22. 危険物襲来 1
まだ春には遠い、大雪の降り積もる真冬の朝早く、僕はいつものようにソルテスの離乳食を準備していた。
『ごはん』
『もうちょっと待ってねー』
「うー」
お腹が空いているのか、時折念話がとんでくるソルテスに返事を返しつつ、昨晩から煮込んでいたカブの薄味スープを温めなおす。熱すぎても食べれないから、少し温めで・・・こんなもんかな。
ソルテスと暮らし始めてから、温度の認識が上手くなったな。死んで自分の体温(?)が無くなって、温度が良く分からなくなってたんだけど、ソルテスの体温を基準にすることが出来るようになったからか感覚で温度が分かるようになってきた。生前の頃に戻ったみたいで、ちょっと嬉しい。身体を無くしたのが突然だったから余計にね。
・・・そういえばあの人、どうしてるのかな。
死因となった魔法師を思い出し、口から溜息が漏れた。
僕が死んだ日も、大雪の日だった。
その日は吹雪が強すぎて、歩いていても前が見えなかったから、自分に向かって近づいてくる人影に全く気づくことができなかった。人にぶつかられたような衝撃を受けてふと気づくと、自分の傍らに瀕死の老人が倒れていた。それがアサトさんの身体で、僕が魔法師に自分の身体を奪われて幽体になったと知ったのは、アサトさんの身体が死に、その後駆けつけてきたレイスのアサトさんとクーロさんに話を聞いてから。
二人も同じ魔法師に身体を奪われた被害者で、協力して魔法師からアサトさんの身体を取り戻そうとしていたらしい。身体が生きてるうちに中に戻れば、昇天することができるから。
まだ身体が生存している時はゴーストと同じだから、ものに触れることはできないし魔術も使えないしで、アサトさん一人で身体を奪った魔法師を追いかけて身体を取り戻すなんてほぼ不可能。でも、アサトさんより先にレイスになったクーロさんが一緒なら、取り戻せる可能性があった。
結局間に合わなくてアサトさんはレイスになってしまったけど、疎むどころかレイスの力を使って僕の身体を取り戻す手伝いをすると自分から名乗り出てくれた。僕も間に合わなかったけど、魔法師を追う過程で心の整理が出来たし、レイスになったこともアサトさん達がいてくれたからそこまではショックじゃない。喜ぶべきじゃないけど、同じ死因の後輩のような存在もできたしね。
因みに、その魔法師の人エルベートさんっていうんだけど、僕の前にアサトさん達以外に15人位身体を奪っていたらしい。その中で今も健在なのはクーロさんとアサトさんだけで、他の人はレイスになってから神官に祓われたり、幽体の内に他の死者に喰われたりして、もうこの世にはいない。
僕以降のエルベートさんの被害者が無事なのは、積極的に幽体を保護してくれたアサトさんたちのおかげだ。
『エルベートさん見たの、いつだったかな・・・』
程よく温まったスープをソルテスに飲ませながら、記憶を遡る。1000年は前だったと思うんだよね。アサトさんに誘われて初めて行った死人マーケットのアクラで乱闘騒ぎ起こしてて、そのときエルベートさんがリッチになって(死んで)たことを知ったんだから。
そういえばアサトさん、あのとき乱闘騒ぎに混じってエルベートさんにコッソリ蹴りいれてたな。当時のことを思い出し、笑いが零れる。
「うー」
『あ、ごめん』
どうやら手が疎かになっていたらしい。再びソルテスにスープを飲ませると、機嫌良さそうにぷーと声を上げる。
「たー」
『もういい?』
「う」
空になったスープの器を置き、軽くソルテスを構う。前は食べたらすぐおねむだったのに、体力が付いたのか最近は相手をしないと寝てくれない。楽しいから良いんだけどね。
『高いたかーい』
「きゃー」
すっかりおなじみになったポルターガイスト高い高いは、相変わらずソルテスに大人気。空中をほふく前進しようと手足を動かすのに合わせて、ソルテスの身体を前に進める。凄く機嫌が良さそう。
手足の動きに合わせて、進める速さを上げようとした時だった。轟音と共に家の扉が壊されるのは。
『うぇ!?』
扉の破片と吹雪が家の中に入ってくる。とっさにソルテスの周囲に結界を張り、遊び部屋に転移させて外気と破片から守る。そのせいで自分のことが疎かになってたのか、自分の頭で大き目の破片を受ける羽目になった。
『ってて・・・』
霊体だから痛くないのに、思わず痛いって言っちゃった。ソルテスがぶつけるの毎日のように見てるからかな。
頭に手をやり、何があったのかと扉の方を振り向いて、僕は絶句した。
『やあ、久しいな』
『エ、エルベートさん!?』
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