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Crazy sexy wild⑥

 帰りの電車内。

 ちょうど向かい合わせの席に座ることができた俺達は、海ではしゃいだ疲れからか強烈な睡魔に襲われていた。


 いや、約二名はもう深い眠りに入っている。

 おっさんとゼリーを食べて覚醒した麻美だ。

 スティーブはヨダレを垂らしながら豪快なイビキを上げているが、麻美に関しては俺の左腕にしがみついたまま静かに寝息を立てていた。


 よっぽど遊び疲れたのだろうと、微笑ましく見てやれないこともない。

 しかし問題は、起きている俺と恵ちゃんの会話が全くないことだろう。

 窓側の席で向かい合って座っているのに、恵ちゃんは俺の方を見ようともしない。

 ムスッとした顔でほおづえをつきながら、ずっと暗い外の景色を眺めている。


「あ、あの......恵ちゃん?」


「............」


 シカトされてるよね、これ。

 けっこうダメージが大きい。


「俺、なんか悪いことしたかな?なんかしたなら謝るから、起きてるもの通し海での思い出話に花を咲かせませんか?」


「............」


 恵ちゃんは目線だけチラリとこっちを向いたが、すぐにまた窓の方に目をやる。

 ダメだ。どうすればいいんだ。


「恵ちゃん、ごめんなさい!本当に麻美とはなんでもないんだ。そうだ!今度ケーキでもおごるから許してください!」


「クリス君って宿題も終わってないのに遊びに行くんだね。ちょっとガッカリしたかな。私を誘ってくれるのはありがたいけど、まずは高校生の本分である勉強をするべきだと思うよ」


 窓の外に目線を向けたまま、クールに断られた。

 俺のガラスのハートにヒビが入る音がする。

 いかん、まだ諦めちゃだめだ。


「そ、それなら恵ちゃんに宿題教えてもらいたいな〜。あ!明日とか一緒に勉強するのはどうかな?なんて......ダメですよね。ハア」


「一緒に勉強?そ、それなら付き合ってあげても......いいかな。私もちょうど休み明けにあるテストの予習したかったし」


 おお!

 これはいいんじゃないか!


「ホントに!じゃあ明日図書館ででも勉強しようよ!」


「うーん、図書館はちょっと。私の家なら大丈夫......かな」


 願っても無い!

 むしろそっちの方がいい!


「わかった!じゃあ明日の十時くらいに恵ちゃんちに行くね!」


「あはは、クリス君私の家知らないでしょ。うん、わかった。じゃあ明日の十時に約束ね。私の家は......」


 やっと恵ちゃんが笑ってくれた。

 もうダメかと思っていただけに、安心して体の力が抜けそうだ。

 恵ちゃんは家の住所を細かく説明してくれた。

 やはり委員長だ。丁寧でわかりやすい。


「まあ、これだけ説明すれば道に迷うことはないと思うよ」


「お、おう!ありがとう!それにしても、急に決めちゃったけど迷惑じゃなかったかな?」


「もう、クリス君はいつも自分から言いだすくせに。いざとなると自信がなくなるよね。気を使いすぎだと思うな。迷惑だったらわざわざ私の家でなんて言わないよ」


「そ、そうなんだ。ははは。なんか嬉しくてつい。いやー勉強が楽しみすぎて、今日は寝れそうにないよ」


「そんなに勉強楽しみなの?意外かも。でも自分から勉強したいって思うのは、いいことだと思うよ。目指せクラス一位だね」


 恵ちゃんと二人で勉強するのが、だが。

 それからは、他愛もない話をしながら過ごした。


 住んでいる街の駅に到着すると、寝ていた二人を起こし電車からでた。


 改札を抜けて駅のロータリーで一息つく。

 誰か別れの挨拶でもするのかと思っていると、年長者のスティーブが口を開いた。


「じゃ、今日はとても楽しかったデース。また日本に帰ってきたらアソビマショー!」


 おい!なんで今更カタコトの外人さんみたいな喋りかたなんだ。

 朝から晩までキャラクターが定まらなすぎだ!


「そうですね。ホント楽しかったです。また機会があったら誘ってください。それじゃ私はこれで。クリス君は明日ね!」


 そう言うと、恵ちゃんはサッと帰っていった。


「明日?なんの話だニャ?クリスお兄ちゃんは私と言うものがありながら、浮気する気なのかニャ?」


「おい!そもそも俺はお前と付き合った覚えはない」


「ウソだニャ!海では好きって言ってくれたニャ!」


「後輩としてな!」


 どんな脳内変換だよ!

 都合のいいとらえかた過ぎるだろ!


「全く、これだから女ったらしの小僧はダメなんだよね。紳士になって色んな女の子の望みを叶えるべきだと思うよ、僕は」


 スティーブが、さも呆れているように言った。

 よく言うよ!お前が渡したゼリーのせいでこうなってんだ!


「じゃ、僕も帰るとするよ。」


「え、ちょ、待てよ!スティーブ!」


 スーっとフェードアウトして帰ろうとするスティーブを引き止める。

 このまま麻美と二人きりになるのは、非常にマズい。


 するとスティーブが耳打ちしてきた。


(なんだいクリス君。麻美ちゃんと熱い夜を過ごせばいいじゃないか。これも人生経験ってやつだよ。そうだ、赤飯は明日取りにきてよ)


(いやいや、それは無理だ!俺は麻美のことは後輩としか思えない!それにこんな積極的な麻美が、なにもせずに一夜を過ごせるわけがないだろ!逆レイプされそうなんだよ!助けてくれ!それと赤飯は引っ張りすぎだ!)


(やれやれ。君はヘタレボーイだね。しょうがない。ひとつだけゼリーの効果を早く終わらせる方法がある)


(なんだよ!教えてくれ!)


(”ラムネ”さ)


 ドキっとした。

 ラムネと言えば、ひとつしか思い浮かばない。

 Red hotだ。


(クリス君、フライからラムネをもらっただろう?あれを一粒食べさせて寝かしてやれば、君の童貞も守りきれる。麻美ちゃんも君とイチャイチャしてしまったと言う人生の汚点をキレイサッパリ忘れられる)


(な、なんで俺がラムネをもらったこと知ってるんだ!それに......そんなことできるわけないだろう!あれは下手したら一生意識が戻らなくなるし、今まで経験した楽しいことや悲しいことも忘れるんだぞ!)


(それじゃあ、今の麻美ちゃんを受け入れるしかないね。ゼリーの効果もそんなに長くは続かないハズさ。合法のお菓子は効果が短くて困るね)


「もう、また二人で内緒の話かニャ?スティーブさんも早く帰ったほうがいいのニャ。若い二人の仲を裂くような行為はヤボなのニャ!」


 しびれを切らした麻美が、俺とスティーブの間に入ってきた。


「ごめんよお麻美ちゃん。僕は応援してるんだけど、クリス君がヘタレでね。あとは二人で仲良くやってよ。じゃ、ほんとに僕はこれでサヨナラするよ」


「お、おい!まだ話が......」


 スティーブは駆け足で帰っていった。


「やっと二人きりになれたのニャ。く、り、す、お兄ちゃん!」


 また麻美が抱きついてきた。

 やれやれ、どうしよう。


 俺は渋々麻美を連れて、家へ帰るしかなかった。

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