36. 予想外なプレゼント 1
どうやら、ソルテスを育て始めて一年が経過したみたいだ。何でそれが分かるかというと―――
『久しぶりー! 元気にしてた!?』
「あうー」
『あーもー、可愛い!!!』
・・・エリナさんがソルテスに会いに来たからなんだよね。今朝突然訪ねてきたんだ。
ソルテスを育て始めたきっかけの1つは命日で帰ってきていたエリナさんの言葉だったから、エリナさんが来たってことはソルテスが来て大体一年経ってるってことだ。
もう一年・・・時が経つのは早いなあ・・・。死んでから時間の経つ感覚なんて殆ど忘れてたけど、それを知る機会があるのは、誰かと待ち合わせをしているみたいで少しウキウキする。これも、ソルテスのおかげだね。
『前よりふっくらして、手もほっぺもぷっにぷに! あああ、触りたい!』
「おーあ、えー」
ソルテスはエリナさんを覚えているのか、エリナさんを怖がることなく近づいていた。ロートスさんのファントム(ティーさん)の時のように、触ろうと手を伸ばしたりはしてないけど、握った手をエリナさんの方に向けている。握手したいのかな?
エリナさんも嬉しそうに手を伸ばし、ソルテスのこぶしの上に重ねる。その途端、ソルテスはにぱっと笑った。
あ、エリナさん震えてる。
『か、』
「うーいー?」
『可愛すぎよぉ、ソルテスくーん!!!』
エリナさんはガバリとソルテスを抱きしめようとして・・・すり抜けた。
・・・エリナさん、元ゴーストだもんね。ゴーストって僕と違って実体ないし。今は神霊になってる筈だけど、それでも結局実体ないからなぁ・・・。
あ、神霊っていうのは昇天して一年が経過した死者が成る存在のことだよ。殆どゴーストと変わらないけど、神術が効かないし、生者から感知されない。死霊には存在が分かるけど、神霊には霊力は皆無だから襲われる心配がない。ポルターガイストが使えないとか、決まった日しか地上に降りて来れないとかの制約はあるけどね。
つまり、消滅する心配のない死者って感じかな。
『ううぅ・・・!』
『だ、大丈夫ですか?』
ベビーベッドの下まですり抜けて、床の上で呻いているエリナさんに近づき、恐る恐る声をかける。痛みはない筈なんだけど・・・。
『こ・・・』
『?』
『こんなに近くにいるのに、触れないなんて・・・!』
え、そこ?
困惑していると、エリナさんが起き上がり、悔しげな顔でソルテスを眺める。ソルテスはエリナさんに視線を向け、それから、僕に視線を向けて、笑顔を浮かべた。ハイハイで近づいてくると、両手をこちらに向けて伸ばす。
『だっこー』
『あ、抱っこね』
念話で正しく言える数少ない言葉で、ソルテスが抱っこをねだってくる。僕は苦笑してソルテスを抱き上げた。
抱き上げると、ソルテスは片手で僕に捕まり、もう片手をエリナさんに向けて機嫌良さそうに振った。
やっぱり、エリナさんのこと覚えてるのかな? 感覚的なものだとは思うんだけど。それとも、単に僕が覚えてないだけで、赤ん坊って記憶あるのかな?
『・・・ずるい』
『え?』
恨めしそうな声に顔を上げると、エリナさんがソルテスに手を振り返しながら、僕のことを睨みつけていた。
『え、えっと・・・』
『シルト君ばっかりずるいわ! 私は実体なくて抱けないのに!』
そ、そう言われても、こればっかりは僕にもどうしようもないんだけど・・・。
神霊が実体を持ちたいと思ったら、転生するか天使になるかしかない。ただし、転生すると記憶が失われてしまうから、記憶を保ったままでとなると、天使になるしかないのが現状だ。
『今度、天使になれるように届けを出してみたらどうですか?』
軽い気持ちで言ってみると、エリナさんは顔を更に顰めた。それでも綺麗なのは、神霊になった副作用じゃなくて、持ち前のものだよね。
『・・・天使って、そう簡単になれるものじゃないのよ』
『そうなんですか?』
僕は天界のことなんて分からないから、どうやってなるのか皆目検討つかない。でも、エリナさんの様子だと結構大変なのかもしれない。
『試練もあるし、希望霊も多いから、転生よりも難しいの。私だと、試練に通ったとしてもなれるのに20年以上かかるわ。そうしたら・・・』
そこまで言って、エリナさんは拳を握った。
『ソルテス君、もう赤ちゃんじゃないじゃない!』
・・・・・・そりゃあ、そうだよね。
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