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チョコレイトディスコ⑧

 ーーーーーー医者にはああ言ったものの、俺は働いたことがない。

病院を出てから、一体何から始めたらいいか考えたあげく、コンビニに寄り、無料のアルバイト冊子をかき集めて家へ帰った。


初めて見たアルバイト冊子には、コンビニ、ピザの宅配、引っ越し業者の手伝いなど、色々な仕事が紹介されていた。

しかし、高校生もできるアルバイトは少かった。

たとえ高校生可だったとしても、スーパーのレジ担当の時給では、妹の入院費さえ払えない。


月に五十万を稼ぐことが、どれだけ大変なことなのか改めて実感した。


どうしたものか。俺は、パソコンを開き、ダメ元で『高時給 高校生可 求人』と検索してみた。

すると、いくつかの検索がヒットした。

しかし、どれもスーパーより100円〜200円時給が高い仕事ばかりだ。

ここもダメだ。

試しに高校生可を消して検索をかけてみる。

色々な高時給の仕事が出てきた。ITがどうたら、薬剤師がどうたら、車の工場もあった。

しかし、大人の仕事でも五十万を稼ぐのは難しいらしい。

なんてことだ。

半ば諦め気味に、パソコンの画面に映る求人情報をスクロールする。

ダメだ。次のページ。これもダメ。次のページ。

どれだけページをめくったのだろう。

もうパソコンの前に座ってから結構な時間が経っていた。

明るかった窓の外は、もう何も見えないほど闇に包まれている。

高校生が五十万稼ぐなんて、土台無理な話なのだろう。

ごめんよセナ。今回ばかりは、お兄ちゃんはお前を助けることができないかもしれない。

 そう思い始めた、その時だった。


 小さい文字で、『ドラッグストアのアルバイト募集』とだけ書かれたリンク文字を発見した。


普通に見たら、絶対にスルーするような、目立たないリンク文字だった。

俺は、吸い込い寄せられる様に、そのリンク文字をクリックする。

すると、黒い背景が映しだされ、真ん中に求人情報が浮かび上がってきた。

なんて手の込んだ、求人情報のページなんだろう。と思いながら、その内容を読んでみた。


『ドラッグストアのアルバイト募集!』


 ドラッグストアで一緒に働いて頂ける方を、募集します。作業はカンタン!未経験大歓迎の明るい職場でーす!


 ◆必要な資格、経験◆

 経験不問、未経験大歓迎!

 やる気だけを持って来てね!

 ◆年齢、性別◆

 年齢不問、性別不問

 ストライクゾーン広めです!

 ◆時給◆

 時給5000円〜

 わーお!お高い!

 ◆シフト、休日◆

 年中無休、24時間営業

 週3日以上〜 5時間〜

 副業にも最適!

 ◆応募方法◆

 ○□△-○□△○-□△○□

 こちらまで、お電話ください!

 面接の日時をお伝えします!


 ーーーー目を疑った。

いや、夢かもしれないと思って目をこすったり、ほっぺたをつねったりしてみた。しかし、何度見てもその求人情報には、『時給5000円』と書いてあった。


これしかない。


時給5000円なら、どうにかシフトを調整してもらえれば、五十万を稼げるかもしれない。しかし、高校生でもできるのだろうか?

もしかしたら、面接さえしてもらえないかもしれない。

いや、もうこれしかないんだ。訳を話して、どうにか働かせてもらおう。

 俺はスマホを取り出し、求人情報に書いてある番号に、電話をかけてみた。呼び出し音は、クラシック音楽が流れていた。


「あーはいはい。どちらさん?」


 若いのか、年をとっているのかわからない声の男が出た。


「あの、求人情報を見たんですけど......」


「おー!バイト希望?丁度良かった!前のバイトの子がやめちゃって、人出不足だったんだよー。明日面接に来れるかい?」


 男は、急にテンションが上がり始めた。それにしても、ナイスタイミングだ!なんとか働けるかもしれない。しかし、


「俺......高校生なんですけど、大丈夫ですか?」


「ムムッ、高校生?そうか......どうしたもんかな......」


 意を決してカミングアウトしてみた。

 男は、どうしようと考えていた。


「ま!大丈夫っしょ!明日面接来てよ!それと名前教えて

 くれるかな?」


 男は軽い感じで返事をだした。だけどこれで、面接まではいける!


「は、はい!頑張ります!薬師寺クリスって言います!よろしくお願いします!」


「薬師寺?珍しい名前だねー。じゃあ店の住所教えるから、何か控えてくれると嬉しいな」


「はい、大丈夫です。いつでも言ってください」


 男は、店の住所を教えると、じゃまたねー、と言って電話を切った。

 よっしゃー!一時はどうなるかと思ったが、なんとか働き口を見つけた。希望が湧いてきた。これで、セナを救えるかもしれない。明日の面接で頑張らないと!そーと決まれば、そろそろ寝よう!

 俺は、明日の面接に備えて早めに寝ることにした。


 ーーーーーー翌日、俺は面接を受けるために、男から教えてもらった住所へ向かっていた。


 昨日、あのドラッグストアの求人を見つけ、勢いのままに電話して面接を取り付けたが、本当に大丈夫だろうか。ドラッグストアって、薬屋さんのことだよな。

俺には薬の知識なんて全くないし、バイトも初めてだ。

レジとか、商品を並べたりするのか?

それにしても、時給が良すぎないか?

他の薬屋さんは高くても時給900円ぐらいだった。

結構大きな薬屋さんなのか?

そんな考え事をしながらも、道を進んでいく。

しかし、段々と民家が密集する地域へと入っていった。

ドラッグストアと言えば、結構大きな店舗に、薬だけでなく化粧品や酒、簡単な日常雑貨などが売っている、スーパーのようなイメージがあった。

こんな民家が密集している地域に、そんな大きな店舗があるとは考えられない。



 到着した。

しかし、住所通りの場所には、ドラッグストアらしい店はなかった。その代わり、一軒の小さな家が建っていた。

周りは人も通れないほど家が隣接している。

なんだここは。

カンバンさえない。普通の家だ。

俺は、かなり不安になったが、約束の時間である事に気づき、チャイムを鳴らした。


なかなか出てこない。


いないのか?俺は、人が出てくるのを待つ間、その家の外観を眺めていた。すると、玄関のドアの上のほうに小さい監視カメラが付いていることに気づいた。

なぜ、こんな普通の家に監視カメラが?

監視カメラからは、ジジジっと音がしていた。

今、俺を見ているのだろうか?監視カメラに夢中になっていると、ガチャ、っとドアが開いた。


「いらっしゃ〜い。待っていたよ。薬師寺クリス君」


 ドレッド、と言うのだろうか。

ボブマーリーのような髪型に、黒い甚平を着た痩せ型の男が出てきた。

酔っぱらっているのか、ニヤけた顔で目が充血している。

どう見ても、イメージしていたドラッグストアの店員とは程遠い。

男は、さあ入って入って、と言い俺を中へ入れると、ドアを閉めた。

ドアはジー、っと音がしてカギが閉まった。

オートロック?


男は、俺を部屋へと案内した。

部屋へ入ると、キツいお香を焚いたような、ムッとする匂いが充満している。

案内された部屋には、足の低いテーブルがあり、それを囲むように柔らかそうなソファがあった。

その他にラスタカラーの大きな旗や、用途のわからないガラスの筒など、様々な雑貨が飾られている。

ブクブクと何かお湯を沸かしているような音もする。


「まあ、座りなよ」


 男は、俺をソファに座らせると自分も対面に座った。

 緊張していた。初めてのバイトの面接だからではなく、この『店』と呼ばれる家の、異常さにだ。

ここは、中も外もどう考えてもドラッグストアではない。


怪しい。怪しすぎる。



「まあ、リラックスしなよ。俺はこの店のオーナーであり、社長兼CEOの、スティーブン・ジョンソンってものだ。スティーブって呼んでくれよ」


 どう見ても、日本人だ。偽名だろうか?それよりも、


「あの、スティーブさん?ここは......その............ドラッグストアですよね?」


 そうだよ、っとスティーブが言った。


「うちは、通販専門だからね。大きな店はいらないのさ」


 そういうドラッグストアもあるのか、と納得してしまった。


「それじゃ、なんでここでバイトしようと思ったのか、教えてくれるかい?」


 え?そんなこと聞かれるのか!全く考えていなかった。どうしようかと迷ったが、正直に答えることにした。


「時給が高いからです。妹が入院していて、その治療費にお金が必要なんです」


「じゃ採用」


 即答だった。そのあまりの即答ぶりに、面喰らってしまった。


「え、あの、いいんですか?」


「OKだ。入院している妹のために頑張る兄。うーん。お涙頂戴じゃないか。僕は年甲斐もなく涙を流してしまったよ」


 ウソだ。スティーブはずっとニヤついている。なんというか、この人は本当に酔っぱらっているんじゃないのか?酒の匂いはしないが......


「それでだ。明日から仕事をしてもらいたいんだが、大丈夫かい?」


「あ、はい。大丈夫です。高校生と言っていましたが、高校も辞めようと思っているので、何時からでも大丈夫です」


「それはダメだ」


 スティーブは、急に真面目な表情になりそう言った。しかし、すぐにニヤついた。


「学業は大切なことだよ。たとえ妹さんを助けるために、お金を稼ぎたいと言っても、自分のことをおろそかにするのはよろしくないなー。五十万なら学校帰りに週五日で入ってくれれば稼げるさ」


「わ、わかりました。」


 なんだ。結構いい人じゃないか。俺のことを心配してくれている。ん?でもなんで俺が五十万必要なことを知っているんだ?


「まあ、そういうことだから。明日学校が終わったら来てくれよ。それと仕事の内容なんだけど」


 なんでもこい。俺は妹のためならなんでもする。


「これを配達してもらいたいんだ」


 そう言って、スティーブは甚平の中に手を入れて、何かを取り出し、俺に見せてきた。

 透明な小さい袋に入った、茶色い、長方形のブロック?


「チョコレートさ」





 ????????????????????????


「ちょこれいと?ですか?」


 ここは通販型のドラッグストアだ。風邪薬や痛み止めとかそう言う感じの薬を配達するのかと思っていたが、まさか、チョコレート?


「そう。このチョコレートはね。僕が丹精込めて育てた薬草をブレンドした、健康食品なのさ」


「はあ。そ、そうですか」


 スティーブが育てた薬草?????

 スティーブは一層ニヤニヤして続けた。


「このチョコレートを食べるとね。嫌なことを忘れて、幸せな気持ちになるんだよ。まあ、警察はあんまりよく思わないがね」



警察がよく思わない?

食べたら幸せな気持ち?

薬草?

ってまさか............麻薬じゃないのか?



 俺が配達する薬、の正体を知った途端、俺は急に怖くなった。ドラッグストアで時給5000円の意味を、しっかりと理解してしまった。

今まで生きてきて、俺はこんな恐怖を味わったことはない。

自分の生活圏には、絶対に入ってこないだろうと、ずっと思っていた。

それが、いや、俺はそれを............

配達しなければならない。


 ダメだ。ダメだ。ダメだ。そんなことは絶対にできない。だってそんなことをしたら、警察に捕まってしまう。

人生も終わりだ。

そう思った俺は、ソファから勢いよく飛び出し、玄関のドアまで走った。

冗談じゃない。犯罪に加担する訳にはいかない。

俺はカギを外し、ドアノブを回してドアを開け.........


開かない。


なぜだ。俺は混乱した。

何度カギを外しても、開かない。

俺はドアにドン、ドン、と体当たりし始めた。


「そんなに体当たりしても無駄だよ。そのドアは開かない」


 気づくと、スティーブが気だるそうに壁にもたれかかり、防護扉だからね、と付け加えた。


「おい、開けてくれよ!俺はこの仕事はやらない!犯罪じゃないか!」


 俺は叫んでいた。早く外にでて、この空間から出たい。


「僕がやっていることは、確かに犯罪なんだろうね。でもね、それは国が決めたことだ。僕はこの薬用チョコレートを売るのは、れっきとした人助けだと思っているよ」


「そ、そんなこと関係ない。犯罪は犯罪だ。それを欲しいと思っているやつらも、ただの中毒者(ジャンキー)じゃないか!」


中毒者(ジャンキー)か。ははは。その通りだろうね。しかし高校生の君にはわからないだろうが、大人には一瞬でも忘れてしまいたい嫌なことや、明日の活力になる希望が必要なんだよ。まあ、君にとっての妹みたいなもんかな?」


「妹を麻薬と一緒にするな!なんと言おうと、俺はやらない。この仕事は絶対にやらない」


 俺はドアを壊さんばかりの勢いで、体当たりを繰り返した。


「でも、君は一月五十万と言う大金が必要だ。薬物によって意識不明になった妹を助けるためにね」


 俺は動きを止めた。さっきからおかしいと思ったが、なぜこのスティーブと言う男は、そんなに詳しく妹のことを知っているんだ?


「調べさせてもらったよ。君の妹が投与されたと言う薬物を俺は知ってる」


「なんだと?」


 知ってる?今この男は、セナに投与された薬物を知ってるって言ったのか?


「その薬物はね。Light danceと言うガムさ。まあ、まだそれだけしか分かっていないが。どうだい、この仕事をやっていれば、こう言う、他の業者の商品の噂も回ってくる。妹さんを助ける方法もわかるかもしれないんだぜ」


「妹を助ける方法?それがわかるだと?」


 俺は、心が揺れた。セナを助ける方法を見つけられるかもしれない。同じ系統の犯罪だから、情報が回りやすいということか。


「そうさ。妹を助ける方法を探しながら、この仕事をして、妹の入院費を稼ぐ。悪い話じゃないと思うがね」


 スティーブはニヤついて、そう言った。

 確かに、これ以上ない条件だ。

 警察に捕まるリスクはあるが、セナが目を覚ますなら、俺はどうなってもいい。


「ほう、やる気になってきたかい。それじゃ君の口から聞かせてもらいたいね」


 急に真剣な顔になるスティーブ。

 俺も真剣な顔でスティーブを見つめ、


「やる......いや、ドラッグストアでバイトさせてください」


 と言った。

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