』
『今、恵ちゃんの家に向かっている麻美は危険なんだ。昨日みたいに感情のコントロールできてない。麻美と接触してしまったら、命にかかわることが起きるかもしれないんだ......』
沈黙。
俺の話を聞いた恵ちゃんは、少しの間何も喋らずに考えているようだった。
『うん、わかった。クリス君がそんなに必死に言うことなら、ウソじゃないんだね。出来る限り注意するつもり。でも、今日はどうしても出かけないといけない用事があるの』
信じてはもらえた。しかし、それでもなお恵ちゃんは出かけると言い張る。その用事というのはどれだけ大事なことなんだ。命よりも大切なことなのか?
『恵ちゃんの命が危ないんだ!お願いだよ!出かけずに家の中でカギを閉めて隠れていてくれよ!』
スマホの向こうから、ガチャっというドアを閉める音が聞こえた。
『ごめんね。そろそろ行かなきゃ。また落ち着いたら連絡するね。大丈夫だよ。すっごく気をつけるから』
『ちょっ!待って恵ちゃん!せめて行き先だけでも!』
電話は切れていた。恵ちゃんを止めることができなかったばかりか、どこに向かったのかさえわからなくなってしまった。
クソ!マズい!麻美はもう恵ちゃんの後をつけているかもしれないのに、居場所がわからなければ何もできない。
そうだ!いいことを思いついた!
俺はスティーブに電話をかけた。
『やあ、クリス君。元気かい?ゼリーの事ならまだわかっていないよ』
気の抜けた声で、スティーブはそう言った。
『違うんだ!頼みがある!どうにかして人を探せないか?』
『焦ってるね。なにかあったのかい?ゼリーの件と関係がありそうだね』
『麻美が......恵ちゃんを殺そうとしてるんだ!』
『それはマズいね。まさかそこまで麻美ちゃんが暴走してるとはね。驚きさ。もう惚れ薬なんてかわいいもんじゃ片付かなくなってきてるね』
『お前からもらったゼリーのせいだろっ!なんとかしてくれよ!』
怒鳴っていた。ゼリーを俺に渡したあの海の時、スティーブは本当にこうなる事は予測できていなかったのだろうか?つのる不満が爆発してしまった。
『僕もこれは予想外さ。いいだろう。麻美ちゃんを探すのを手伝うよ。三十分以内には情報が入ると思う。それまで、クリス君も麻美ちゃんの行きそうな場所を探してみてくれ』
『わかった。頼むよ、スティーブ。お前だけが頼りなんだ』
電話を切り、とりあえず俺は恵ちゃんの家へと足を進めた。
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恵ちゃんの家の周りを一周したが、麻美の姿は見当たらない。なんとなくだが、恵ちゃんのあとをつけて行ったに違いないと言う考えが頭に浮かぶ。
今の麻美なら、俺に電話を掛けてきた段階で恵ちゃんの家の前にいてもおかしくない行動力を持ってるはずだ。もしかすると、もう恵ちゃんは......
ダメだダメだ。変な事を考えるな。弱気になってたまるか。もう俺のせいで人が不幸になるのはまっぴらだ。なんとしてでも麻美を止める!
ブーブーブー
スマホが鳴った。すぐに通話ボタンを押し、電話にでる。
『やあ、クリス君。麻美ちゃんの居場所がわかったよ』
『本当か!一体どこにいるんだ!』
『それがね、恵ちゃんの家からそう遠くない廃工場に入って行ったらしいんだ』
廃工場?麻美が?
なぜだ?
『そ、その廃工場の場所を教えてくれ!』
『OK、メールで地図を送るよ。それと、ゼリーの解毒方法と言うか今回の答え合わせ的なものがわかったんだけど、今聞くかい?』
解毒方法と言うか答えあわせだって?
なんでスティーブはハッキリと解毒方法が分かったと言わないのだろうか?
『いや、今はそんな時間はないんだ。落ち着いたら聞かせてもらうよ』
『そうかい。じゃ、気をつけてね。あまりいい噂を聞かない廃工場だから』
『いい噂を聞かない?なんのことだよ?』
『僕達薬屋さんにとって、廃工場はお菓子を作るのに適した場所なんだ。人もあまり寄り付かないから、隠れて悪い事ができるのさ』
『なんだって?じゃあ、その廃工場には同業者がいるってことか!』
『あくまで噂さ。どんなお菓子を作ってるのかもわからない。しかし一番わからないのは、なんで麻美ちゃんがそんな廃工場に入っていったのか、ってとこだね』
確かに。
麻美は恵ちゃんを追っていたはずだ。廃工場とのつながりが全く意味不明だ。
『わかった。頭においとくよ。じゃ、行く』
『うん。あまり首を突っ込むのはやめなよ。この前みたいなことが起こりかねない。じゃあね』
電話を切ったのと同時に、地図のデータが添付されたメールが届いた。
地図を確認し、全速力で走り出す。
そう遠くはない。このままのペースで行けば二十分程で着くだろう。それにしても、こんな街の片隅に廃工場があったなんて今まで気づかなかった。地図を見る限り、その工場の周りだけ民家や店などはなく、ただひたすらにポツンと建ってる。
走りながら、頭の中を整理していこう。
麻美は恵ちゃんを殺せば、俺に振り向いてもらえると思って恵ちゃんのあとを追いかけている。恵ちゃんは、大切な用事があると言って外出してしまった。
麻美が今も恵ちゃんのあとを追いかけて廃工場に入って行ったと言うのなら、恵ちゃんの大切な用事というのはその廃工場で行われることに違いない。
しかしなぜだ。恵ちゃんはその危険な廃工場になんの用があると言うんだ。俺の知らない何か大きな事件に巻き込まれているのか?
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その廃工場は、見るからに廃れていて危険な匂いがした。
大規模な工場だったのかもしれない。中はわりと広そうだ。
「ふぅー」
大きく息を吐き、決意を固める。
これからこの廃工場で何が起きようとも、俺は麻美を止めて恵ちゃんを救い出すんだ。
廃工場の割れた窓から、中へ侵入した。
見た目からは想像もつかないほど、中はキレイだった。毎日掃除をしたとしても、ここまでキレイにはならないだろう。なにせ、中はチリ一つ落ちていない入り組んだ通路になっていて、全ての壁や床は白いタイルで形成されていた。
工場と言うより、なにかの研究室と言った方が正しいのではないだろうか。
それほどキレイな施設だった。
闇雲に通路を進む。途中、分岐点が幾つかありこの通路がどこに繋がっているのか全くわからないが、最終的にこの廃工場の中心部に向かっていると言うことだけは理解できた。
それは三回目の分岐点を進んで、二階への階段のある小さなフロアを発見した時のことだった。
「麻美!おい!俺だよ!こんなところで何して......」
階段を登ろうする麻美を発見した。
しかし、麻美は動かない。それに、俺の言葉に反応するどころか、ある一点を睨みつけていた。
麻美が見つめる先を俺も目で追う。
「こんにちわ、薬師寺君。まさかこんなところで会うとわね」
「な、なんであなたがいるんだ......青井さん」
そこには、麻美に向かって銃を構えた薬物対策課の刑事、青井が立っていたーーーー




