21. ね・ん・わ
冬もピークに差し掛かり、大雪で外仕事が出来なくなったため、僕は家の中で過ごすことが増えた。雪の中を出かけて来ても良いんだけど、食料あるから出歩く必要はない。畑は新しい作物植えても育たないし、洗濯しても乾かないし、あまりメリットないからね。
それもあって、最近は部屋で一人遊びをするソルテスを眺めつつ、ソルテスのお出かけ用の帽子とマフラーを作っている。雪の中をソルテス連れて出かけたりしないからまだ使うことはないけど、何かあったときに産着一枚で外に連れ出すわけにもいかないし、ベッド用に買った羊毛の余りで秋のうちに毛糸を作っておいたから、材料もあるしね。
「あうあー、うー」
『ん?』
いそいそと編棒を動かしていると、ソルテスに声をかけられる。
ソルテスは喋ろうとがんばっているのか、最近ちょっと声の出し方が変わってきた。雪が酷くなる前にリーベルに行って、ラナおばさんに絵本の朗読を記録させてもらったから、毎日それを流して絵本を見せているのが効いてるのかな。それとも、ディングさんの子守唄の影響かな。
どっちにしても、いい傾向だ。
そんなことを考えていると、口元が少し緩む。もう一度声を上げられたため、僕は一旦思考を中断すると編棒を置き、ソルテスの側に近づいた。
『どうしたの?』
「ん」
手を伸ばしてきたので、抱き上げる。構って欲しいのかな?
『抱っこがいいの?』
『・・・たっおー』
『!?』
え、念話使ってる!? 普段は言いたいことが声に混じって出てくるだけなのに!
確認のためソルテスの口元を見ると、口は動かしているけど声は出していない。
ひょっとして使い分けできてる?
『念話できるの?』
『えんあ』
『ねんわ、だよ』
『ねー・・・あ』
『あとちょっと。ね・ん・わ』
『ね・・・んあ』
『大分近くなったねー』
「うー」
やっぱり声出さずに喋ってる! こっちの言ってることまでは分かってないみたいだけど、繰り返すのはできるみたいだ。今は念話と実際の言葉の区別が出来ていないし、耳がまだきちんと聞こえてないのか、ちょっと言ってることがおかしくなってるけど、この調子だと、半年もすれば念話は使いこなせるな。
『凄いね、ソルテス』
『うーい?』
『凄い、凄い』
『うい、うい』
頭を撫でると、ソルテスは機嫌良さそうに目を細めて腕を振る。
『一緒に、ロクセル語の発音も覚えようね』
「うー?」
『ロクセル語だよ』
『おーえう』
『そうそう』
時折普通に声が混じるけど、意識して使い分けられるようになるのもそう遠くないかな。
約2週間後、ソルテスは完全に『だっこ』、『ごはん』、『おしめ』、『いたい』、『いや』を修得した。他の言葉はまだ声交じりな上、単語になっていないから完全な会話にはならないけど、自分で意識して使い分けられるのは僕も分かりやすくて嬉しい。早くもっと色々話せるようにならないかな。
そんな期待と同時に、今まで出てこなかった問題も出てきた。
『ごはん』
『お腹空いたの? じゃあ、今度はカボチャのスープにしようか』
『いや』
『いやなの? にんじんスープの方がいい?』
『いやっ』
『うーん・・・サツマイモ煮ようか』
『いや!』
『・・・・・・』
・・・まだ食べたいものの名前を覚えてないから、何挙げても全然正解に辿り着かないんだよね。実際、嫌って言われたものを出してみると喜んで食べたりするし。この『嫌』が何を言ってるのか理解しきれないから、聞いてるこっちが困ってしまう。ソルテスからすれば、知ってる言葉をひたすら喋ってるだけなんだろうな。
他にも、何処にも怪我をしたりしてないのに『痛い』と言ったり、何もなくても『おしめ』と言ったりすることがあるから、どちらかというと確認することが増えて僕が忙しくなっただけの気がする。
・・・言葉を使いこなす道のりは長いな。でも、これもソルテスの成長のためと思って割り切るしかないね。
読んでくださり、ありがとうございます。




