27. 死霊達(+α)の降霊祭(後編)
しばらく歓談しながら食事を楽しんでいるうちに緊張が解けたのか、ディングさんの周りの空気が緩んだ。
コッソリと安堵の息をつき、自分のグラスに入ったワインに口をつける。お酒なんて久々だな。
『しかしシルト、いつ聖戦官と知り合いになったんだ?』
『ソルテスの洗礼をお願いしたんですよ』
クーロさんの疑問に、苦笑を交えつつ答える。確かに、天敵の聖戦官と仲良くする死霊は普通いないよね。僕もソルテスのことがなかったら近づくなんて絶対しなかったし。
でも、ディングさんが死霊を見つけたら即座に祓うような聖戦官じゃなくて良かった。
軽くディングさんに視線を向けると、ディングさんがポツリと零した。
「ああ、あの時は驚いた。リッチかと思ったしな。おかげでキツイのを喰らわせすぎた」
そうだったのか。どおりであのときの神術痛かったわけだ。エルベートさんなら、あれでも筋肉痛くらいだろうし。
合点がいったと納得していると、クーロさんが目を細めた。そして、こちらに訝しそうな目を向けてくる。アサトさんもジト目をこちらに向けている。・・・嫌な予感。
ちらりとディングさんを見ると、少し酔っててこちらの様子に気づいてないのか、楽しそうに料理を堪能している。その隙を見てか、クーロさんがコッソリとこちらにしか聞こえない念話で声をかけてきた。
『キツイの?』
『ええと・・・』
『攻撃されたのかー?』
『ふ、不可抗力ですよ!』
『シルト、説明は?』
『隠すなよー、3000年の付き合いだろー?』
ディングさんがこちらに気づいて何か言い出す前に、強引に二人を誤魔化そうとするけど、全く通じない。こ、ここで殺りあいとかやめてよね!?
ドキドキしながら出会った経緯を話すと、二人に苦笑された。
『シルト、心広いなー』
『まあ、後遺症も残らなかったから良いが・・・そういう時は事前に相談してくれ』
『わ、分かりました』
よ、良かった・・・話の分かる死霊達で。でも、二人とも心配しすぎだよ。僕だって危なかったらちゃんと逃げるんだから。
ほっと息をついていると、料理に舌鼓を打っていたディングさんがこちらに視線を向けてくる。
「しかし、お前さんたち随分と豪華な食事をしているんだな」
『普段はしてないぞー』
「そうなのか?」
『そうだな。シルトが最近は色々作るから美味しいものが食べられるけど、そうじゃない時は敢えて食べたい物は滅多に出てこないな』
「・・・お前さんが作ってるのか?」
『はい。アサトさんから美味しい作物をいっぱいもらえるので、腐る前に消費したくて』
ドリアードが作っているからか普通の作物よりは日持ちするけど、それでも野菜や果物は傷むのが早い。だから果物はすぐジュースに加工して凍らせておくし、野菜も保存食の作れるものは作っておいて、それ以外は早めに消費している。採ってきたお肉も燻してベーコンにしたり、干し肉にしたりするしね。
「そういや、離乳食作ってるんだったな。料理くらいできるか」
『ひょっとして、出来ないのか?』
『俺と同じだー』
「・・・・・・野外料理くらいなら何とか、な」
ディングさんが言葉を濁す。・・・この間あげた小麦粉、そのままじゃなくて何か作って渡した方が良かったかも。因みに、クーロさんは結構料理上手いんだよ。一人旅が長いせいか、凝ったものより手早く出来る料理の方が上手なんだけどね。同じ丸焼きでも、クーロさんの作ったものの方が確実に美味しい。アサトさんは・・・大雑把だからな。
「料理できなくても、特に困らないからな」
『いや、困る』
何となく気恥ずかしかったのか、ほんのり赤くなった顔でポツリと漏らすディングさんに、クーロさんが真剣な目を向けた。
『えっと、クーロさん?』
『アンタは生者だから良いけど、死霊達にとっては、料理ができないのは死活問題だ』
「・・・食わなくても、大丈夫なんじゃないのか?」
『甘い! 確かに霊体には必要ないが、精神の栄養としては必要だ。旅をしていて、火も焚かず、料理もせず、毛布も無しで一人地べたに寝る侘しさときたら・・・!』
クーロさんが、力説してる・・・。普段こんなに熱くなったりしないのになぁ・・・。久々の晩餐だし、雰囲気に呑まれたのかな?
と、隣でアサトさんが真剣に頷いた。
『そうだぞー! 死者の街行ってもそうそうまともな料理食べれないし、自分で作れなかったら我慢するか誰かに作ってもらわないといけないんだぞ。俺、旅する時はすっごく困ってるぞー』
『その通りだ。人間いつ死ぬかも分からないし、死んだ後すぐに昇天できるとは限らないんだ。死霊になっても困らないように、料理くらいある程度は出来るようになっておいた方がいい』
『俺も、生前料理覚えとけばよかったー』
・・・普通の死霊は、そこまで食べることに執着しないと思うんだけど。スペクターとかゴーストだとまず物が食べれないし・・・。僕が変なだけなのかな?
首を傾げながら二人を眺めている僕の横で、ディングさんが顔を引きつらせた。
「そ、そうなのか・・・」
『いい機会だし、オレが料理を教えてやる!』
「はぁ!?」
『カデラのリデル神殿に住んでるんだよな。時々寄って、簡単に出来る料理伝授してやるよ』
「か、勝手に決」
『じゃあ、俺も作物持って時々遊びに行こうかなー。クーロ、行くとき誘ってー』
『良いぞ』
「だから勝手に決めるなって!」
ギャイギャイと騒ぎ出す3人をポカンと眺めていると、ソルテスの声が念話で届いた。今ので起きちゃったかな?
『ちょっと席外しますね』
「シルト、こいつら何とかしてくれ!」
『ごめんなさい。ソルテスが呼んでるので』
わめくディングさんに軽く頭を下げると、僕はソルテスのいる部屋へと移動した。
ソルテスは起きてベッドの中でゆっくりハイハイしてたけど、抱っこしてあやしたらすぐに寝てくれた。広間に戻ったとき、ディングさんが頭を抱えていたのが気になったけど、クーロさん達はいい死霊だし、多分大丈夫だよ、ね?
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