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Light dance④

11/4 20:25 ミスを発見したので追記、改稿しました。

 あの異常な結末を迎えた誘拐事件の後、少女は病院へ搬送され、少女の下で転がっていた男達の遺体は検死へと回された。検死の結果、なんらかの薬物の成分が発見されたのだが、その成分は現代の日本では未確認のものだった。


あの謎の宗教団体が信者に投与していたのは、新種の薬物だったということだ。


男達の異常な死に方も、薬物の副作用では?と言う意見がなされた。確かに、それしか考えられない。しかし、そうすると同じ薬物を投与されたであろうあの少女は、なぜ死なずに済んだのかがわからない。一体どういうことなのだ。そして、なぜ吉田はあの少女を狙ったのか。


少女の意識が戻ればわかるかもしれない。

 なにか聞いていたはずだ。


あと一つ、私にはどうも引っかかっていることがあった。それは、死んだ男達の口の中にガムが入っていたことだ。一人だけの口に入っていたのなら、ここまで気になることではなかった。しかし、三人共ガムを噛みながら死んでいたのだ。

ガム、か............



 被害者の少女の経過を聞きに、病院へ向かった。

 彼女の担当医はちょうど時間が空いていたらしく、すぐに話を聞くことができた。少女の体は、もう健康そのものらしい。しかし、検査の結果、彼女はあの薬物の影響により意識不明になっているそうだ。

検査のおかげで、なぜ少女があの薬物を投与されてもなお生きているのかはわかった。彼女は、あの薬物と相性の悪い体質だったのだ。アレルギー症状が出ていたためにわかったことらしい。意識は戻らなくとも、あの男達のような無残な姿にはならずにすんだ。喜ぶべきことではないが、死なずにすんだだけまだ救いがある。


生きているということは、それだけで価値があるものだ。


そう言い聞かせなければ、自分がダメになってしまいそうだ。彼女がああなってしまったのは私の責任だ。絶対にあの宗教団体をゆるさない。私が潰してやる。

彼女のためにも、吉田のためにも。

 そう固く決意した。


 担当医は最後に、私に見てもらいたいものがあると言った。それは、彼女の口の中に入っていた、ガムだった。

 私は確信した。

 このガムがなにか重要なカギを握っている。

 持ち帰って、男達の口の中に入っていたガムと同じものか調べてみる価値がある。

 担当医からそのガムを預かり、部屋をでた。


 彼女の容体はわかっていたが、一応様子を伺ってから帰ろうと、彼女の病室へ向かっていた。すると、病室の前の長椅子に、グッタリとした彼女の兄が座っていた。


「こんにちわ。薬師寺君」


 元気づけようと話かけてみた。


「どうやら、学校へも行かずに妹さんの意識が戻るのを待っていると言うのは、本当みたいだね。先生に聞いたよ」


 彼は、相当妹が心配なのだろう。

 それはそうだ。二人しかいない家族なのだから。


「刑事さん。どうしたんですか」


 なんて目だ。生気を失っている。


「それがね、私も君の妹さんの意識が戻るのを待っていてね。妹さんには、聞かなければならないことがあるんだよ」


 とにかく会話をして、彼を元気づけるつもりだった。


「セナになにを聞くつもりですか?」


「いや、私が追っている事件のことでね」


「セナに投与された薬物のことですか?」


 ほう。勘がいいな。まあ、あの妹の行動や言動からすればわかることか。それに、私が薬物対策課だと彼は知っている。


「ざっつらいと!その通りさ。実は、君の妹さんを誘拐した犯人は、私が前々から目を付けていてね。その犯人てのが、怪しい宗教団体なんだよ」


 わざと面白い喋り方をした。この程度なら彼に喋っても構わないだろう。被害者の家族なのだから。


「宗教団体?それと薬物になんの関係があるんですか?」


「宗教団体と薬物ってのは、切っても切り離せないものなんだよ。過去にテレビでも有名になったカルト教団も、信者に薬物を投与し、軽いトリップ体験をさせて信仰を深めさせたと言う事例もあるんだ」


 あの地下鉄事件の宗教団体の話をした。

 しかし、自分が今話していることなのだが、なにか違和感を感じる。なぜだ。


「ごほん、話を戻そう。私が追っていたその宗教団体も、薬物を使用して信者を増やしているらしい。しかし、その薬物が全く未知の物でね。わかっていることは、その薬物を使用すると死ぬという事だけなんだ」


「死ぬって......じゃあ、妹も......」


 心配するな。妹さんは死ぬことはないだろう。

 しかし、下手なことは言えない。


「誘拐犯の男共の死体を検死した結果、妹さんみたいなアレルギー反応は見られなかった。多分、後から先生に聞かされるだろうが、君の妹さんはその薬物とは相性が悪い体質らしいね。しかし、その体質のおかげで最悪の事態はまぬがれた」


 あの男達のような事態は、だが。

 話していて申し訳ない気持ちが襲ってくる。


「まあ、これからどうなるかわからないが、一日でも早く妹さんの意識が戻って捜査に協力してくれることを願ってるよ」


 ダメだ。限界だ。すまない。

 妹さんの仇は私が必ずとる。

 待っていてくれ。

 私は、帰ろうと歩き始めた。


「ちょっと待ってください。なんでその宗教団体は、信者が死ぬような薬物を使ってるんですか?信者を増やすっていう本来の目的を考えたら、本末転倒じゃないですか?」


 本末転倒、実にその通りだ。ん?

 今、あの地下鉄事件を話していた時の違和感が、また襲ってくる。なんなのだ。一体私は、なぜ違和感を感じているんだ。わからない。しかし、この違和感は良くないものであることは確かだ。


「それがわからないから、君の妹に話を聞いてみたいんだよ。それに、君はこの薬物の存在を知ってしまった。こんな意味不明な宗教団体だ。もしかしたら君も狙われる可能性があるかもしれない。おでこに丸い焼印のある奴らには注意しなさい」


 彼にあの宗教団体に注意するよう言った。

 違和感の正体はわからなかったが、彼のことかもしれない。気をつけてもらった方がいいだろう。

 私は病院をあとにした。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 翌日、あのガムについて調べるため、県外にいる薬学に詳しい専門家に分析を依頼しに行った。長距離の移動のため、その日はそれだけで業務が終わってしまった。

 あの誘拐事件依頼、宗教団体に全く動きがない。

 どんなに調査しようとも、なんの情報も得られなかった。

 分析をお願いしたガムから何か分かればいいのだが。

 それにしても、昨日病院で感じたあの違和感の正体が全くわからない。地下鉄事件の宗教団体と、今回の宗教団体。スパイとして送り込んだ吉田。そして、あの少年の言った本末転倒と言う言葉。それらが、関わってくるのは間違いないと思うのだが............ダメだ。わからん。

 私は、久しぶりに定時で仕事を切り上げた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「母さん、はるはまだ帰ってこないのか?」


「お父さんまだ言ってるの?はるはもう二十歳(はたち)よ。朝帰りすることだってあるでしょうに」


 せっかく定時に帰ったと言うのに、家族団らんと言う訳にはいかなかった。一人娘のはるが帰ってこないのだ。

 妻からは、なにやらワイルドな彼氏ができたらしいと聞いていた。しかし、家にも電話せずに、はるが帰ってこないのは初めてのことだ。落ち着かない。

 はるは、高校まではエスカレーター式の女子校へ通わせていた。そのため、少し世間知らずなところがある。多分、男女共学の大学へ入ったため、悪い虫にそそのかされたに違いない。はるはこんな不良なことをする娘ではない。


 とうとう、朝方まではるが戻ることはなかった。

 その代わりと言ってはなんだが、会社から呼び出しが入った。

 なにやら私に手紙が届いているらしい。

 差出人が不明なのだが、一応事件の有力情報かもしれない。すぐに会社に来るようにと言われた。

 そんなもの、私を待たずに開封してしまえばいいのに。

 これだから公務員は生真面目過ぎて困るのだ。

 よく寝付けなかった。まだ疲れが残っている。

 親として、今日はるが帰ったら説教をしなければならないだろう。

 足早に身支度を済ませ、会社へ向かった。



 会社へ到着した。

 私宛に届いたと言うその手紙を受け取る。

 休憩室でコーヒーを淹れ、自分のデスクまで持っていき一口飲む。

 この歳で睡眠不足と言うのは体にこたえる。

 はあ、と深い溜息をついた。

 差出人不明の手紙。

 思いあたる節はない。

 開封しその内容を読んでみた。


 **************************


 薬物対策課 青井様


 お久しぶりです。

 と言ってもあなたは、私のことがお分かりにならないでしょう。なぜなら、あなたは私と直接お会いしたことが無いからでございます。

 あなたには、以前大変ご迷惑をこうむりました。

 覚えていらっしゃいますでしょうか?


 私はあの宗教団体の教祖をしていたものです。


 あの地下鉄事件以降、あなたのおかげで私の人生は狂ってしまいました。スパイを送りこんでいたそうですね?私が一から築いてきた、汗と涙の結晶とも言えるあの団体は、あなたが壊したようなものでございます。

 しかし、私はもうあの宗教団体のことはいいのです。


 なぜなら、この度新しい宗教団体を設立したからです。


 設立を記念して、青井様にプレゼントをお送りしましたが、喜んで頂けましたでしょうか?

 そうです!あなたは、ばかの一つ覚えのように、またスパイを送りこんで来たではありませんか。

 私は大変嬉しく思いました。

 あの吉田君と言うスパイは、私のカリスマ性とあの薬のおかげで生まれ変わったのです。

 ただ、彼にはあなたのプレゼントになって頂くことにしました。

 彼には、自分が薬のせいで死に近ずいていると言うことをお伝えしませんでした。

 代わりに、生贄を捧げなければ君は死ぬ。とお伝えしました。

 するとどうでしょう。

 彼は、あの路地に時々姿を表す少女をさらい、生贄にしたではありませんか。前々から計画していたようです。

 まあ、失敗したのは残念ですが。

 彼はもう、警察官と言う自覚さえなくなっていたようですね。笑いが止まりません。

 もうお気づきでしょうが、あの薬によって、彼は芸術的な最後を遂げたはずです。

 どうでしたか?自分のせいで人が死ぬと言うのは。


 これは私からあなたへの復讐でございます。


 ところで、あなたの娘さんは昨日帰って来ましたか?

 娘を溺愛しているあなたは、気になって夜も眠れないと言った感じでしょうか。

 しかし、ご安心下さい。

 娘さんはもうあなたのもとへ帰ることはないのですから。

 これが、私からの二つ目のプレゼントでございます。

 忠告いたします。

 これ以上、あなた方警察が私の家族のことを嗅ぎまわるのであれば、また地下鉄事件のようなことが起こるかもしれませんね。

 それでは。一生懸命に娘さんをお探しください。


 **************************


 読み終えた私は、しばらく動くことができなかった。

 放心状態と言うものだろうか。

 人は現実が受け入れられないと、思考を止めてしまうのだと初めてわかった。

 しかし、すぐ我に返り会社を飛び出していた。

 刑事課や、その他の部署にも協力してくれるよう頼みまわり、はるの捜索を開始する。

あの病院で感じていた違和感の正体はこれだったのか。

確かに、確かにあいつは私を恨んでいるに違いない。

私に復讐するためだけに、あの宗教団体を作ったというのか?

いや、もっとなにか別の目的があるに違いない。

しかし、今はそれを考えている暇はない。

......はる.........生きていてくれ..........




 昼を過ぎた頃、私のケータイに電話が入った。

 ラブホテルの一室に、はると思われる死体が見つかったと言う報告だった。死因は、聞かなくてもわかった。

 私は出先の路上だったにもかかわらず、その場に崩れ落ちた。

 一目をはばからず、涙が溢れる。

 なぜだ。なぜはるが犠牲にならんといかんのだ。

 はるは何もしていない。

 お前の仇は俺ではないのか。

 俺を殺せば良かっただろう。

 なのに............なのにお前は.........

 俺はお前を絶対に許さない。絶対にだ。

 覚悟しておけ。

 たとえ俺の命が危険にさらされようとも、

 麻田、お前だけは.........お前だけはこの手で殺す。


 新興宗教団体 教祖、麻田と私の因縁の戦いが始まりを告げた。



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