第2章 中学生日誌 ~その2~
今回登場する『ビフォーバーナー』は、この話の時点でまだ世に出ていません……。
3ヶ月後くらいに設置されるハズです。
記憶違いで申し訳ない。
話の都合、という事で勘弁して下さい。
「あ~、俺は吹奏楽部」
頭を掻きながら、俺は渋々といった態で答えた。
あまり言いたくなかったのだ。
何故なら……、
「吹奏楽部? 吹奏楽部! 吹奏楽部~!?」
「なぜ、3回も言う?」
「だって桜井君、全く似合ってないから!」
「余計なお世話だ!」
そう、わざわざ古式に言われるまでもなく、吹奏楽部が似合っていないと重々承知だからである。
俺は苦虫を噛み潰したような顔で続けた。
「あれだけ大所帯なら、1人くらいいなくなってもわからないと思ったんだよ……」
帰宅部でも問題無いと俺は考えたが、その考えはかなり浅かった。
「吹奏楽部は文化部で花形だから、とても厳しいわよ」
「うう、古式の言う通りだ」
俺としては部活動など適当に流して終わりたいのだが、どういう理由からか吹奏楽部は妙に真剣に活動に取り組むのである。
勘弁して欲しかった。
部活に所属するのすら嫌でたまらないのに、強制的にどこかの部に入部させられるというのは、真剣に活動する事以上に輪をかけて意味がわからなかった。
本来、部活動とは自由に活動するもののはずなのだ。
嫌ならやらなくていい。
それなのに、どうして強要するのだろうか?
「パソコン部は、そこまで厳しくありませんよ」
穏やかに沢渡が告げる。
パソコン部へは、沢渡と一緒に俺も部活見学へ行った。
ただ、あのプログラム言語の羅列に辟易して俺は入部を断念したのだ。
「将来出るであろう、音楽ゲームのためさ」
苦し紛れの言い訳をしてみた。
それに全くのデタラメという話でもない。
「音楽ゲームですか」
意外に関心を抱いたのか、中学生にしてはたるみ気味の顎を撫でながら沢渡は考え込む。
古式はやれやれと頭を振った。
「その様子だと、どうせ女子と口も聞いていないんでしょ? 私がいて良かったね!」
ドヤ顔で古式はのたまった。
それはその通りなのだが、えらくハッキリ言うなあ。
残念ながら古式の推察通り、俺はいまだに同じクラスや同じ部活の女子とまともに会話をしたことがない。
吹奏楽部には女子が多いのだが、部活動に熱を入れる気が全くないため、俺は部室となっている音楽室の隅っこで空気の様にじっと佇み、ひたすら下校時間が訪れるのを心待ちにしているだけである。
やる気が皆無なため、なるべく目立たないように息を潜めて吹奏楽部の活動に参加していた。
厄介な仕事を押し付けられては、たまったものではない。
そうでなくとも、先輩という厄介な存在が面倒で仕方がないのだ。
「そう言う古式は、付属の友達を放っておいていいのかよ?」
「心配ご無用よ。小学校の時と同じで、上手にやってるわ」
「ふ~ん、要領いいんだな」
妙に納得のできる話だった。
実際、古式は学級委員で成績も良かったし、ゲームの方も腕は確かだった。
おまけにルックスも抜群なのだから、やってられん。
「古式さんこそ、彼氏とかいないんですか?」
特に深い意味はなく、興味本位で沢渡は質問したのだろう。
ある意味、そういう方面は全くの門外漢だからこそ口に出来る質問だった。
俺たちと一緒にゲームをやっている時点でいないと思うが、どうだろう?
それこそ要領よく、よろしくやっているのだろうか?
何となく古式は『上海紅〇団が行く』とか見ていそうなイメージが浮かんだ。
まだ『ねる〇ん』ではない。
俺の耳は古式の返事に集中した。
「安心して、いないから」
「何だ、そのリアクションは?」
安心したのは事実だが、釈然としないのもまた事実だった。
だが北川は喜ぶに違いない。
良い仕事をしたぜ、沢渡。
「そんな事を言っていいの? 私が知らない男とデートしていたら悲しいくせに」
底意地の悪い笑みを顔に張りつけて、古式は俺を見据えた。
その余裕のある態度が叶わないと思うし、大人びた表情にもはっとさせられる。
つい最近のはずだ。
小学校を卒業したのは。
それがこの変わりようである。
いつまでも小学生気分の俺とはエライ違いだった。
「ママはア〇ドル派の俺は、年上がいいかなあ?」
「あれ、桜井君は見てるんだ? 私はてっきり、毎度お〇わがせしますしか見てないのかと思った」
「あ、あれは……」
俺は急激に全身が赤くなるのを感じた。
思春期の少年には刺激が強いドラマである。
故に俺は見ていない。
「古式は見てるのか?」
「たまにね」
しれっと古式は認めた。
別に気にするまでも無い、といった面持ちだ。
こういった面でも差があるなあと、俺はつくづく思った。
「確かに2重装備できますね」
気がつけばドリンククエストIIを再開していた沢渡が破滅の剣と、いかづちの剣を装備していた。
これで呪われて、攻撃できなくなることはない。
いかづちの剣だけでも最終装備といってよい装備なのだが、より高い攻撃力を望んだのだろう。
再びキャラを教会に戻し、沢渡は再起の呪文を書き写す。
時間が時間なので、俺と古式はお暇することにした。
結構長居してしまった。
「中学生になっても変わらない、いつも通りね」
どこかほっとしたような、古式の発言だった。
もしかすると古式が一番ゲーマー三銃士として過ごす時間を、大切にしているのかもしれない。
「付属中学で、上手くいっていないのか?」
まさかと思うし、俺が言える筋合いの話ではないが気になってしまったものはどうしようもない。
要領よくやるというのと、学校生活が楽しいというのは別の話だ。
あくまでゲーマー三銃士として心配しているのであって、特に深い意味は無い。
無いのだが、誰に対してどうして弁解しているのだろう?
「ちょっと退屈なのよ。男の子も全然ゲームやらないし」
「男でゲームやらないって」
「みんながみんな、桜井君と同じじゃないわよ」
ふふっと古式は小さく笑った。
どうも力関係で古式に勝てないようだ。
俺は口をへの字にした。
「女の子でゲームをする、私みたいなのもいるし」
むくれている俺に、古式は微かに視線を合わせた。
「そりゃそうか」
何にでも例外があると言いたいのだろう。
俺はそう捉えることにした。
2人は肩を並べて歩道を歩く。
「もうすぐゴールデンウィークも終わりだけど、桜井君は何か用事あるの?」
「……部活、もしくは自宅か沢渡の家でゲームかな?」
「どこにも行かないのは仕方ないにしても、ゴールデンウィーク明けに中間テストがあるのに、そんなんで大丈夫なの?」
「だ、大丈夫! のはずだ」
全く大丈夫ではなかったが、俺は虚勢を張ることにした。
いざとなれば北川や沢渡に勉強を教えてもらおう。
「ふ~ん。じゃあ、今からボーリング場に行こう!」
「お、おい!」
さっさと古式は俺の手を引っ張って走り出した。
古式に手を引かれるのは、例の全国大会以来のことだ。
妙に照れ臭く、恥ずかしい。
それだけ俺は古式奈和のことを意識しているのだろうか……?
俺と古式は学区外にあるボーリング場に入る。
ただしボーリングをするわけではない。
「ビフォーバーナー、これ凄い筐体だよな」
飛行機のコクピットっぽいゴテゴテした筐体が印象的なシューティングゲーム『ビフォーバーナー』は1プレイ¥200とバブルなお値段だった。
そう、俺と古式はボーリング場にゲームをしにきたのである。
ボーリング場にもゲームセンターに負けないくらい、数多くの筐体が置かれていた。
むしろゲームセンターよりも治安が良いので、こちらにくる子供も多い。
どちらにせよ子供達だけで足を運ぶのは、親や教師があまり良い顔をしないが……。
「桜井君、どうぞ」
「ええっ!?」
思わず俺はのけ反るも、ことゲームに関しては一歩も引くわけにはいかなかった。
チャリンチャリンと100円玉2枚をコインカウンターに投入する。
「うおおおおおお……」
貴重な小遣いを投入したというのに、ビビりながらのプレイに終始してしまう。
古式の前で少しは格好良いところを見せたかったが、そうはならなかった。
情けない事に最初の空中給油でさえ、到達できなかったのだ。
それでも俺と古式は時間を忘れて、空腹も感じず集中して遊ぶことが出来た。
久し振りに楽しい時を過ごせたと思う。
例え帰りが遅くなって、このあと確実に親に叱られることがわかっていても。