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Red hot②

 本日二軒目の、客の自宅に向かう途中。

 小さな公園を通った。


「薬師寺君!」


 俺がその公園の前を横切る一瞬のタイミングで、誰かに呼び止められた。

 俺はビックリして、地面から飛び上がりそうになった。

 なぜなら、非合法の薬用チョコレートを持っているからだ。

 いや、しかし、俺がこのチョコレートを配達するバイトを始めたとは、誰にも言っていない。

 誰も、俺がそんな犯罪行為をやっているとは思わないだろう。

 だから、普通に対応すれば何も問題はない。

 多分、声をかけてきたのは、道に迷ったお年寄りか、ジャニーズのスカウトとかだろう。

 俺は、余裕の表情でその声がした方を振り返る。


 背筋が凍った......

 俺を呼び止めたのは、薬物対策課の刑事、青井だったからだ。

 青井は、公園のベンチに座りながら、こちらに手を振っている。

 おいおいおいおい、バレたのか?

 誰にも言ってないのに!

 ピンチすぎる!

 俺は、恐る恐る青井の近くまで行き、挨拶した。


「こ、こんにちわ青井さん。こんな所で会うなんて、き、奇遇だなー、はは」


 ヤバい、テンパってるのがバレる。

 しかし青井は、なにかいつもと雰囲気が違っている。

 どこか、元気がなさそうな、悲しい笑顔に見えた。

 よく見ると片方の手には缶ビールが握られている。

 いいのか!刑事さん!


「私もこんな公園で会うとは思いませんでしたよ。家や、病院とは全然違う方向ですが、何かご用事ですかな?」


「え?あ、その、友達の家に遊びに行こうかなと......」


 苦しまぎれだが、良くやった俺!

 高校の友達の家なら怪しまれないだろう!


「こんな時間にですか?」


 え?と思い、スマホの時計を見ると、もう19:00になっていた。

 しまった!

 友達の家に遊びに行く時間にしては遅すぎたか!


「えっと......ちよ、チョコレートパーティーがですね、開かれて、その、です」


 やったことねー!

 そもそも、なんだよチョコレートパーティーって!

 目隠しチョコレートで、これは、ゴディバですね。とか言うのか?

 たこやきパーティーとかにすればよかった......

 ヤバい!

 怪しいかもしれない!


「あぁそうなんですか。今時の高校生はチョコレートをオシャレに楽しむものなんですね。いいなあ、楽しそうで」


 そう言うと、青井は缶ビールを一口飲んだ。

 やった!割となんとかなってる!

 このまま、じゃ急ぐので、とか言ってフェードアウトだ!


「じゃ、急!」

「今日のことですが......」


 俺の言葉に被せるように青井が喋り始めた。


「昼過ぎに、娘が死んでいると言う連絡が入りましてね。あの宗教団体にやられたみたいです」


 な、なんで青井の娘が?

 ん?青井?って、あのカップルの、女の方の名字じゃなかったか?

 まさか!でも、タイミングが合いすぎてる。

 たしかニュースでも発見されたのは昼頃だって......


「ニュースにもなったみたいですね。ご覧になってませんか?ラブホテルのカップル変死体事件」


 や、やっぱり!

 あのカップルの女だったのか!

 そうだ!

 スティーブも、Light danceってガムを食べて死んだって言ってた!


「あ、あの、青井さん。娘さんのこと、残念です」


 こう言う時に、かける言葉がわからない。


「いえ、ありがとう。しかし、娘が死んだのも、私のせいみたいなものなんですよ」


 青井は、悲しい表情で夜空を見上げた。


「詳しくは言えないんですが、君の妹さんの件も元の原因は私にあると言ってもいいでしょう。ですから、薬師寺さん。私はあの宗教団体を徹底的に潰すことにしました。妹さんの仇もとります。なので、私を許してもらえないでしょうか?」


 許すなんて......

 むしろ感謝してるくらいなのに。


「青井さん、俺は青井を責めたりなんてしないですよ。青井さんは、セナが誘拐された時も一生懸命助けようとしてくれたじゃないですか」


 夜空を見上げていた青井は、俺の方を向く。


「そう言ってもらえると嬉しいです。ですが、これだけは頭に入れて置いてください。妹さんの事件も、娘の事件も、すべては私のせいなんです。君が私に妹さんの責任をとれと言うのなら、私は喜んで死にます」


 青井は、真剣な顔でそう言った。

 覚悟を決めた目だ。


「だ、大丈夫ですよ。俺は青井さんに死ねなんて言いませんから!娘さんが亡くなって、弱気になってるんですよ!」


「弱気......ですか。そうかもしれませんね。娘が死んだと連絡を貰ってから、私は会社に戻っていません。まだ信じられなくてね。このベンチに座って、ずっと現実逃避していました。薬師寺君より二つ年上だが、わがままの世間知らずでね。でも、私にとっては自慢の娘だった......」


 家族が亡くなってしまった悲しみは、俺にもわかる。

 大事な娘さんだったんだろう。


「青井さん......」


「しかし、君と話していたら、元気になってきたよ。現実を受け止めて、娘に会ってこようと思う。そうだ。あの宗教団体について、なにかわかったことがあったら教えてくれないか?噂でもなんでもいい」


 青井は、笑顔でそう言い、ポケットからガラケーを取り出し、電話番号を教えてくれと頼んできた。

 俺は、「飛ばし」のプリペイドケータイを取り出しそうになって焦ったが、ギリギリでスマホの方を取り出し番号を教えた。


「それじゃあ。引き止めて悪かったね」


 そう言って、青井は公園から出て行った。

 なにか、大変な事件になってきている。

 あのLight danceと言うガムで信者を勧誘する宗教団体。

 このバイトをやっていれば、嫌でも関わりがあるだろう。

 セナの意識を戻す方法も、あの宗教団体が握っているかもしれない。

 俺は、夜空を見上げてそう考えていた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ガツッ!


「コラっ!また居眠りか!」


 痛っ!中年数学教師から生徒名簿の角で叩かれた。

 窓の外を眺めながら考え事をしていたら、いつの間にか眠っていたらしい。

 他の生徒が俺を見てクスクス笑っていた。

 うわ、恥ずかしい。


「それじゃあ、眠気覚しにこの問題の答えを言ってみろ!」


 中年教師がムチャ振りをしてきた。

 ヤバい、全然わからん。

 俺が答えられずにアタフタしていると、隣の席の女の子に足を、ツンツンとつつかれた。

 女の子の方を見ると、机の上に教科書を立てて顔を隠しながら、小声で何か言っている。


「(a−1)(b−c)だよ」


 助かった!

 隣の席の女の子が、女神にみえた。

 俺は、自信満々に答えを言った。

 中年教師は、おお!やるな!と言い俺を見直したようだ。

 すると、ちょうど授業の終わりの鐘がなった。

 それでは、続きはまた明日、と言って中年教師は教室を出て行った。


 今日は、さっきの数学で授業は全部終わった。

 俺は授業の時のお礼を言おうと、隣の席の方を振り向く。

 すると、答えを教えてくれた女の子と3秒ぐらい目が合ってしまった。すぐに目をそらす。

 授業の時は気づかなかったが、めちゃくちゃ可愛い!

 サラサラとした黒いロングの髪に、クリッとした大きな目と整った顔立ち。赤いメガネをかけているが、金髪ならフランス人形みたいだ。

 知的な雰囲気にさりげない遊び心。グッド!

 しかし、女の子と見つめ合ったのは初めてだ。

 俺、赤くなってないよな!

 ヤバい!俺は中学生の時、女の子とあまり会話をしたことがない。

 つまり、女の子に耐性がないのだ。


「えっと......薬師寺君?なにか、用かな?」


 ハッとした。

 ヤバい!なんて言おう。

 こんな可愛い子が隣にいるなんて、なんで今まで気がつかなかったんだ!


「あの、さっきは、あり、あり、ありがとう!」


 噛んでしまった!

 クソ!

 女の子と話し慣れていない感が、バツグンだ!


「あー!全然いーよ!薬師寺君、妹さんのことで大変そうだし!疲れてるんだよね?」


 ん?なんでこの可愛い子は俺のことを知ってるんだ?


「そう!そうなんだ!えっと......俺、じゃなくて、あの、君はなんで俺のことを?」


 可愛い女の子は、あーそっか!それもそうだよね!と言った。


「薬師寺君が学校を休んでる間にクラス委員を決めたんだけど、私が委員長になったんだ。それで、先生から薬師寺君のことを聞いてて、その、妹さんが入院してるって......」


 そうだったのか!

 委員長なら、休んでいる俺の心配をして先生から聞いていてもおかしくない!

 だとすると、近藤やクラスのみんなが誘拐のことを知ってて、イジメがなくなったのは、この委員長のおかげ?

 いや、それは考え過ぎか。


「そ、そうそう!妹が入院してて、忙しくってさ!で、あの委員長はなんて名前だったっけ?ごめん!覚えてなくて!」


 すると、委員長はほっぺたを膨らませた。

 かーわうぃー!


「もう!隣の席の女の子の名前くらい覚えてよね!まあ、あんなことがあったあとだし、無理もないか!私は、薬野恵(くすりのめぐみ)っていいます。薬師寺君は......くりすでよかったんだよね?」


「そ、そうだよ!こ、これからもよろしく!薬野さん!」


 恵でいいよ。と言われた。

 めぐみちゃんかー!

 ついに俺にも春が回ってきそうな予感だ!

 しかし、俺と恵ちゃんが話しているのを遮るように、担任の先生が、恵ちゃんを呼び出す。


「じゃ、また明日ね!」


 と言って恵ちゃんは担任の先生を追いかけて、教室を出て行った。

 あのいまいましい担任め!

 俺と恵ちゃんのハッピータイムを引き裂きやがって!

 俺は恵ちゃんとの短い会話を思い出しながら、渋々学校を出てバイトへ向かった。












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