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Crazy sexy wild⑤

「そろそろ戻ろっか。日も暮れて来たし、きれいな貝殻も見つけたし」


 ぼーっと見とれていた俺は、慌てて現実に戻ってきた。


「そ、そうだね。ちょっと寒くなってきたしね」


 夏ではあるが、日が暮れると少し肌寒かった。

 ずっと海に入っていたからだろう。


「それにしても、今日はすっごく楽しかったね。それにクリス君がこんなに笑ってるの初めて見たかも」


「え?俺っていつも暗い顔してるの?」


「うーん、暗いって言うか悲しい顔、かな」


 悲しい顔か......


「妹さんの事件以来、表情が強張ってて笑ってるのに泣いてるみたいな。説明が難しくてごめんね。私の勘違いかもしれないけど」


 いや、恵ちゃんは勘が鋭い。

 その通りだ。


 このバイトを始めてから、いつもビクビクしながら生きてる。

 それにセナの件はもちろん、エレナ先輩のこともあった。

 無意識に、生活の変化や出来事が顔に表れているのだろう。


「でもね、凛々しくも見えるんだよ。なにか大きいものを背負って生きてるって感じで、ちょっとカッコイイとか言ってみたり」


「え?それってどう言う?」


「んーん、なんでもないっ。はやく戻ろっ」


 ちょうど波の音と重なって大事な部分を聞き逃したような。

 恵ちゃんはなにか重要なことを言ってた気がしたが、気のせいだろうか。


 そんなことを話しながらパラソルのある岩場まで歩いた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 岩場に着くと、パラソルの下でうずくまっている麻美がいた。

 お腹でも痛いのだろうか。

 凄い勢いでスイカを食べてたしな。


「麻美ちゃん大丈夫?どうしたの?」


 恵ちゃんが声をかけるが、顔を上げずにブツブツと何かつぶやいている。


 変だ。



「麻美?お前ホントに大丈夫か?立てないなら俺がおぶって病院でも連れていくぞ」


 俺が声をかけた瞬間だった。

 麻美は凄い勢いで俺に抱きついてきた!


「クリスお兄ちゃーん!ボク寂しかったんだよぉ。一緒に虹色の貝殻見つけたかったのに、いつの間にかいなくなってるんだもん!」


 え?なに?

 なにこれ?


 麻美ってこんなに甘えてくる奴だったか?


「麻美落ち着け!くっつくなって!」


 ぎゅーっと麻美の手が俺を締め付けた。

 まだ水着を来たままで肌の露出が多いため、俺の肌と麻美の肌が直に触れ合う。


 や、やわらかい......


 それに、もっと柔らかいものが肩に当たってる。


「ちょ、麻美!マジでヤバい!離れろよ!」


「何がヤバいのニャー?麻美の体に興奮してるのかニャ?」


 ストラーイク!


「ち、違う!断じて違う!本当だ!」


 弁解するように恵ちゃんの方を見た。


「クリス君......、ちょっと私ジュース買って来ようかな......」


 え?


「待って恵ちゃん!これは違うんだ!麻美と俺はそんな関係じゃ......」


 恵ちゃんは走って行ってしまった。


 最悪だ。

 さっきまであんなにいい雰囲気だったのに。

 嫌われたかもしれない。


 それにしても、一体麻美は何を考えてるんだ!

 急に甘え始めるなんて。

 麻美はセナの友達で、たまに家に遊びに来るぐらいの関係だ。

 けっして男女の関係になった覚えはないし、麻美も俺のことなんか好きなはずがない。

 むしろ俺のいやらしい目線に対して、過剰に攻撃的な発言が飛び出すぐらいだ。


「ニャンニャン」


 俺の胸に顔を当ててスリスリしている。


 異常だ。

 まるで()れ薬でも飲んだみたいだ......


 ん?惚れ薬?

 確か昼飯を食べる前に慌てて水着のポケットに入れたはず......ない。


 まさか!


「おい麻美!お前ハート型のゼリー食べなかったか?」


 麻美は顔をあげ、トロっとした目で俺を見た。


「おいしかったのニャ。あれはクリスお兄ちゃんが用意してくれたんじゃなかったのかニャ?」


 そんな......

 よりにもよって麻美が食べてしまったのか。

 悔しいやら、嬉しいやら。

 いや、大問題だ!


「あれれー、クリス君はやっぱりロリコンだったみたいだね」


 いつの間にかスティーブがこちらを見て立っていた。


「俺はロリコンじゃない!シスコ......なんでもない!」


「ははは。今日の夜は赤飯を炊かないといけないかもね」


 赤飯って!


「笑い事じゃないだろ!俺は麻美とはそんな関係になるつもりはない!」


「そうなのかニャ?こんなにボクはお兄ちゃんのことが好きなのに......」


 麻美は、夢中でスリスリしていたかと思えば、しっかり話を聞いていたらしい。

 初めて告られた。

 まさかこんなにストレートに来るとは。


「す、好き?いやいや麻美、これには深い訳があってだな。お前が今俺にメロメロなのは......」


「ううぅ、グスン」


 泣いた?マジで?

 どうしよう。

 こんなとき、童貞の俺は対処法がわからない。


「ごめんごめん!違うんだ!嫌いなわけじゃなくて......」


「じゃあ好きって言ってニャ」


 うわ!なんかこれはこれでカップルっぽいな。

 麻美が可愛く見えてきた。


 いやいやいやいや、違うだろ。


「いい後輩だと思ってるよ」


「違うのニャ。素直な気持ちが聞きたいのニャ」


 す、素直な気持ち?

 どうしても俺の口から好きって言わせる気か!


「アッついねーお二人さん!でもそろそろ帰らないとバスの時間に間に合わないよ。続きはクリス君の家でやったらどうなんだい?」


 救われた。

 このおっさん、たまにはいい仕事をする。


「そうだ!帰らないと!さあ、早くパラソルをたたんで帰ろー!」


 無理矢理、巻きついていた麻美を引き剝がし帰る準備を始める。


「んー、それもそうだニャ。クリスお兄ちゃんの家でゆっくりするニャ」


 なんとか麻美も納得したらしく、渋々帰る準備を始めた。

 しかし、スキがあればいつでも俺に抱きつこうとしてくる。

 抱きつき魔かよ!

 それにしても、本気で俺の家に泊まる気か?

 それはマズいだろう。

 俺も思春期真っ盛りの男子だ。


「お茶とか炭酸とか買ってきたよ。帰る準備終わったら皆さん飲んで下さい」


 ちょうど恵ちゃんが帰ってきた。

 恐る恐る恵ちゃんを見る。


「あ!クリス君にはこれ買ってきたから先に渡すね。冷えると美味しくないし」


 わりと普通だ。笑顔が、かわいい。

 しかし冷えると?

 今、夏ですが。


 恵ちゃんから”あったか〜い”『おしるこ』を渡された。


 これって嫌がらせだよな。

 やっぱり恵ちゃんはなんか怒ってね?


「ボクはオレンジジュースだニャ。クリスお兄ちゃん一緒に飲もっ」


 帰る準備が終わった途端、麻美が俺と恵ちゃんの間に割り込んできた。


「二人ともすごく仲良いよね。お幸せに」


 ツンとした言い方だった。

 恵ちゃんは荷物を持ってさっさと歩き始める。


「そ、そんな......」


「はい!ボクの飲んだあとで、間接キスになっちゃうけど。クリスお兄ちゃんは高校生だから気にしにゃいよね?」


 長い長い理性との戦いが始まりを告げたーーーー

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