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レイスの子育て奮闘記  作者: roon
0歳時
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35. 生き倒れの聖人君子 8

 ロートスさんが目覚めて3日後の朝、ソルテスのことをロートスさんに任せて洗濯を干していたら、突如ディングさんから通信が入った。


「待たせ、たな。今、カデラに、戻った。そっち、は、どうだ?」

『ロートスさんなら、ソルテスと遊んでいますよ』

「・・・・・・」


 手を動かしながら返事をすると、溜息と沈黙がかえってくる。通信と一緒に聞こえてくる息遣いが荒いけど、どうしたのかな?


「・・・お前さん、平気、なのか?」

『?』


 何度かの深呼吸の後に言われた言葉に、目を瞬かせる。ソルテスがロートスさんに懐いているのは悪いことじゃないし、ちょっと寂しいけどそこまで困らないんだけどな。返答に悩んでいると、再び溜息が聞こえてきた・・・呆れられてる? 何で?


「平気ならいい。とりあえず、そいつを迎えに行くから、そっちまで転送(おくっ)てくれ」

『あ、はい』


 洗濯場は広いから、ここに喚んだら丁度良いよね。手にかけていた洗濯物を籠に戻し、地面に魔法陣を展開する。棒とか使って書いても良いんだけど、この間の魔法陣の術式は覚えてるし、魔力使って書いた方が速い。


『じゃあ、転送しますね』

「頼む」


 ディングさんの返事を確認し、魔法陣を起動させる。3カド(秒)程でディングさんの姿が洗濯場に現れた。


『こんにちは、ディングさん』

「おう・・・って、何やってるんだ?」


 僕の背後の物干しを見て、ディングさんが訝しげに目を細めた。


『え? 洗濯ですよ』

「見りゃあ分かるが・・・まあいい。で、そいつは?」

『・・・こっちです』


 呆れた顔を向けられて少し戸惑ったけど、聞いたら怒られてしまいそうな様子だったから、気づかなかった振りをしておく。ディングさんを家に招きいれ、ソルテスのいる部屋に行くと、ロートスさんはもうお馴染みとなったファントム(ティーさん)にポルターガイストでキャッチボールをさせてソルテスと遊んでいた。ロートスさんが投げたお手玉を、ティーさんが遅くしてソルテスが掴める速さにして掴ませている。・・・僕もあの技、覚えようかな。ソルテス、楽しそうだし。


「おー、ソルテス君、キャッチが上手くなりましたね」

「あーうー、たー」

「投げ返してみてください。できますか?」

「たーっ」


 ロートスさんの声に、ソルテスが見当違いの方向にお手玉を投げる。が、それをティーさんが上手に軌道を変えてロートスさんに運んだ。ロートスさんが指示を出してるのは分かってるけど、ティーさん器用だなぁ。自我が無くても、癖とかは残るのかな? ふとディングさんを見ると、ロートスさんを見て固まっている。・・・やっぱり、初対面だと怖いよね、ロートスさん。


「あ、シルトさん、と・・・?」


 僕達に気づいたロートスさんが、ディングさんを見て相変わらずの顰め面を向ける。そして、僕に視線を向けてきた。ディングさんまだ固まってるし、僕が説明したほうが良いよね。


『こちら、聖戦官のディングさんです』

「聖戦官!? だ、大丈夫なんですか、シルトさん!?」


 慄きで今にも襲い掛かってきそうな様子のロートスさんに、顔が引きつりそうになる。だって、今まで見た中で一番怖いんだもん! ソルテスに見えない位置で良かったー・・・。何とか顔の動きを押さえ込んで、どう説明して良いか考えていると、先に復活したディングさんがロートスさんの前に出た。


「それはこっちの台詞だ、死霊使い。お前さんが平気で、聖戦官(おれ)が平気じゃないと言うなら、理由を教えて欲しいね」


 ・・・ディングさん、怒ってる? 怖さも度が過ぎると怒りに変わることがあるらしいけど、そんなに怖かったのかな? ロートスさんは一瞬目を見開くと、再びいつもの表情に戻った。


「・・・・・・確かに、そのように言われても、仕方ありませんね。失礼致しました」

「気持ちは分からないでもないが。・・・こっちも気が立って失礼なことを言ったな。すまない」


 よく分からないけど、二人の中では納得したらしい。ま、ソルテスの前で喧嘩しないでくれるなら良いか。


「で、俺はこいつを引き取れば良いのか?」

「私を引き取る、ですか?」


 ディングさんの言葉に、ロートスさんが首を傾げる。説明が欲しそうにこっちに視線を向けてくるから、軽く頷きを返した。


『はい。ディングさんには、ロートスさんのお迎えに来て貰ったんです。ここは生者には住みにくい場所ですから』


 何と言っても、この森は慣れていないと迷いやすいし、強い魔物も多く出る。ロートスさんがイーノムホンを倒せると言っても、偶に訪れるのはともかく住むのはかなり厳しい。僕だっていつも手を貸せるわけじゃないしね。それならここから一番近い街のカデラに拠点を構えた方が生活しやすいと思う。ディングさんもいるし、落ち着くまでなら手を貸してもらえるんじゃないかな?


「俺は神殿勤めだからな。客室もあるし、住む場所が決まるまでは置いてやれるぞ」


 ディングさんの言葉に少し考え込み、ロートスさんは僕に視線を向けた。


「・・・・・・また来ても、良いのですよね?」

『ええ』


 不安そうな物言いに、苦笑して頷く。ソルテスに会えなくなるのが不安なのかな? こっちを不安にさせるような顔をしてるのに、ね。まあ、ロートスさんなら自力でここまで来られるし、ティーさんに頼めば伝言と家の場所の探知くらいなら軽くやってのけるだろうな。


「・・・でしたら、また伺います」


 そう言って、ロートスさんはソルテスに向き直った。


「またね、ソルテス君」

「うー?」


 ソルテスは良く分かってないのか、目の前に降りてきたティーさんとロートスさんを交互に眺めている。そんなソルテスを抱き上げ、ロートスさんは僕に渡してくれた。それから、ロートスさんはディングさんに軽く頭を下げた。


「では、しばらくお邪魔させていただきます」

「おう、歓迎するぞ。それじゃあ、シルト、還送(おく)ってくれ」

『はい』


 ディングさんとロートスさんに柵の中に入ってもらい、魔法陣を展開、起動する。


「シルトさん、お世話になりました」

『いえ』

「また、必ず伺いますね」

『はい。ソルテスと一緒に楽しみにしています』

「うー?」

『では、ディングさんも、また』

「おう」


 ロートスさんが軽くソルテスに手を振ると、ソルテスもそれに合わせて手を振り返す。その様子を見て相変わらずの笑顔を浮かべたロートスさんと渋い顔のディングさんがその場からフッと消えた。


「あー?」

『行っちゃったね』

『いったった?』

『そうだよ。また来るって、さ』

『またくるー?』

『うん』

「くぅー!」


 楽しげな声を上げるソルテスに笑みを返し、部屋を出る。ロートスさんがいなくなった分、今日はいっぱい遊んであげようっと。




 その後、ディングさんから聞いた話だと、ロートスさんはカデラに家を借りて冒険者としてとりあえずの生活を始めたらしい。ザントルードでの誤解も解けて、相変わらず人に避けられるところもあるけど、概ねは受け入れられたと言っていた。良かった。

 読んでくださり、ありがとうございます。

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