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Episode one 世界連合と私

 煩い蝉の鳴き声が聞こえ、道路は揺らめき、ジリジリと地上へ差し込む太陽の光が眩しい8月のはじめ。5日 9時10分―――――――。



2013/8/5 Monday AM9:10 Dormitory


 今日はゆっくり過ごそうと思っていたが、そのもくろみは早起きのルームメイトに崩される。その挙句、布団ははがされ、窓からは頬を照り付ける、レーザーのような光が差し込む。



 「摩月ちゃーん!朝どころか9時だよーう!遅い遅い!早く起きないと、お上の命令下っちゃうよっ!?そこんとこを理解してるのかしらー!?」


 そして極めつけはこの、凛としているくせに、耳を劈くような大音量の目覚ましの声。さらに帰国子女のコイツは、


「Goodmorning!Мaduki!Ged up ged up!Wake up!!!」


 と高速の「English」も唱えてくる、最凶最悪の目覚まし時計である。私にとっては。



 とにかく、起こされて機嫌を損ねた私は、コイツに反撃を試みる。


「………うるさいんだよ。このパツキン口だけ腹黒女!」


 そう言って、シルクの滑々した枕を彼女に投げつけた。寮の枕を投げるのは些か躊躇ったが、怒りは抑えられず、暴走と化した。

しかし。さすがは世界連合のスパイ……。枕による3コンボの連続攻撃は、ひらりと


「この髪の色は生まれつきなんですぅ―」


とか言いながらかわされる。って私も同じスパイじゃないか・・。


さらに枕やら何やらかんやらを力任せに投げていたら、


「摩月ちゃん!それ以上やると、名前で呼ぶよ? Are you ok?」

 

 と、ルームメイトに口角を上げて、そう言われた。



 ドクン。名前。その言葉を聞いて、本気の怒りがこみ上げてきた。あの忌まわしい女が付けた、あの小汚い名前。名前を思い出したら、忌まわしい記憶が脳に、山の雪のようになだれ込む。思い出したくもない、ここに来る前の記憶―――。

 

 その記憶を思い出したくなくて、私はここに入ったのだったか…………。

 強制的だったけれど、今は入ってよかったと、心から思う――――――。

 






2013/4/17 Wednesday АМ10:32 Maduki’s houce


 朝。何の変哲もない、只の朝。それなのに、家は赤い色で染まっていた。分かっている。自分のやったことぐらい。コツコツと、ヒールの音が聞こえる。それに伴いパチパチ、と拍手も聞こえてきた。



「―――合格っ!!あなたは合格よ!稀にみる優秀な人材よ…。これからもバリバリ役に立って欲しいわ!98点!素晴らしいわぁ………。……はぁはぁ………。」



 金髪の女性審査員は、合格したことと、私の「やりかた」についての点数を言うと、はぁはぁと言い出した。何か、興奮でもしたのだろうか。こんなモノを視て興奮するだなんて、かなりの変人なのか。私は、足元の物体を見た。一般人なら、気を失うであろうこの物体を見ても、摩月はまず何も思わなかった。恐怖も起こらないし、悲しみも、憐みも、何も起こらないのである。当たり前か。自分がやったのだから。



 まわりの装飾や、カーペット。窓にも机にも、そして自分にも。生臭い赤色がついているのに、ここにいる人たちはそれを、さも当たり前のように見ていた。警察官でも怯むような場所なのに、ここにいる誰もこの現状を受け入れ、何も言わない。それどころか、こんなモノなど見ずに、私を褒める人もいた。




 私がいったい何をしたのか。すべてはとある検索ワードから始まったともいえる。

一昨日の15日。私は、親が嫌いだったので、いつものようにパソコンで「ストレスから解放される方法」や、「親 うるさい」などのキーワードを入れていた。

そしたら、適当に開いた書き込みサイトの変な書き込みを見た。


 

「世界連合には、スパイがいて、世界各地に潜んでるんだって」と。そのあとの書き込みをみても、そんなことを書いたモノは一切存在しなかった。いわば「タブー」の都市伝説か。そう思ったが、どうも気になった私は、世界連合の公式サイトや世界連合の都市伝説などを調べ上げた。その結果、「スパイらしき者を目撃した人がいる」や、「スパイは世界の秩序や規律を守るため、警察よりも上の階級で暗躍していて、スパイが“任務”を実行しているところを見た奴は抹殺されるとか」、「スパイは世界の邪魔となる者を陰で抹殺している」というような噂が立っていることは分かった。世界連合の公式サイトにこんな噂を書き込む奴らの気がしれない、と思い、ふと考えた。


もし。このようなスパイが本当にいるとしたら。


警察なんかより「上の上」だったら。


誰の、どんなことでも調べられるのではないか。


だったら。今、


“私がパソコンでスパイについてを調べていること”も



――――分かるんじゃないのか?



 そう考えたときの私は、 まじでやばい 状態だった。背中から汗は吹き出し、全身から水分が奪われるようだった。

入ってはいけない世界に入ってしまうのかもしれない。それこそ、



 世界から分岐し、それに並行して存在する別の世界………パラレルワールドのような処に。

 

 隔離された、悍ましい裏社会に。



 その読みは当たっていた。16日に、電子メールが届いた。



「あなたは、世界連合に興味がある。そして親を憎んでいて、苦しい。ならば、私たちと共に、世界連合に入らないだろうか?試験は明日決行。私たちはすべてを見れる。断ればどうなるかは判ると思う。

悪いようにはしない。それに、試験次第だが、成功すれば親族とも縁を切ることだって出来る。

明日、家を朝10時に尋ねる。試験内容は、簡単だ。恨む親族を、いかに素晴らしい方法と速さで


消せるか である。


高得点出しすれば、あなたは優秀なことを認められ、配属先に優遇対応で就け、ゆっくりと監視できる。

頑張りたまえ」



 ………なんだこれ。

 

読んだときに初めて思ったことは、これである。というか、内容が強制的過ぎて、逆に笑えてきたぐらいだ。こんな非現実的な事の詳細が書かれたメール、不吉過ぎて持っておきたくもない。



 でも。親族は嫌いだし、いつかは消えてほしいと思ったこともあるのだ。縁も切りたかったし、仕事に就けるしで、お得じゃないか。

 やってみよう。もう、非現実でもなんでもいい。この狭い世界から出たいから。

 これで救われるのならば、狂った裏社会にはいってもいいかもしれない。

 第一、断ることなんて出来ないし、断る理由もない。


 私はこの時、決意して17日を迎えた。




 そして、軽くトップクラスの点数を出し、合格した。初めてだが、うまく“やりかた”のコツを掴めた。もともと、運動神経がいいから、出来たのかもしれない。もう感情が変わっていた。前の私なら、こんな事をしてしまったら自分が怖くなるだろう。でも、今は怖いどころか「爽快感」すら感じるくらいである。何が私を2日ほどで変えたのかは分からないが、そんなことはどうでもいい。


 

 そうこう今までの流れを思い出していたら、先ほどの金髪の女性審査員が、話しかけてきた。


「自己紹介が遅れたわねぇ。」


 女性は、妖艶な雰囲気を醸し出し、薄いヴァイオレットの綺麗なドレスを着ていた。

「ワタシは、レニー・ヴェルディーナ。アナタを見ていたわぁ。あぁもう思い出したらゾクゾクしちゃう!……最近アナタみたく骨のあるコがなかなかいなくってねぇ。期待の新人さんねェ。それで、これからのことなのだけれど……」



 そう言ってレニーさんは、これからのことを話し出したのだった。



 試験に合格したので、私はこれから8月末まで世界連合日本支部で訓練をし、配属先を決められるのだった。そのあと、レニーにはこう言われた。

 

「私の娘もあなたと同じ年齢だから、寮はたぶんアナタと相部屋になるわね。シュリーっていうのよぉ。帰国子女だから、英語も日本語も喋れるのよ。よろしくしてやってねぇ。」



 こうして、私は晴れてこの日、世界連合の裏社会(パラレルワールド)の一員となった。







2013/8/5 Monday AM9:13 Dormitory


 「摩月ちゃん?どうしたの?名前では呼ばないってさっきから言ってるのに、なんで反応しなかったの?I don't really know what that means」


ぼうっとあの日のことを思い出していたので、ルームメイトが話しかけてきていることにやっと気づいた。


「ああ、すまない……。考え事しててな……。」


 私はそう返すと、ベッドから出た。いつの間にやら窓は開いており、さわやかな夏の風が、部屋の空気を入れ替えていく。風で、摩月の長い黒髪も、シュリーのボブで内巻きの金髪も、サラサラ音を立てながらなびく。窓の外は、さすが都心といえる、大きなビル群がギラギラ輝いている。

 


 もう8月なのだ。今月末には発表されるであろう配属先に期待しながら、訓練休業日を過ごそうと思った。


「とりあえず食堂へ行こう、摩月ちゃん。」


 そう言われ、着替え終わった摩月はシュリーと共に部屋をあとにした。

食堂で何を食べようか、悩みながら木造の寮を歩く。そこまで新しい訳ではないが、うちの家よりはオープンだしとても過ごしやすいのだった。(もっとも、摩月の家は試験終了後は勿論だが誰もいなくなり、土地ごと売られているので、もうないのだが)


 

 歩きながら、ふとシュリーの顔を窺う。金色の髪は、彼女から見て左を、アンティークゴールドの複雑で美しい髪飾りで留めてあった。今私たちは訓練中なので、制服などの服装制度はない。だから、いま着る服は自由である。私は普通にジーンズに涼しいTシャツを重ね着して、ヒモスニーカーを履いているだけだが、シュリーは黒い七分丈のレギンスに純白のチュニックを着、アンティークゴールドのネックレスが首元を煌びやかにしていた。彼女の眼は真っ青なブルーだ。同じ17歳とは思えないくらい大人びた印象だが、性格は明るい、北欧人だが日本で生まれてイギリスに行き、また日本に戻ってきた帰国子女である。



 シュリーを見ながら少し考えた。なんだが性格が母親とはまるで違うな、と。“赤いモノ”を見て興奮する変人とは全然違うようだ。なぜなのだろうか?


 「ねえ摩月ちゃん」

 「……え? あぁすまない……考え事、だ。なんだ?」


 急に話しかけられ、摩月は少し驚いたが、シュリーの話を聞いた。


 「摩月ちゃんは、なんで名前で呼んじゃ……ダメなの?誰だって名字しか言わないひとなんて、おかしいと思うわよ……。」


 痛いところを突かれた。シュリーに悪意はないのだろうが、さすがにその質問は苦しい。

 昔両親が離婚し母親方に引き取られた私は、母親に数々の嫌がらせを受けた。しかも、まわりは見て見ぬフリをするだけで、誰も助けてなどくれなかった。だから私は、親族が嫌いなのだった。


 「その……それは、私の昔の……トラウマに関係している。私はここに来るとき……というか、試験合格したときから、名前を捨てる覚悟をした。だから、その件については一切触れてくれるな。」

 「そっ……か。なんかゴメンナさいね、ほんとに……。I really feel bad about it.」


 分かってくれればそれでいい。だから、私はそれ以上、なにも言わなかった。 風で、摩月の、腰まであるツインテールが揺れた。西館の食堂の前にやっと着いた。摩月たちの部屋からここまでは、結構遠いのである。メニューを見た。今回のモーニングセットは、メインがおいしそうなサンドウィッチだったので、二人ともそれを頼むことにした。

 

 

 食堂の席に座ると、とりあえずサンドウィッチを食べた。そして、今日はどうするのかシュリーに訊いてみた。


 「そうだなあ……私は昨日の訓練授業にもらった、明日のスケジュールを確認して……、バクドナルド……バックに行く!」

 「バック……行くんかい。バックなんかこの会社のパクった所じゃなくて、本家赤黄色のMの方いきなよ……」


 バックとは、あまりに本家さんのところに世界連合に勤める人たちが行くので、世界連合が社員食堂のような感じで各地の寮に作ったバーガーショップである。シュリーがまさかそこに行くとは思わなかったので、つい吹き出した。



 とりあえず今日は、珍しい訓練休業日なので、楽しく過ごしたいと思いながら、サンドウィッチを頬張った。


投稿は少し時間がかかりますが、面白くしていきたいです。

宜しくお願いします。

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