33. 生き倒れの聖人君子 6
・・・何となく、もやもやするのは何でだろう? 僕は今日何度目になるか分からない溜息をついた。
思いのほかソルテスがロートスさんに懐いたから、ロートスさんにソルテスの相手をお願いして、あまり普段できない掃除とかをしてるんだけど、時折聞こえてくるロートスさんとソルテスのやり取りに何でか気が立っちゃうんだよね。ロートスさんは凄く丁寧に遊んでくれてるし、ソルテスも喜んでるから不満はないはずなのに。
自分で自分の気持ちを把握できないのが何となく嫌で、二人が遊んでいる部屋の掃除を早々に終えて台所へと引っ込む。
気持ちを切り替えるために食材を漁り、調理に手間のかかる材料を選び出していく。普段はソルテスの相手をしてあげないといけないからあまり手間のかかるものは調理しないけど、今日はその必要もないしね。ロートスさんも元気そうだし、今日から普通の食事にしよう。
つらつらとそんなことを考えながら、鍋を火にかけ、ペールネの皮を剥き始める。ペールネは芋の一種なんだけど、実がかなり薄くて小さいから、気をつけて皮を剥かないと食べれるところが無くなっちゃうんだよね。その代わり甘みが強くて美味しいから、一度はソルテスに食べさせてあげたかったものだ。こういう機会がないと料理できないから、ある意味ロートスさんがいてくれて良かったのかも。そう思って、何故か気持ちが落ち込んだ。・・・何で、ロートスさんのことを考えると落ち込むのかな。死霊術師だし、見た目は怖いけど、優しいヒトなのにな。
大きく息をつき、再び皮剥きを再開する。時折指に刃をぶつけてしまうのは、皮が剥きにくいからで断じて落ち込んでるからじゃない・・・はず。
時間はかかったけど、何とか綺麗に剥き終わり、それらを沸かしたお湯に入れる。・・・あれ? 思ってたよりも剥いた量が多かったみたい。鍋に入り切らないや。仕方がないから、もう1つ鍋を出してお湯を沸かす。お湯を沸かしているうちに、イーノムホンのお肉を解凍してスープの用意をする。
その時、微かにだけどソルテスの念話が聞こえた。『嫌』って言ってるみたいだけど、何かあったのかな?
慌てて火を止め、手を拭いて台所を出る。すると、ロートスさんが愚図るソルテスを抱いて部屋から出てくるのが見えた。僕に気づき、相変わらずの険しい顔が少し歪む。
「ほら、ソルテス君。シルトさんですよ」
ロートスさんがソルテスの背中を軽く叩き促すと、ソルテスが潤んだ眼をこちらに向けた。そして、ロートスさんの腕の中で身じろぎする。
「うー」
どうして良いか分からなくて立ち尽くしていると、ロートスさんが近寄ってきて、ソルテスを僕の方へ渡してくれた。
「いー」
ソルテスが力を込めてしがみついて来る。涙が引っ込み、泣きそうだった顔が笑顔になるのを見ているうちに、僕のさっきまで沈んでいた気分も引っ込む。いつものようにソルテスの頭に手を置いて撫ぜると、ソルテスは満足そうにぷーと鼻を鳴らした。
「・・・やっぱり、シルトさんがいいんですね」
『え?』
少し残念そうな、それでいて穏やかな声が聞こえてきて顔を上げると、顔を顰めてこちらを見ているロートスさんと目が合った。
「シルトさんが部屋からいなくなってから、段々と落ち着かなくなりまして。先程泣きそうになっていたので、連れ出したのです」
そう言って屈みこみ、ロートスさんはソルテスを目線を合わせる。
「シルトさんがいなくなって、寂しくなったのですね」
「うー」
すっかり機嫌の直ったソルテスは、嬉しそうにロートスさんに手を伸ばしてその指をつかんだ。
「おー」
「機嫌、直ったようですね」
「たー」
「はい、あくしゅー」
「あーうー」
相変わらずのやりとりに、クスリと笑いが零れた。
『ロートスさん、もう暫くソルテスを見ていてくれませんか? なるべく早くご飯にしますから』
「もちろんです。ですが、ここで見ていても良いでしょうか? ソルテス君がまた寂しがると可哀想なので」
『はい。お願いします』
「あー」
『ソルテス、もうちょっと待っててね』
『待っててね』
腕の中で満足そうに声を上げるソルテスをロートスさんに託し、台所へと戻る。完全に機嫌の直ったソルテスは、さっきと同じようにロートスさんと遊び始めたみたいで、楽しそうなやりとりが台所まで聞こえてくる。でも、そんな二人のやりとりを聞いても、何故かさっきのように落ち込むことは無かった。
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