Red hot③
11/10 一部修正致しました。話の大筋には、関係のない箇所です。大変ご迷惑をおかけしました。
「あ、スティーブか?今全部届け終わったよ。チョコレートまだ余ってるけど、もう遅いから明日でもいいだろ?ん?あーわかってるわかってる。真っ直ぐ家に帰るから、絶対大丈夫だって!じゃ、また明日。おつかれです」
俺は電話を切った。
慣れとは怖いものだ。
最初はあんなにチョコレートを持って帰るのが怖かったのに、今じゃなんともない。
むしろ、スティーブの方が心配してくるようになった。
警察に止められたことなんて一回もない。
あ、青井には止められたが、バレてないからセーフだ。
俺は、恵ちゃんと初めて喋ったあと、いつも通りバイトに行った。バイトでは、いつも学ランを着るようにしている。合服の白シャツは、胸のところにネームが入っているためだ。
今日はかなり忙しくて、最後の配達が終わった頃には、もう日付が変わりそうになっていた。
しかし、最後の配達先が繁華街だったこともあり、まだ人通りは多い。見回りの警察の姿もチラホラ見えた。
法律で、子供は夜の十一時以降は出歩いてはいけないらしい。このまま繁華街の中を歩いて警察に補導されるよりも、人の少ない裏道を通った方が安全だ。いざとなれば、逃げ回れる。
俺は、繁華街の裏側の細道を通ることにした。
すぐ近くは繁華街だと言うのに、人っ子ひとり見当たらない。壁には、スプレーで書いたと思われる大きな落書きがあちこちに見られる。しかし、暗いのでなんて書いてあるのかはわからない。
ミスったかな。
なんだか、治安が悪そうだ。
しかし、非合法のチョコレートを持っている俺が、治安が悪そうだと言うのは、なにか間違っている気がする。
治安を悪くしているのは、むしろ俺だろうから。
そんなことを考えながら、歩いていた時だった。
ジャリ
と背中の方から、音がした。
何の音だ?と思い、体を捻る形で振り返った。
ブオン!
と、俺の横顔スレスレに、細長い棒の様な物が振り下ろされる。体を捻っていたため、間一髪俺の体に当たることはなかった。しかし、その細長い棒の風圧により、俺の右半分のほっぺたから、かまいたちの様な切り傷を感じた。
え?
と一瞬思ったのもつかの間、今度は俺の脇腹をすごい速さで狙ってくる。
マズい!
目では見えているのに全く体が動かない。
ドス!
と言う音と共にその細長い棒は俺の脇腹を打ち抜いた。
「ウッ」と思わず声が出た。
早いし重い。
ダメージを負った俺は、脇腹を抑えながらその場に膝をつく。
ううっ、痛てぇ。
一体何が起こっているんだ!
なぜ俺は襲われているんだ!
俺を襲った犯人を確認するため、顔を上げた。
スッ
と顔の前に木刀の先を向けられる。
まるで、動くな、とでも言っているようだ。
「やっと見つけたわ。観念しなさい」
俺に木刀を向け、さも追い詰めたと言わんばかりの表情でそう言ったのは、俺と同じ高校の制服を着た、ツインテールの女の子だった。
「ちょ、ちょっと待て!何かの勘違いだ!俺は何もしてない!」
俺は脇腹を抑えていた手を離し、両手を上げて降参のポーズをとった。
「何もしてないですって?よくそんなことが言えるわね!あの子は......咲はあんたから買ったラムネ菓子のせいで、今も意識が戻らないのよ!」
意識が戻らない?ラムネ菓子?
なんのことだよ!
絶対に人違いだ!
「ち、ちがう!俺はラムネなんて売ってない!本当だ!」
ツインテールの女の子は、フンっと鼻で笑った。
「ウソついても無駄よ!私の目は誤魔化せない!聞いたのよ!最近、黒い服でこの辺りをウロウロしてる怪しいやつがラムネを売ってるって!あなたしかいない!」
「待ってくれよ!黒い服って、俺は学ランだぞ!君と同じ高校なんだ!それにラムネなんて持ってない!証拠を見せてもいい!」
俺は、鞄の中から生徒手帳を取り出して、女の子に見せる。
「あれ?あんた本当に私と同じ高校じゃない!それに、よく見たら......学ラン.....だわ」
そう言うと、ツインテールの女の子は木刀を下ろした。
俺は、ホッと肩の力が抜けた。
がしかし、女の子は再度木刀の先をを俺の顔の前に向けた。
「あぶなかったわ。騙される所だった。悪党が同じ学校の生徒だとしても、なにもおかしくはないんだから。その鞄の中に、ラムネが入ってるんでしょう?見せなさい!」
どうする俺!
鞄の中には、さっき配達で余ったチョコレートがいくつか入ってる。
見せたら、この女の子に非合法なチョコレートを配達していることがバレてしまう。
見せなければ俺は木刀でボコボコにされてしまうだろう。
どっちを選んでも、バッドエンドが待っている。
いや待てよ、ここでこのチョコレートを見せたところで、彼女は俺が犯罪を犯していると思うだろうか?そもそも、このチョコレートは、どう見ても普通のチョコレートにしか見えない。彼女が探しているのは、ラムネ?を売っている怪しいやつだ。
大丈夫だ。俺の犯罪行為がバレることはない。見せよう!
俺は、恐る恐る自分の鞄を広げて彼女に見せた。
ツインテールの女の子は、やっと観念したわね、と言い俺の鞄を覗き込む。
ーーーーその時だった。
ダッダッダッダツ、とすごい勢いで、誰かがこちらに走ってくる音が聞こえた。
俺の鞄の中を覗き込んでいた彼女も、その音が気になったようだ。覗き込むのをやめ、音のする方向に目を向けた。
俺も、鞄を広げたまま足音のする方を見た。
暗闇の中から、だんだんと足音が近づいてくる。
足音から推測するに、体重の軽い人が走っているとは思えない。一歩一歩が重い。しかし、早い。
ちょうど、その足音が街灯の下を通過した。
足音の正体が一瞬だけ、姿を表す。
え?
なんだ今の。
足音の正体は、異常に体が大きい男だった。
体が大きいと言うのは、身長だけでなく横幅もあると言うことだ。むしろ横幅がハンパしゃない。デブの最上級だ。
しかしその男は、その体格からは考えられないスピードでこちらに向かってくる。
男の手には、なにやらナタのようなものが握られていた。ハッキリと確認できなかったのは、そのナタのような物を男が振り回していたからだろう。
全く意味がわからない。
なんなの本当に。今日は、初めて学校で可愛い女の子と話せて、ルンルン気分だったのに。
木刀で殴られて、犯人扱いされたと思ったら、モンスターのような大男がダッシュで近づいてきている。
ワッツ???
しかし、そんなに今日の出来事を振り返っている時間もなかった。
なぜなら、その大男がすぐ近くまで来ていたからだ。
一向にペースを落とす気配がない。
このままでは、殺られる。
「何よ、あれ」
ツインテールの女の子は、すぐに危険を察知したらしい。
木刀を俺の顔の前から、そのダッシュでこちらに向かって来る大男の方に向け、構える。
俺は、立ち上がりその大男の向かって来る方向に目をやる。
ダッダッダッダツ。
大男がこちらから見える位置まできた。
「ヒエっ!」
女の子は後ずさりした。
ブォンブォンとナタを振り回す音も良く聞こえる。
大男は笑いながら、こちらに向かって来ている。
しかし、目の焦点があっておらず、グルグルと動いていた。
口からはヨダレが垂れていて、なにかブツブツとつぶやいている。
気持ち悪い。
「ちょっとあんた、止まりなさいよ!」
女の子が大声で話しかけるが、一向に返事が帰ってこない。
それどころか、こちらに向かう速度が上がった気がする。
「おい、ヤバいって。目がイってるよ、あいつ」
俺は女の子に話しかけた。
「ウルサイ!悪党は黙ってて!わたしがあのデブを止めるんだから!」
女の子は、あの大男に立ち向かおうとしている。
マジかよ。
あれは無理だろう。
大男が俺らの所に来るまで、
あと5メートル。
ダッダッダッダッ。ブォンブォン。
4メートル。
ダッダッダッダッ。ブォンブォン。
3メートル。
ダッダッダッダッ。ブォンブォン。
2メートル。
「やっぱムリ!キモすぎ!」
そう言うと、女の子は大男と反対方向に走り始めた。
え?
「ちょ、待ってくれよ!」
ブォン!
そう俺が言った瞬間、ナタが振り下ろされる音がした。
俺は、すぐにサイドステップで横に避けた。
空気を切り裂いたそのナタは、地面まで振り下ろされ、コンクリートの道にガツンと小さい穴を開けた。
「はずした〜。次〜、次は、ぜ〜ったい仕留める」
大男は、ニヤニヤと笑っている。
恐怖で、体が震える。
しかし、このままではヤバい。逃げなくては!
俺は急いで、あの女の子が走って行った方向に走り始めた。




