28. 生き倒れの聖人君子 1
ようやく雪も止み、森に緑が戻り始めた。雪の間から草の芽が顔を出し、葉の無くなった木々も少しずつ芽を外へと差し出してくる。魔物も比較的寒さに強いものは冬眠から覚めたみたいだ。
そろそろ、狩りにいけるかな。
僕の住んでる森では、冬場は殆どの魔物が冬眠するため、獲物がいなくなってしまう。だから、予め秋に狩っていた魔物や動物の肉、骨を保存しておいたのを今までは使っていた。でも、ちょうど在庫もなくなりそうだったし、やっぱり新鮮なものの方が美味しいし、狩り行きたかったんだよね。
そこで、ソルテスが眠りについた深夜に、今年初めての獲物を狩りに家を出た。
まだ春になりきっていないため、夜は寒さが身体に突き刺さる。・・・死霊じゃなかったら、厚着してないと命が危ないだろうな。
そう思う僕の格好は、いつものように半袖のチュニックに膝までのズボン。その下に長いアンダーウェアを着て、腕は革の手袋で完全防備。更にその上からフードつきのローブ着てるから、そこまでは寒くない。生者だと、これだけだときついと思うけど。
因みに、僕達は寒さは感じ取れるけど霊体に影響受けないから、服着なくても問題ないんだよね。実際、服着てないほうが安全だし。だって、襲われれば向こうが傷つくんだよ。服着てないほうが強い。・・・裸で歩けるほど、まだ羞恥心は消えてないからしないけど。
背中に自分の上半身くらいありそうな長さのブーメランを背負って、森の中へと入っていく。生前は棒を武器にしてたけど、遠距離を攻撃できる武器が欲しかったから、作ってみたんだ。大きいから、持ってそのまま殴れるし。
因みに、重さを量ったら50ケルグ(kg)ぐらいだった。それが軽々と持てるんだから、死者って力持ちだね。
森の中を獲物を探して歩いていく。生者レーダーはあるけど、森の中は草木が多いから気配が混同しちゃってあまり役には立たない。夜だから少ないっていうのもあるしね。
『・・・・・・?』
辺りを見回しながら森の奥へと進んでいくと、不意に死者の気配がした。・・・こんなとこに死者? 魔物は死者にはならないはずなんだけど。ゴーストでも迷い込んだのかな?
気配のする方に進んでいくと、段々と気配が濃くなってくる。・・・不安だな。だけど、狂いスペクターとかだと困るし、放っておくわけにもいかないからね。
と、急に視界が開けた。
目の前に、僕の背丈の5倍はありそうな魔物の巨体が横たわっている。魔物は死んでいるのか、体中に火傷や裂傷があちこちに見られた。
・・・これ、イーノムホンだ。森に出る魔物の中でも最大の体躯と力を誇る、猪と象の合いの子みたいな魔物。僕は難なく倒せるけど、これを倒せる人は殆どいないんじゃないかな。この森に住む魔物じゃ無理だろうし・・・。
周囲を見回すと、霞のようにおぼろげな一体の霊が身動きせずに浮いている。僕が近づいても、霊は一切の反応を返さない。虚ろな目をちょっと僕に向けただけ。狂ってるわけじゃないみたいだけど・・・。
と、霊が自分の下へと顔を向けた。その視線を追いかけると、粉々の骨らしきかけらと、血塗れの薄汚れたマントらしき襤褸。まさか、死体!?
慌ててその側に近づき、襤褸マントを引っぺがす。その下には、ガリガリに痩せた男の人の姿があった。
『だ、大丈夫ですか!?』
思わず念話を発しつつ抱き起こすと、微かだが息をしている。良かった。良く見ると怪我も酷くはないし、この血はイーノムホンの返り血みたいだ。
あれ? じゃあこの骨、何だろう?
首を傾げていると、浮いていた霊がその場から空気に溶けるように消えた。役目を終えて帰っ(昇天し)たみたいだ。この人に憑いてたのかな?
良く分からないけど、生き倒れを放置しておくのも気分悪いし・・・連れて帰るしかないかな。ソルテスに泣かれないようにしないと・・・。
溜息をつきながら、男の人の身体を背負おうとしたけど、相手の背が高すぎて上手に背負えない。・・・僕が低いわけじゃないもん、絶対。
仕方がないから、イーノムホンの骸を仰向けにし、傷が少なく、比較的他の部位と比べて柔らかい腹の上に男の人を乗せる。そのままイーノムホンごと引きずって、僕は家へと帰った。
まあ、苦労せずに獲物も手に入ったし、損得0で良しとしようっと。
読んでくださり、ありがとうございます。
ちょっとリアルでトラブルがありまして、更新遅れております。
しばらくは週1か2週に1回の更新になりそうです。




