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レイスの子育て奮闘記  作者: roon
0歳時
30/47

23. 危険物襲来 2

『・・・何で僕の家、知ってるんですか』

『レーノ達が快く教えてくれたのでな』


 派手に壊した扉を直し、機嫌よく入ってきたエルベートさんを眺め、僕は溜息をついた。ソルテスについては、エルベートさんが扉を直している隙に、転移させた遊び部屋に防音と防寒の結界を張って気配を遮断した。多分気づかれてないはず。

 エルベートさんは生者には危険だからね。買った奴隷を魔法薬の実験台にして死なせたり、変異させた魔物の強さを知るために野に放って冒険者を何人も葬ったり、悪魔召喚の為に生きながらに子どもの皮剥いだりと聞いた話だけでも一冊本が書けそうだ。しかも、それらが一度や二度じゃないんだよね。

 ソルテスには会わせない方がいい。


『この間死者の街で会って、私の被害者がレイスとして何人か存在していると言われてな。丁度時間もあるし全員回ってみようかと思ったのだよ』

『・・・じゃあ、アサトさんとクーロさんのところにも行ったんですね』

『ああ。二人とも、全力で攻撃してきたよ。もう少しで魂の媒体を壊されるところだった』

『・・・・・・』


 ・・・アサトさんもクーロさんも普段は結構穏やかなのに、意外に荒事好きで喧嘩っ早いからな。死の元凶なんか現れたら、嬉々として凹りにかかりそうだ。思わず心の中でウンウンと納得していると、興味深げな目を向けられる。


『そなたはやらないのか?』

『?』


 やるって何を? 意図が分からず首を傾げると、楽しそうな笑みを返される。


『私を、殺らないのか?』

『はぁ!?』


 やるってそっち!? ・・・何でその発想が出るかな。


『・・・消滅させられ(殺され)たいなら、アサトさん達に頼んだ方が早いと思いますよ』

『いや、恨みが溜まってるだろうから、好きなだけ発散させてやろうとおもったんだがね』


 さあ来いと言わんばかりに胸を張るエルベートさんに、思わず溜息が漏れた。本当に何考えてるんだろう、この人。



『どういうつもりか分かりませんが、別に恨んではいませんよ』

『そうなのか?』

『天災のようなものだと思ってますからね』


 セゼル国の噴火による滅亡でもそうだけど、災害はいつ誰に降りかかるかなんて分からない。エルベートさんが身体を乗り換えようとしてたときに居合わせたのが、たまたま僕だっただけの話だ。

 第一、死んだのが3000年以上前なのに、今になって恨むだの嘆くだのする気は起きない。それを未だにしている死霊(ヒト)がいるとしたら、よほど陰険な死霊(ヒト)だけなんじゃないかな。あ、でもスペクターとかで未だに恨みをブツブツ言ってる死霊(ヒト)いたな。


『・・・・・・ふむ』

『・・・何か?』


 あごに手を当て、思案げにこちらを眺めてくるエルベートさんに胡乱げな瞳を返す。このヒト、つかみどころがなくて困るなぁ・・・。


『いや、そなたが一番寛大だと思ってな』

『レーノさん達の方が寛大でしょうに』

『彼らは、私に感謝しているからな。それを比べてはいかんよ』


 そう言えば、レーノさん達は生前は身分違いの恋に苦しんでて、エルベートさんのおかげで一緒にレイスになれて結ばれたんだもんね。僕達みたいにただ承諾なしに奪われたのとは勝手が違うか。


『私は自分のしてきたことを後悔してないが、転生の機会を永遠に奪ったことについてはほんの少し申し訳ないと思っている』

『少しなんですか・・・』

『元々生き延びるために若い身体が必要であっただけで、レイスにしてしまったのは偶然だからな。他意がないのだから、そこまで詫びる必要もないだろう?』

『・・・同意求めないでくださいよ』


 高慢ではないけど、相変わらずだなぁ・・・。ある意味、このヒトがリッチになったのに納得がいく。リッチになるヒトって自分本位なヒト多いから、他人の気持ちなんてまるで無視。唯我独尊って言葉がしっくりくる死霊(ヒト)ばっかりだし。出来れば係わり合いになりたくない。


『死ぬ気はないが、少しくらい恨み言を聞いてやっても良いと思ってな。実際のところ、恨み言を言ってきた者は一人もいないがね』

『いないんですか』

『ああ。レーノ達は言わずもがなであるし、クーロは今までに死んだ者のお礼参りとして攻撃してきたものの、本気で殺そうとはしていなかったからな。アサトがある意味一番本気だったが、一撃で水に流すと言っていた。そして、そなたは私に何もする気がない』


 好奇の視線を向けてくるエルベートさんに、心の中で溜息をつく。そりゃあ僕だって、レイスになってすぐの頃は落ち込んだんだよ。年老いた自分の死体に触れたときのことは、今でも忘れられない。

 ずっと身体は奪われた頃のままだと思っていたから、最初は転がっていた年老いた骸が自分の身体だということに気づくことさえできなくて。気づいたら今度は表現しようもない気持ちに襲われて。頭が真っ白になって気を失って、一月くらい意識が戻らなかった。レイスになって自分の死体を見た途端発狂したヒトが過去にいたらしいから、僕の症状は軽いほうだったみたいだけど。

 ショックだったのはそれだけじゃない。自分は存在してるのに、今まで仲の良かった生者の知り合いに会えなかったのも悲しかった。幽体の間はポルターガイストも使えないから気づいてもらえないし、レイスになったらなったで会いに行くこともできない。会いに行って怖がられたり、化物扱いされるのが怖かったから、結局別れの言葉すら言えずに死に別れてしまった。実際、レイスになった後自分の家族に会いに行って拒絶されて、発狂しちゃったヒトもいたらしいから、会いに行かなくて良かったのかも知れないけど、未だに後悔している。以前よりは気持ちの整理も出来てるんだけどね。

 僕は聖人じゃないから、エルベートさんを全く恨んでないわけじゃないし、許せるわけでもない。でも、エルベートさんに当たっても、生きていた頃に戻れる訳じゃない。逆に、当たったら自分でも忘れてた感情が溢れて、収拾がつかなくなりそうな気がする。ただでさえ、レイスになってから感情が表に出やすくなってるんだから。

 そんな危ない橋を渡るよりは、何もしないのが一番大事にならなくていい。エルベートさんにそれを言うつもりはないけどね。


『まあ、比較的温厚そうな者を選んでいたのだから、そこまで可笑しいことではないがね』

『え・・・?』


 ・・・ちょっと待って。何か今聞き捨てならないことを聞いたような気が・・・


『ああ、そなたらは知るわけがないか。私はこれでも、奪う身体の持ち主を選んでいたのだよ』

『はあ!?』


 平然と言われて、声を上げてしまう。選んでた!? 知らないうちに選ばれてたの!?

 ってことは、計画的犯行だったのか。偶然じゃなくて。



 読んでくださり、ありがとうございます。

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