37. 予想外なプレゼント 2
『今触りたいのに・・・』
「ういうー、あー?」
消沈したように俯いてしまったエリナさんの頭を、ソルテスが手でポンポンと叩く・・・すり抜けてて叩けてないけどね。
・・・でも、実体を持つ方法か・・・。エルベートさんなら何かしら知ってると思うけど、色々と危ない気がする。代わりに消滅したら元も子もないし。となると、やっぱり天使になるのが一番早い。でも、それじゃあ間に合わない。・・・どうにも仕様がないな。
エリナさんにどう慰めの言葉をかけて良いか分からなくて、ソルテスを抱いたまま思考を巡らせていると、不意にエリナさんがガバリと顔を上げた。
『そうよ・・・!』
『?』
あまりにもキラキラした目のエリナさんを見て、何故か寒気がした。何でだろう? 思わず一歩後ろに下がってしまったけど、エリナさんはそれには気づかず、言い放った。
『交霊すればいいのよ!』
降霊なら今してると思うけど・・・多分別のものだよね。初めて聞くな。
上手く反応を返せなくて困っているのが伝わったのか、エリナさんがこちらに視線を向けてくる。
『あ、シルト君は知らないわよね、交霊』
『そうですね・・・』
苦笑を返すと、エリナさんは胸を張って答えをくれた。
『交霊っていうのは、神霊と天使に許された憑依のことよ』
『憑依、ですか』
『そう。神霊は実体がないと生者に気づいてもらえないから、生者に何か意志を伝えたい場合に、一時的に誰かの身体を借りるのよ』
・・・つまり、結構力のあるゴーストやスペクターが偶にやってるアレだ。
ゴーストやスペクターは実体が無くて力も弱めの死霊種だから、普通の生者には気づいてもらえないことがある。神官や力のある冒険者、貴族なんかは少なくとも気配は分かるみたいだけど、はっきりと死者の言っていることを理解できるとなると更に少ない。僕達や死者種みたいに実体があれば別なんだけど。
だから、どうしても死後家族に伝えたいことがあった時、ゴースト達は誰かに憑依することで一時的に身体を借りて言葉を伝える。これも、憑依にはある程度力が要るから、全てのゴースト達ができるわけじゃないけど、これがあるから未練を残さずに昇天できたという死者は結構多い。・・・・・・まあ、憑依を悪用して生者の振りして他の生者を襲ってる死者の方が多いから、はっきり言って生者には迷惑でしかないけど。それに、一時的にでも身体を勝手に使われるのは嬉しくないだろうしね。
・・・でも、神様公認の憑依ってどうなのかな?
『だから、交霊すれば私でもソルテス君に触れるわ!』
それはもう満面の笑みを浮かべているエリナさんに、かける言葉が見つからない。だって、ここにはソルテス以外の生者はいないもの。それに、誰かに身体を貸してもらえるようにお願いしようと思っても、僕の知り合いの生者ってディングさんとロートスさんだから、二人とも男の人だし。
『・・・・・・ソルテスに交霊? しても、抱っこはできないと思うんですが・・・』
『え?』
エリナさんに気を遣って恐る恐るそのことを言うと、エリナさんから不思議そうな顔を向けられる。・・・何でだろう? 嫌な予感が・・・
『何言ってるの。シルト君に交霊するにきまってるじゃない』
えっ?
『ぼ、僕にですか?』
『だって、ここには他に誰もいないじゃない。それに、ここにカデラから誰か連れてくるとしても、私じゃこの森突破できないわよ』
た、確かに。僕が意図したわけじゃないけど、この森って何でか魔物強いんだよね。魔物との戦闘経験がないエリナさんが、交霊した生者の身体を上手に扱うことができるとは思えないから、むしろ(生者の)命が危ない。エリナさんが良識のある神霊で良かった。
・・・でも、だからって死者に交霊するって・・・
『死者種ならともかく、神霊が死霊に交霊ってできるんですか?』
『さあ? でも、シルト君なら実体あるし、ソルテス君懐いてるし、条件としてバッチリよ!!』
輝く目を向けてこちらににじり寄ってくるエリナさんから、思わず後ずさる。
『ぼ、僕男なんですけど?』
『気にしないわ! それに、シルト君可愛いし、大丈夫!』
『全然大丈夫じゃないです!』
エリナさんの目が獲物を見るような目に変わる。それを見て、僕はソルテスを抱いたまま慌てて部屋を飛び出した。そのまま家の外に出ようとして、腕の中で機嫌良さそうに声を上げるソルテスに視線を落とす。
・・・いくら一緒でも、まだ外に連れ出すのは早いかな。そう思って、少し速度が落ちる。
その一瞬の間に距離をつめたみたいで、エリナさんが扉と僕達の丁度間に飛び出してきた。
『逃がさないわよ、シルト君』
『エ、エリナさん?』
エリナさん笑顔なんだけど、何でか怖い。な、なんていうか、蛇に睨まれた蛙になった気分。あれ? 前にも同じようなことがあった気が・・・
『大人しく霊体貸して頂戴!』
『む、無理です!』
女の神霊を霊体に入れるなんて、恥かしくて無理!
再びエリナさんから距離を取ろうとしたけど、実体のないエリナさんと違って僕は障害物をすり抜けられないし、ソルテスを抱いてることもあってエリナさんの方が素早い。
そうそう時間も経たずに、壁際まで追い詰められた。
『大丈夫よ、シルト君。痛みはないそうだから』
『そ、そういう問題じゃ』
『長くても1ワース(時間)だけだから、そんなに負担かけないわ』
『だ、だから』
エリナさんが僕の両肩を掴み、顔を近づけてくる。思わずギュッと目を瞑った時、扉の方から爆発音が響いた。
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