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Crazy sexy wild①

 高校一年生の夏休み。

 ほとんどの高校生にとってのお楽しみイベントであり、楽しいレジャーや花火大会などを通じて男女間の仲を深め『大人』になるリア充男子女子(クラスメイト)が続出するであろう長期の休暇だ。

 そんな楽しげなイベント真っ最中だと言うのに、俺は今日もひたすら朝から夕方まで「チョコレート」を配達し、疲れた体でセナが入院している病院へ向かっていた。


 このところ、セナの体に異変が起き始めている。

 五日に一度の割合で、呼吸が一時的に止まったり体が痙攣するといった症状が現れるようになったのだ。

 原因は、今もセナの体の中で作られ続けているガムの成分が、量を増しているかららしい。

 有名な薬物研究所に依頼した解毒方法も、まだ見つからない......


 今、俺に出来ることはセナの治療費を稼ぐことと、こうして毎日のようにお見舞いに行くことぐらいだ。

 ガムの情報も途絶えているのだから。


 セナのいる病室に入り、ほかの患者とのバリケードとして閉められたカーテンの前まで行くと、なにか話し声が聞こえた。


「セナっち......僕は寂しいニャ。早く意識が戻って、また一緒にクレープとか食べに行きたいニャ......」


 声に聞き覚えがある。

 セナのクラスメイト。

 麻田麻美だ。


 シャーっとカーテンを開けて、久しぶりにセナの親友と対面する。


「よぉ!麻美来てくれたんだな。今まで中々時間が合わなくてすれ違ってるみたいだったけど、改めてお礼を言うよ」


 と、先輩として兄として大人の対応をしようと試みた。


 しかし、次の瞬間に俺が言った言葉は


「え?あの、どちらさんですか?」


 だった。


 セナのベッドの横には、ボーイッシユなショートヘアにクリッとした目の美少女が座っていたのだ。

 服は白いショートパンツに緩めでムラサキ色のTシャツを着ていて、片方の肩が露出している。

 目のやり場に困ってしまう。


 あれ?麻美ってこんな大人っぽい子だったか?


「いきなりなんて失礼なこと言うんだニャ!でも、ホントに久しぶりに会ったニャ!クリスお兄ちゃん!」


 やっぱり麻美だ。


「うわ!見違えたな!これが半年前まで悪ガキだった小汚い女だとは思わなかったよ!」


「むー!次から次に口から毒を飛ばさないでほしいニャ!僕はデリケートな中学生の乙女なのニャ!」


 見た目は大人っぽくなったが、まだ語尾に『ニャ』をつける癖は治っていないらしい。


「ごめんごめん!あまりにも雰囲気が違ったから、女として意識してしまったよ!」


「それはセクハラだニャ!」


 俺が何と言おうとこいつには毒づいて聞こえるようだ。

 褒めてるのにな。


「セナはあんまりよくないみたいだニャ......クリスお兄ちゃん、セナは絶対に死んだりしないよね?」


「バカなこと言うなよ!セナが死ぬわけないだろう!今、薬を作ってもらってるんだ。それが完成すればセナとまたクレープでもなんでも食べに行けるさ!」


 薬が完成すれば......

 自分にも言い聞かすように答えた。


「そう......約束、守れなかったニャ」


「約束?なんかセナと約束してたのか?」


「今年の夏は僕のおじさんが持ってるプライベートビーチで、虹色の貝殻を探すって約束してたのニャ」


 虹色の貝殻?プライベートビーチ?


「そうか、それは残念だったな。でも、セナの目が覚めたらすぐに行けばいいじゃないか!来年にでも!」


「ダメなのニャ。僕のおじさんは、今年いっぱいでプライベートビーチを手放すらしいのニャ。チャンスは今年の夏しかないのニャ」


 そうか。楽しみにしてたんだろうな。

 顔を伏せていた麻美の肩に手を置いて、元気だせよ、と言った。


 すると麻美は、バッと顔を上げて目をキラキラさせ始めた。


「いいこと思いついたニャ!海に行って虹色の貝殻を取ってきて、セナっちに見せれば目を覚ますかもしれないニャ!」


「お、おう。そうだな。セナも喜ぶと思うぜ」


 貝殻を見せたぐらいでセナが目を覚ますとは思えないが、気休めぐらいにはなるだろう。


「じゃ、海楽しんでこいよ!」


「え?クリスお兄ちゃんも行くのに、なにを言ってるのかニャ?」


 こっちが、え?だよ!


「いやいや、俺はバイトとかあるからな。それに結構忙しいんだよ色々と」


「彼女もいないのにニャ?」


 こいつ!

 なんで俺に彼女がいないことを知ってるんだ。


「彼女の一人や二人いて当然だろ?俺は高校生だぜ?」


 麻美は、ふーん、と俺の言葉を信じていないと言うリアクションをとる。そして、スッと立ち上がり俺の服の襟を両手でつかんだ。


「やだやだやだやだ!行くのー!クリスお兄ちゃんと海行くのー!セナっちのために貝殻とるとるとるとる!」


 激しく襟を引っ張られる。

 俺の頭は、ぐらんぐらんとまるで首の座っていない赤子のように揺れた


「やめれー!わかった!行く!行くからやめれー!」


 半ば強引に、海水浴の約束をこじつけられた。


「やったー!貝殻取ってきたらセナっちも絶対喜ぶニャ!じゃ、十日の九時に駅に集合するニャ!」


 と言って麻美はさっさと病室から出て行った。


「海か......」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 翌日、朝からバイトだったためドラッグストアへ向かった、

 いつも通り、ドラッグストアのドアを開けスティーブのいる部屋に行く。


 真っ暗だった。


 スティーブは部屋の電気を消してベッドホンで音を聞き、和風のホラー映画を見ていた。

 俺が入って来たことには気づいてない。


 ニヤリ。

 これはチャンス到来だ。

 いつもこき使われている腹いせに、驚かせてやろう。


 ノシ、ノシとゆっくりスティーブに近づく。

 スティーブがかけているヘッドホンをバッと取り、耳元で「わっ!」と大声を出した!




「わああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 いや、こっちがビックリするわ。

 スティーブは異常な驚きの声を出しながら、部屋中を走り回った。

 家具や飾り物にガンガン当たっても走るのをやめないーーーー





「コホン、いいかいクリス君。チョコレートを食べると感受性が豊かになるんだ。だから、絶対に驚かしたりしてはいけない。僕の体にはアザが三つもできてしまったよ、君のせいでね」


「......はい、すいません」


 床に正座させられて、もうかれこれ一時間もスティーブのお説教を聞かされていた。

 足がシビれる。


「まあ、反省してるようだし。今日はこれで解放してあげよう。それよりも仕事だ。今日は忙しいよー!夏休みだからみんなガンガン遊んでるんだろうね」


 やっと解放される。

 足を崩してため息をついた。

 あ!海のことを相談しなきゃ!


「あのスティーブさん?お願いがあるんですけど」


「なんだい?君のお願いはいつも厄介事だからなー」


「いや、そう言わずに聞いてください。実は十日に海に行くことににりまして、休みたいなー、なんて......」


 しまった。

 このタイミングで言う話じゃなかったか?


 しかしスティーブは俺の話を聞いた途端、目をキラキラと輝かせた。

 昨日も同じようなキラキラを見たな。


「いいよ。しかし一つ条件がある」


「条件?」


「そう。僕も一緒に連れて行ってほしい」


 いやダメだろう。

 何が楽しくて中年のおっさんと海に行かないといけないんだ。


「それは難しいな。一応聞いてみるけど、ダメだったら諦めてほしい」


「そうかい。ぜひ僕も行きたいんだ。チョコレートを食べて海に入ると、ヤバイんだよね」


「いや知らないけど」


 一応、麻美に電話をしてみる。


『もしもし、クリスお兄ちゃん?聞いてよ!新しい水着買ったんだニャ!海まで楽しみに待ってて欲しいのニャ!」


『おい!電話での最初の挨拶がカップル同士の会話みたいになってるぞ!断じてお前とはそういう関係じゃないんだからな!』


『ジョークだニャ!欲求不満なモテない男子に、妄想サービスを提供するのニャ!』


 非常にありがたいが......


『俺はモテない男子ではない!モテすぎて困るくらいだ!』


『その強がりがモテなさそうなオーラを感じさせるのニャ。で、急にどうしたんだニャ?』


 オーラ......?

 初耳だ!女の子はそんなオーラを感じるのか!


『いや、ちょっと相談なんだけど。海に行きたいって人がいるんだよ』


『なんだそんなことかニャ!どんな人ニャ?』


『ドレッドヘアのおっさんなんだけど......いやダメだよな!そんなおっさんと海に行ったって楽しくないもんな!ごめんごめん!変なこと言ったわ!』


 ダメ元で聞いてみた。

 というか、ダメと言ってほしい。


『いいニャ!面白そうだニャ!他にも行きたい人がいればどんどん誘うニャ!』


 え?


『ホントにいいのか!干からびたおっさんだぞ!ヤングな俺たちと話が合わないかもなんだぞ!』


『自分で聞いておいて、なにを言ってるのかニャ?大丈夫だニャ!引率する大人も必要だニャ!』


『そ、そうか。それもそうだな』


 マジかよ。


『そうだニャ!じゃ僕は忙しいからまたニャー!』


 そう言って麻美は電話を切った。


「スティーブ......海行ってもいいって」


「話し声が聞こえていたよ!楽しみだなー!何年ぶりだろう。僕はわりと泳ぎが上手いんだよ」


 スティーブは空中でクロールをするように腕を動かしている。


 なんだか妙な組み合わせで海に行くことになってしまった。


「......はあ」


「ため息ばっかりついてないで、配達配達!じゃいってらっしゃい!」


 ゴキゲンだなこのおっさん。

 チョコレートの入った袋を渡されて、無理矢理配達に駆り出された。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 何度考えてもあり得ない組み合わせだ。

 これで海にいくなんて......

 そうだ!麻美はどんどん誘っていいって言ってたよな!


 あの子を誘おう!


 俺は配達の道すがら、スマホで電話をかけ始めたーーーー

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