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成り行き超兵器の無駄に贅沢な憂鬱  作者: ポンポコ狸
第一章 知る事から始めよう!
2/10

第一話 現状確認と……。

 

 

 

 ログオフに伴うリンク切断で途絶えていたミヤビの意識が、ユックリと覚醒する。

 ジリジリと肌を焦す様な日差し、髪を撫でる様に優しく流れる風、耳に響くサザ波の音、些か鼻につく磯の香り、そして感じる筈の無い塩っ辛い海水の味。

 其処まで感じた時点で、ミヤビは慌てて上体を撥ね起こした。


 「……海?」


 ミヤビの視界に飛び込んで来たのは、旅行のパンフにでも載っていそうな美しい砂浜の景色。

 明らかに意識が途絶える前とは異なる状況かつ、VRMMOを行っていた現実の自分の部屋でもない。

 更に追い討ちを掛ける様に、最も違和感を感じる出来事も……。


 「何故この体で味を感じる? セイフティーの一環で、味覚の共有は行われていない筈……」


 ミヤビは自分の体がCOTSで使っているキャラの物であるのを確認し、味覚がある事への違和感を強める。

 嘗てVRゲームが登場した最初期の頃、味覚がある事を良い事にVRゲーム内での食事だけで数日過した馬鹿なプレイヤーが栄養失調で餓死し掛けると言う事件が発生した。

 その事件以降、VRゲームでは味覚の共有を行わない事がゲーム会社間の常識と成っていた。

 なのに、ミヤビは現在進行形で味覚を感じているのだ。


 「一体、何が……」

 

 ミヤビは突如自分の身に起きた不思議現象に、困惑と恐怖感で背筋に薄ら寒い物が走る。 

 それと共に、ログアウト直前に見えた様な気がした光る優先利用券の事を思い出す。

 半信半疑でミヤビは、ゲーム内の手順でステータスウインドウの展開操作を行う。

 そして……。

 

 「……無い、確かに落ちる前に確認した時にはリストに有った筈だ」


 アイテムリストにある筈の文字が無かった。

 その上、ログアウト入力欄が消え、偶々目に入ったキャラステータスの称号欄には【異世界よりの訪問者】と言う文字が輝いている。

 (おいおい、一体どう言う事態だよ。 何でログアウトボタンが消えて、変な称号が追加されているんだよ!?)

 異世界と言う文字に、凄まじい不安感がミヤビの胸中に浮かんできた。

 そして困惑極まったミヤビは、何の気無しに空に向かって大声で吼える。 


 「一体全体如何言う事なんだよ! 運営! チャント仕事しやがれ!!」


 正に咆哮と言うべき魂の叫びである。

 叫び終わった後、特に苦しい訳でも無いがミヤビは息を荒げながら砂浜に四つん這いに崩れ落ち、全身で疲労と虚脱感を顕にしていた。

 (アレか? コレって、一昔前に流行ったVRMMO経由の異世界来訪物か? 剣と魔法で魔王を倒せって言う奴か?) 

 一通り混乱し終わったミヤビは、一周回って冷静に成ったのか、昔学生時代に読み漁っていたネット小説の設定を思い出し、自身の置かれた現状との類似点を次々と見出す。

 何故なら、現状が余りにもネット小説の設定に似通っているからだ。 


 「……もしそうなら、周りに誰も居ない事を考えると勇者系召喚物では無いな。 それに場所が何も無い海辺と言う事も考慮すると、道具による事故系召喚物でも無し。 後は超越者系による召喚か神隠し系の偶発迷い込み事故だけど……それ系のメモや説明者が居ない時点で超越者系でも無いかな。 と言う事は偶発事故による迷い込み系……うわっ、一番最悪なパターン」


 色々考えを巡らした結果、ミヤビは最悪な事態に陥っている可能性に行き着いた。

 何故なら、偶発事故による迷い込み系は明確な帰還手段が無い事が多いからだ。

 他のパターンならば、厄介事に巻き込まれる可能性が高い代わりに、帰還手段が明示される事がある。

 逆に偶発事故による迷い込み系は、移動方法が確立している場合を除き、厄介事に巻き込まれ難い代わりに帰還手段が不明もしくは存在しないパターンが多いからだ。


 「でもまぁ、不幸中の幸いと言って良いのか甚だ疑問だけど、COTSキャラの能力が使えるのは……やっぱりダメかも」


 ミヤビは今自分が憑依?しているキャラの能力を思い出し、別の意味で使えない事に気が付いて遂に砂浜に崩れ落ちた。

 (恒星間殲滅戦闘用に調整された戦闘ユニットで、地上戦なんか出来るか! 十万分の一%でも力加減を間違えたら、星事消し飛ぶわ!)

 未開の地で身を守る為に、自身の持つ力を発揮する訳にはいかない、行き成りのガチ縛りプレイである。

 (すると、移動も徒歩以外不可? オマケに防御フィールドを張れば地軸が傾くかも。 メリットは食事と睡眠が要らないって事ぐらいか? もう……嫌)

 顔を砂地に埋めた状態でミヤビは、世の中の不条理に心底嘆き悲しんだ。

 飛行能力を有してはいるが元は恒星間戦闘を前提とした能力、巡航速度でも光速の数十%と言う速度で戦闘速度は光速の99.9%に達する。

 もし地上で一寸気合を入れて飛べば大規模かつ激烈なショックウェーブが発生、飛行経路周辺が凄い事になる。

 そして防御フィールドも強力な重力場を利用した空間歪曲場なので、地表で使えば余波でほぼ確実に地軸が歪む。

 救いは、食事等による外部からのエネルギー補給と睡眠による無防備な休憩が必要無いと言う事ぐらいだ。


 「なんだろなぁ、別の意味で積んだ感が半端無いんですけど。 虐めかなコレ、虐めだよね?」


 ミヤビは力無く潰れていた体を起こし、砂浜に膝を抱えて座り込みながら虚ろな瞳でを海の上を漂う雲を何と無しに追う。

 現状を確認するたびに、まだ未知の何かに遭遇した訳でも無いのに異世界生活に対して疲労感にも似たストレスが加速度的に蓄積してミヤビの心をヤサグれさせる。

 

 「はぁー、こんな事俺は望んでいないっての。 他の来たがってる奴を連れて来いよ」


 漏れる様にミヤビの口から、現状に対する愚痴が漏れる。

 そして、その愚痴に反応するかの様に眼前の海が盛り上がり、海中から赤い何かが姿を現す。

 棘棘した頑強そうな赤い甲羅に、左右非対称の大きな鋏、口らしき本体の中央部から溢れる毒々しい色の泡。

 それを一瞥したミヤビは、疲れた様に抱えている膝に顔を沈めたが内心は荒れていた。

 (何で最初に出てくるのが、大きな蟹なんだよ! 素直にベタなスライかゴブリン出せよ! もしくは行き成り魔王かドラゴン!)

 顔を沈めたミヤビのその背中は、思わず目を背けたく成る程に煤けていた。






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