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レイスの子育て奮闘記  作者: roon
0歳時
41/47

34. 生き倒れの聖人君子 7

 ロートスさんを含めたいつもより賑やかな食事を終えてすぐ、ソルテスは僕の膝に座ったまま眠ってしまった。いつもなら、この後遊んであげないと眠らないんだけど・・・ロートスさんと遊びつかれたのかな。

 動くと起きちゃいそうで、食器を片付けにいけない。どうしようかと悩んでいたら、目の前に置かれていた器が、横から伸びてきた手と一緒に視界から消える。顔を上げると、ロートスさんが食器を持ってこちらに見慣れた笑みを向けていた。


「片付けておきますね」


 僕が何かを言う前に、ロートスさんは食器を持って台所へと行ってしまった。・・・お礼、言いそびれちゃった。お客さんに気を遣わせちゃうなんて、悪いことしたな。

 自分の不甲斐なさに息をつき、腕の中でぷーぷー寝息を立てるソルテスを見下ろす。・・・・・・普段そんなに意識してないから気づかなかったけど、大きくなったなぁ・・・。最初の頃は、膝の上に乗せられないくらいクタクタってしてたし、片手でも抱っこしようと思えばできたのに、今は両手じゃないと絶対に抱っこできない。僕には分からないけど、多分体重も増えてるんだろうな。

 ソルテスの頭に手をのせ、少し長くなった髪を梳くように撫ぜる。手袋をしてるから、触ったときの感じが分からないのが残念だけど、ソルテスに触れるような霊体(からだ)が欲しいと思っちゃうのは欲張りだよね。この温もりだって、死者(レイス)になってからは感じる機会を持てない筈だったんだから。

 頭に浮かんだ子守唄を、ソルテスを起こさないように小声で口ずさむ。ゆっくり寝てね。




 生者の気配に気づいてふと顔を上げると、ロートスさんが向かいの椅子に座ってこっちを不機嫌そうに眺めていた。・・・雰囲気からして、穏やかって言ってあげた方が良いのかも。どう声をかけて良いか分からずに黙っていると、ロートスさんの方から声をかけられる。


「シルトさん」

『はい?』

「私と・・・契約しては頂けませんか?」

『!』


 このタイミングで言われるとは思っていなくて、流石にびっくりした。ロートスさん、契約(そっち)には興味なさそうだったのに・・・。少し険しい顔を向けると、慌てたように表情を変える・・・怖い顔にしか見えないけど、多分困ってるんだろうな。


「あ、いえ、無理にとは言いません。今すぐでなくても良いですし、契約と言っても互いの居場所が分かる程度の簡単なものですから」


 死霊術師との契約は、死霊術師が契約内容を魔法陣に刻み、死者がその魔法陣に入ってそれを承認することで成される。だから、死霊術師は契約の際自由に内容を決めることができる。死霊術師(ヒト)によっては、死者にとって益となることを一緒に刻んでくれる場合もあるけど、大抵は自分の要求だけで死者の要求は殆ど通らない。因みに、強制的に契約を結ばせることも、できなくはない。但し、自分より明らかに弱い死者しかできないから、そうそう起こらないけどね。少なくとも、僕は長生き(?)してる分ロートスさんよりずっと強いから、こっちから承認しなければ大丈夫だ。


『・・・他をあたってください』

「・・・ですよね」


 ロートスさんは顰め面で溜息をついた。何処と無く寂しそうな様子に、少し罪悪感を感じてしまう。でも、お互いの居場所が分かるようにする契約なんて、契約の中でもかなり初歩的なものだろうし、結ぶ必要もないと思うんだけど・・・。


『何で契約なんですか?』

「え?」

『僕はソルテスが独り立ちするまではここにいるつもりなので、わざわざ契約結ばなくても良いと思うんですが』

「・・・・・・」


 ロートスさんと視線を合わすと、更に顔が顰められる・・・何と言うか・・・恥かしがってる? なんで?


「・・・気にしないでください。安易な方法に縋ろうとした私が悪いのです」

『?』

「・・・・・・ソルテス君が羨ましかったと言ったら、軽蔑しますか?」

『え? 何で?』


 あまりに予想外の返答にポロリと言葉が零れる。ソルテスが羨ましい? 見た目の話・・・じゃなさそうだし、軽蔑する要素も見つからないし・・・。余計にわけが分からなくなって混乱していると、ロートスさんがコホンと咳払いをした。


「ソルテス君には、シルトさんとの確固とした繋がりがありますでしょう? 私には、ここを出てしまったらもうシルトさんとの繋がりはありませんし、会うこともないかもしれません。・・・契約していたら、いつまでも繋がっていられますから」

『・・・・・・』


 ・・・良くは分からないけど、死霊(レイス)じゃなくて僕を望んでくれてるってことなのかな。ちょっと胸が温かくなった気がした。


「それでも、契約に頼ろうとするのはいただけませんでしたね。不快にさせることを言ってしまい、申し訳ありませんでした」


 頭がテーブルに付きそうなくらい思いきり頭を下げるロートスさんに、努めて笑顔を向ける。


『気にしていませんよ。・・・良ければ、また遊びに来てください。ソルテスも喜びますし』

「!・・・はい、是非」


 この時のロートスさんの笑顔が、今までで一番怖くなかった。




 読んでくださり、ありがとうございます。

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