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Ice cube②

 夫婦二人だけの食卓は、静寂に包まれていた。


 もう結婚して二十年以上になるが、おしゃべりな妻がこんなにも静かになるとは思わなかった。


 はるがあの宗教団体に殺されてから、妻は日に日に精神を病んでいる。

 一人娘を無くしたのだ。

 そのショックは計り知れない。


「あなたのせいよ......あなたのせいではるは......」


 妻はボソッとつぶやき、静かに泣き始めた。


 最近ではよく見る光景だ。


「もう泣くな。わかってる。私に任せてくれ。必ずはるの仇を討つから」


 気休めにしか聞こえないのだろう。

 妻は泣き止まない。


 ローンで買った広い家の中に、すすり泣く声だけが響いていた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 宗教団体の代表、麻田から文書が来てから、もう一ヶ月は経つと言うのに捜査に進展がない。

 あの宗教団体は、解散してしまったのか?

 いいや、水面下で動いているはずだ。


 しかし、情報が得られないまま時間だけが過ぎてしまった。


 あの文書には、麻田の家族のことを調べるとテロを起こすと言うことが書いてあった。

 しかし、こう手がかりがないともう麻田の家族を当たり、情報を聞き出すしかない。

 私は、慎重に慎重を期して、麻田の家族関係や、その近辺の調査を開始した。


 以下が調査した内容だ。


 新興宗教団体代表 麻田健二

 以前の地下鉄事件の時から、指名手配がかけられている。

 しかし、目撃情報は得られず、今も日本のどこかを逃げ回っている。

 この地域を拠点に新たな宗教団体を作り出したことから、居住地はこの県で間違いないはずなのだが、麻田健二と言う名前の住民登録はない。

 偽名を使って、生活していることが考えられる。


 私は、聞き込みを続けた結果ある情報を手にした。

 それは、十年ほど前にこの街に引っ越してきたある家族のことについてだった。

 麻田の情報が途絶えたのも十年前だ。

 怪しい。私の刑事の感がそう訴えかけてくる。


 その家族はあまり地域交流がなく、近隣の住民からはあまりいい印象を持たれなかったらしい。四人家族で娘が二人。あとは、父親と母親の家庭だ。


 家族の父親は、ひどい火傷のあとがあると言って、いつも顔を包帯でグルグルに巻き、目だけを出していたそうだ。

 私は、その家族に話を聞いてみることにした。


 しかし、会社から入った一本の電話によって調査は中断される。


「青井さん!繁華街の裏道で薬物依存者による事件が発生しました。至急、応援をお願いします!」


 繁華街の裏道?

 以前から、睡眠薬系の薬物が売買されていると言う情報が入っていたが、あまり気にはしていなかった。

 人を凶暴化する類の薬物ではないからだ。

 それに、あの場所は薬の売人たちのネットワークが厳しい。

 睡眠薬系の薬物以外を売っているグループが入れば、すぐに淘汰されてしまうはずだ。

 警察の目も、かなり気にしている。

 事件を起こして、みすみす自分の商売が出来なくなるようなことはしないはずだ。


 それなのに、事件だと?

 私は、繁華街の裏道へ向かった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 事件現場は、人で溢れていた。

 薬物依存者が高校生二人を襲い、最後には意識を無くして倒れてしまったらしい。


 黄色いテープが、薬物依存者が倒れた現場を囲んでいた。


 被害者と薬物依存者はもうそこにはいなかったが、少しの血痕と、事件で使用されたナタの取っ手が残されていた。


「青井さん、現場周辺にいた麻薬取締局の調査員に話を聞きましたが、もう睡眠薬の売人グループはここから手を引いたようです」


 部下の刑事が報告してきた。

 それはそうだ。

 警察沙汰になってしまった場所では、商売なんてできない。

 と言うことは、睡眠薬系のグループの仕業ではないな。

 新しい売人グループが入ってきて、好き勝手やったのだろう。


「そうか。わかった。じゃあ君は、ここらへんに新しい売人グループができていないか、引き続き調査を頼む」


「はい、わかりました。それで、今事情聴取をやってる高校生なんですが。薬師寺クリスって青井さんが担当した事件で聞いた名前ではないですか?」


 薬師寺クリス?

 あのお兄ちゃんか。

 まさか、この事件に関わっているとは。

 待てよ。

 もしかすると、これはあの宗教団体も関係しているのか?


「知っている。宗教団体関連の被害者家族だ」


「そうなんですね。彼はあの薬物依存者に、事故ですがケガを負わせてしまったらしくて。もしかすると、このままでは過剰防衛で裁判も考えられるそうです」


 なんてことだ。

 彼は事件に巻き込まれただけなのに。

 妹さんにあんなことがあったばかりだ。

 どうにかしてやれないものか......


 考えながら、集まった人だかりの方に目をやる。

 すると、目を疑う光景があった。

 真っ黒なフード付きのマントを羽織って、魔法使いのような格好をした人物がいたのだ。

 フードを被っていて口元しか見えない。

 しかし、身長や背格好、唇の感じから女だとわかった。


 私は一目で、この事件に宗教団体が関わっていると確信した。


 なぜならその女の格好は、地下鉄事件を起こした宗教団体の制服姿だったからだ。

 女は、私に見られていることに気づくと、ニヤっと笑い、すぐにその場から離れて人混みに消えて行った。


「待て!そこのあなた!止まりなさい!」


 私は女を追いかけた。

 人混みをかき分け、女が消えた方向に進む。

 やっと人混みを抜けたところで、女の姿を見つけることはできなかった。


 麻田、今度は一体何を考えているのだ。


 私は、この事件を宗教団体関連の事件として、極秘に受け持つ許可を取りに署へ急いだーーーー

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