Crazy sexy wild⑦
バシャーン
狭い空間に、水の溢れる音が響いた。
天井からは水滴が落ちてくる
「ふう......大変なことになったな......」
湯気が立ち上る湯船に浸かり、そんな独り言を言ってみた
ーースティーブと駅で別れてから、俺達は家へ帰った。
そう、俺達。俺と麻美だ。
麻美は、俺が玄関の鍵を開け中へ入ろうとすると、ササッと前に出て、
「あなた!おかえりなさいニャ!お風呂にする?ご飯にする?それとも......あ、た」
「お前はない!」
結婚したばかりの夫婦か!
「まだ最後まで言ってないのにぃ......クリスお兄ちゃんはせっかちだニャ」
「いや、もうせっかちとかそう言うことじゃなくて、なんで『家へ帰ったらやること』の選択肢にお前が入ってるんだよ!」
「あー!わかったニャ!やっぱりお布団に入ってからの方が良かったのかニャ?」
「だから!違うんだって!シチュエーション的な問題じゃなくて!」
麻美は、人差し指で俺の口を塞いだ。
「わかってるのニャ。お楽しみは最後に取っとくんだニャ。じゃあ、お風呂沸かすから先に入ってきてニャ!」
「お、お楽しみ?」
変な声が出た。
やっぱりわかってない!
この子、暴走してるよ!
確かに、まさかこのタイミングで『女の子に言われてみたいランキング』上位のセリフがくるとは思わなかったけど。
俺は取り敢えず、風呂に入ってみることにした。
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風呂の水を見つめて、ため息を吐く。
合法のゼリー。
惚れ薬。
なんて効果だ......
このままでは、本当にヤバい。
今夜、俺の童貞が奪われてしまう。
それもアリかな?
いやいや、ダメでしょ!
ダメだってば!
お菓子の効果が切れるのを待つしかない!
麻美は、セナの部屋で寝てもらうことにしよう。
うん、完璧だ。
あの頬を赤らめた物欲しそうな顔が、視界に入るからダメなんだよ。簡単なことじゃないか!見なければいいんだ!
見なければ、俺の欲望が掻き立てられることもない!
そうだ!
『無』になろう。
小さい頃を思い出して、童心に帰るんだ!
麻美は優しいおねえちゃん。
麻美は優しいおねえちゃん。
「我慢できないのニャ!一緒にお風呂で洗いっこするのニャ!」
バーンと風呂のドアを開けて、全裸の麻美が登場した。
「あ、麻美はツルツルなおねえちゃ......じゃなくて!」
見てしまった!
ヤバい!
あまりにも衝撃的な麻美の裸に、反応する!
「ば、ばかやろー!」
「あ、ちょっと待ってよお」
俺は目と股間を押さえながら、風呂場から飛び出した。
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「いいか!俺は隣の部屋で寝るから。絶対に入って来るなよ!絶対にだ!」
「ブー!クリスお兄ちゃんと一緒に寝たいのニャ」
「ダメだ。俺の男の勘がそう言ってる」
「ボクの女の勘はそう言ってないのニャ」
だろうね。
俺も本当は麻美と一緒に......
クソ!
まだ俺は未練がましくゼリーの効果を期待してるのか!
「と、に、か、く!夜は絶対にこの部屋から出るなよ!」
麻美は、ムスッとした表情をしたが、「わかったニャ」と言ってセナのベッドに入った。
セナの部屋のドアを閉め、自室に入る。
見慣れたいつも通りの部屋たが、なぜか安心感がすごい。
ベットにバタンと倒れこんだ。
「つ、疲れた......」
今日は内容の濃い一日だった。
いや、濃ゆすぎるだろ。
まあ、いろいろあったが、恵ちゃんとの関係が進展したのが一番嬉しかった。
明日は、恵ちゃんの家で勉強っすよ。
二人だけで、いろいろ勉強するんすよ。
「デヘヘヘ」
天井を見上げてニヤニヤとする。
鼻の下が伸びているのだろう。今の俺は。
しかし、体が疲れているせいか、ゆっくりと意識が遠のいた。
ガサガサ
ん?なんの音だ。
真夜中。
変な音で目をさました。
部屋の電気がいつのまにか消えている。
寝ぼけているせいか、暗闇に目が慣れないせいか、音のする方には何も確認できない。
いや、音がしているのは俺の腹の上なのだが。
ズシリと、しかし柔らかい感触のものが腹の上に乗っかる。
ハッと気づく!
今、この家には俺と麻美しかいない!
とすれば、俺の腹の上にいるのは.....
「起こしちゃったかニャ?大丈夫だニャ。クリスお兄ちゃんは何もしなくていいのニャ。麻美が優しくしてあげるのニャ」
「キャーーーーーーーーーー!」
か弱い女の子のような悲鳴を上げてしまった。
夜這い!
夜這いかよ!
バーンと麻美を払いのけて、部屋の電気をつける。
一瞬、電気の明るさに目を隠してしまったが、ゆっくりと目を慣らしながらこの状況を確認する。
ベッドの上には、タオルケットにくるまった麻美がちょこんと座っていた。
「なにしてんだよ!部屋を出るなって言っただろ!」
「怒らないでニャ!ボク寂しかったのニャ......」
麻美は、泣きそうな顔で俺を見上げる。
うっ、その顔には弱い。
「その、えっと、一人じゃ寝れないのかよ」
「............うん」
えー?
マジかよ。
でも......
「ごめんなさいニャ。なんにもしないから、一緒に寝てほしいニャ......」
「な、なんにもしない?本当か?」
「うん」
麻美は目をキラキラさせて頷いた。
おいおい!なんかしそうだぞ!
しかし、寂しがって泣きそうになってる後輩をこのまま一人にさせる訳にはいかない。
だよね?
俺間違ってないよね?
「わ、わかったよ。絶対になんにもするなよ!俺は布団持ってきて床で寝るから、お前はベッドで寝ろよ」
「わかったニャ!」
麻美は、嬉しそうにベッドをギシギシと揺らしていた。
「じゃあ、電気消すから。絶対に俺の布団に入ってくるなよ!入ってきたらこの家追い出すからな!」
「わかってるのニャ。ボクは物分かりのいい女の子なのニャ」
ウソつけ!
電気を消し、布団に入った。
中途半端に寝てしまったせいか、なかなか寝付けない。
明日は恵ちゃんの家に行くのに寝坊なんてできない、と言う考えが頭をループして、さらに状況を悪化させている。
ふう。
「クリスお兄ちゃん、起きてる?」
ベッドの方から麻美の声が聞こえた。
「起きてるよ。なんか眠れなくてさ」
「ボクもドキドキして眠れないのニャ」
「そ、そうか」
それはゼリーのせいだろうな。とは言えない。
「でも、久しぶりだね。クリスお兄ちゃんとこんなに話せるのって」
「え?」
「セナっちが倒れてから、ずっと寂しかったのニャ。ボクって他に仲のいい友達もいないし。やっぱりセナっちが一番の親友だったのニャ」
「そうなのか。もう、三ヶ月も経つんだよな。セナが倒れてから。寂しいと思うのもわかるよ」
「うん。三ヶ月前までは、この家で引越しの手伝いしたりセナっちとお菓子作ったり、いろいろしてたのに。もう昔の話になってしまったみたいだニャ。この家が懐かしく感じるニャ」
親友がある日突然話せなくなる。
こちらの声に反応もしてくれない。
今まで、楽しい思い出を一緒に共有してきただけに、ショックだったのだろう。
「クリスお兄ちゃんに会えなかったのも、寂しかったのニャ」
「え?今なんて?」
「なんでもないのニャ。早く寝るのニャ。おやすみぃ」
「お、おう。おやすみ」
はっきりと聞き取れていた。
わざと濁した。
今の俺には、『麻美の俺に対する想い』もゼリーのせいとしか考えられなかった。
しかし、人から好意を持たれることはまんざらでもない。
なぜか安心したような気分になって、俺はまた深い眠りについたーーーー




