第二話 何だかんだで宇宙に……
蟹モドキを消し炭にし海辺に甚大な被害を与えたミヤビは、蟹モドキと言う物証を根拠に今いる場所が異世界である事を認めた。
さすがに地球に存在しないであろうサイズの蟹と、指先一つで甚大な被害を発生させるボディを前にすれば、いい加減認めない訳にもいかない段階だからだ。
「取り敢えず、この場を離れるか」
ミヤビは砂浜から腰を上げ、服に付いた砂を払う。
そして然りげ無い動作で、チラリと振り返り海辺の惨状を見て溜息を吐く。
(先に体のスペックを確認してから他の行動に出よう。 と成ると……)
ミヤビは視線を頭上、空の先を見つめる。
まぁ、他に場所はないので選択肢はないのだが。
「えっと。 空を飛ぶ手順はゲームと変わら無い筈だから……こうか?」
ミヤビがゲームと同じ感覚で飛行操作を実行すると……周囲に大気を切り裂き圧縮し突き抜ける雷鳴の様な突発音が響き、砂浜が大きく陥没して盛大な砂煙が発生した。
(げっ、ヤバ!)
ミスに気が付き、1秒にも満たない時間でミヤビは素早く静止の為の操作をおこなったのだが、時既に遅いという状況が足元に広がっている。
ミヤビが写真で見た事のある地球と良く似た、青い惑星が姿を見せていた。
ただ……
「何か、大きくないか? それに、陸地の比率が地球より多い様な気が……」
ミヤビの疑問に答える様に、無駄に優秀な体のアビオニクス群が観測機器をフル活用して詳細なデータを瞬時に提供してくる。
その結果、大凡の事実が判明した。
(大きさは地球の凡そ4倍で、海王星とほぼ同等。 陸海の比率も凡そ4:6で、地球との大きさの違いを考慮すれば陸地の大きさは20倍って所かな?)
妙な所で役に立つ体の機能に感心しつつ、突然放り込まれた世界ではあるがミヤビは青と緑のツートンに輝く美しい惑星だなぁと、暫しのあいだ素直に感動する事にした。
「まぁ惑星観賞はこの辺にして、サッサと確認する物を確認してしまおう」
数分の惑星観賞を終え、ミヤビは本来の目的に立ち戻った。
(間違って惑星を飛び出たとは言え、飛行手順自体には誤りはなかったみたいだから、出力調整に気を付ければ何とかいけるか?)
先程の飛行操作時のログを確認したミヤビは、飛行速度と推力値の関係を比較検討し、適性値を暫定算出する。
(出力100万分の1%で、凡そ600km/h……推進機関は使えないな。 重力推進で代用するしかないな)
暫定適正値を確認し、ミヤビは推進機関の使用を考え直した。
そもそも100万分の1%では、推進機関の最低起動出力さえ確保出来ない。
ミヤビは、行き成り気が滅入る結論に頭を抱える。
「……次の確認に行こう。 えっと防御フィールドの検証……はするだけ無駄か。 武装関係……もするだけ無駄だよな」
溜息しか出てこない。
何せ検証し様と項目を挙げるだけで、悲惨な結果が目に浮かぶ様に思えるからだ。
(何だろコレ……使える機能が殆ど無いんだけど。 アレかな、セル編のSS悟空状態?)
検証の余りの結果に、ミヤビは軽い絶望感を感じながら某有名漫画のワンシーンを思い浮かべる。
「使えるのは、出力リミッターを掛けた本体ぐらいか? 防御フィールドと装備品にはロックを掛けて普段は使えないようにして……」
ミヤビは更に酷くなって来た頭痛を堪えながら、出来る限りの対策を企画検討し何とか地表で活動出来る状態に持って行こうとする。
そして不断の努力の結果、辛うじて甚大な被害が発生し無いであろう状態を確立した。
「アイテムリストの肥やしに、初期装備が残っていて良かった」
ワゴンセールで売っている様なリクルートスーツに安物っぽい指貫グローブ、ホルスターに収められたG17Cと鞘に収められたサバイバルナイフ。
これらがCOTSの初期装備として、ゲームの最初にプレイヤーに配布される品々である。
ミヤビは懐かしげに、初期装備を身に付けた。
「う~ん、丸で成人式か就活中の大学生みたいだな」
リクルートスーツに身を包む10代後半の姿と言う事もあり妙な違和感を感じ、誰も見ていないのにミヤビは何と無く気恥ずかしげに身を捩る。
(それにコレを見る度に思うけど、この初期装備のコンセプトって、戦うサラリーマンと言うよりSPじゃなくないか?)
ミヤビはふとした疑問を抱くが、余り深く考えない様にして別のの事を考える事にした。
「まあ良い、取り敢えずコレで何とか成るか。 後は何処に下りるかだけど……」
ミヤビは足元に広がる惑星に目を向ける。
(簡易観測でも、そこそこの規模の都市が惑星表面に複数存在する、か。 統一国家は無く、複数の国家が存在するみたいだな)
自前のセンサー群で地表観測を行った結果、異なる建築様式で立てられたと思わしき都市が複数ある事を認識したミヤビは若干鬱に成る。
何故なら、一部の都市群には工業施設らしき工場群があるが、他の大部分では大規模な開発は行われている形跡が無いのだ。
それらにプラスして、その都市群を中心とした海洋に多数の輸送船団らしき浮遊物が存在する。
簡単に言ってしまえば、地球の第一次大戦前……帝国主義全盛の時代に似ているのだ。
「降りる場所を間違えると、自分から厄介ごとの中に突入するな……」
ミヤビは今現在の自分の姿を確認。
現実の自分をモデルとしているので、補正で美形化しているが基本は日本人の特徴が出ている。
つまり、黒髪黒目の黄色人種と言う事だ。
(最低でも似た人種の存在する地域、もしくは無人の地に拠点を構えるのが良いんだろうけど……)
世情の情報収集を行おうとすれば無人の地は論外。
更に情報不足の現状で、下手に地方の小さな集落等に身を潜り込ませるのも下策、少人数のコミュニティーと言うのは得てして結束が固い上に排他的な気質があるからだ。
と成ると、選択肢は人の流入出が頻繁にあるそれなりの規模の都市と言う事になる。
そして、それなりの規模の都市と言うのは、点在するであろう国家の首都クラスの事を指す。
「まぁ面倒だけど、ココで手を抜くと後々モット面倒な事に成りそうだから、調べられるだけ調べとこう」
ミヤビは頭を掻きつつ、眼下の惑星の観測と分析を始めた。