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レイスの子育て奮闘記  作者: roon
0歳時
25/47

18. ハイハイは危険 2

 翌日、アサトさんにソルテスのことをお願いすることができたため、僕はリーデルへと向かった。

 リーデルは死者の街の1つで、周囲を毒沼と高い岩、瘴気の雲で囲まれた場所にある。その立地のせいか、生者は死者の助けがなければ来られないんだけど、内部は普段見られないような貴重な花や薬草が生え、発光するホタルキノコに照らされていて結構綺麗な所だ。初見だと、死者が住んでるとは思えないんじゃないかな?

 岩を浮くことで越え、上空を覆う瘴気の渦を抜けて街の入り口へと降り立つ。

 本当なら、底なし毒沼の途中から伸びている横穴を潜り抜けて入るのが正規の交通手段なんだけど、ゴーストなんかは岩山すり抜けて入ってくるし、死霊は浮遊ができるから上空から入ることがほとんどだ。リッチやレイスなら、一度行っていれば転移魔術という手もある。正規手段を使うのは、魔術を使うことも飛ぶこともできないリビングデッドやスケルトンだけだ。

 街の入り口に近づくと、門の側に立っていたスケルトンがカチカチとあごを鳴らした。


『良く来た。名前と種族、目的を言え』

『シルト、レイスです。リビングデッドのラナ・ダイトさんに会いに来ました』


 被っていたフードを下ろし、軽く礼をする。この死者(ヒト)は、リーデルの自警団のヒダさん。死者の街って結構物騒で、時々殺霊狂のスペクターとか死者専門奴隷商人のコープスとかが他の死者(ヒト)を襲ったりしている。それらの死者(ヒト)から街の死者(ヒト)を守っているのが自警団だ。この門の前でのやりとりも、街に入るのには要らないけど、しておくと街の中にいるうちは街人として扱ってもらえる。つまり、変な裏路地とかに近づかない限り、比較的安全に滞在できる。だから疚しいことがない死霊(ヒト)は大体やってる。


『ラナおばさんか。今日は家にいると思うよ』

『ありがとうございます』


 軽く礼をしてヒダさんと別れ、街に入る。入ってすぐの所には、死者の集いの支部が置かれている。死者の集いは死者(僕)達の専用ギルドで、登録しておくと昇天もしくは消滅した後に遺産を誰に譲るかの遺言を残しておけたり、定期的に昇天もしくは消滅していないか家まで確認しにきてくれたりと意外に有用なギルドだ。登録してなくても、話し相手が欲しいときやものを売買したいときに死者の集いに行くと、無償で死霊(ヒト)や場所を提供してくれる。僕やアサトさんは登録してないけど、エリナさんは登録してたし、他にも何人か知り合いが登録してるよ。

 街を入って行くと、次に目に入るのは宿と軽食屋、屋台の列。入り口付近には街に遊びに来た死者(ヒト)達が寄りそうな、こういったお店がたくさん並んでいる。ここは、滞在通りと呼ばれている。

 宿は無償の所から有償の所まで様々で、よほど高級な宿や無賃宿でない限り、寝具か食材を持っていって主人に渡すと、それと引き換えに泊めてくれる。因みに利用者は死体種がほとんど。一応死霊専用宿もあるけど、何もない部屋を貸してくれる所ばかりで、あまり使う気になれない。・・・だって、ゴーストみたいにものに触れない死霊ならともかく、レイス(僕達)は床に布団無しで寝るんだよ? 気分的に悲しいじゃないか。

 軽食屋は生者の酒場のようなもので、宿と併設しているところも多い。ここも、食材を持って行って料理人に渡すと、食事を作ってくれる。・・・ただ、お店の料理人によって味はかなり異なる。例えば、生前料理人だったスペクターが開いているお店は、料理がとても美味しいんだけど、同じく生前料理人だったコープスが開いているお店は、かなり美味しくないことの方が多い。

 何で違いが出るかって? 簡単に言うと、味覚の違いかな。死体種の味覚は肉体依存だからね。舌が腐って味覚が麻痺しちゃうと、自分の料理の味が分からなくなる。スケルトンになっちゃうと味覚すら判らなくなるし。生前から作ってた定番料理ならはずれは少ないけど、死後に挑戦したアレンジ料理は大体はずれが多いから、注文も冷や冷やものだ。死霊種の味覚は肉体に依存しないから、匂いとかで判断して料理を作る。だからよほど変な材料を使わない限り、死霊種の軽食屋のほうが味が均一で美味しいから、人気がある。でも、同じく味覚が麻痺した死体種達にとっては、味よりも食感やお腹もちが重要みたいだから、どちらもお客を取られて潰れることなく繁盛している。・・・まあ、飽きて止めるか昇天しない限り、死者の街の店が潰れる可能性はないけどね。屋台も似たようなものだ。

 更に進んでいくと、道具屋や食品店といった店が立ち並ぶ通りに出る。路上で物を売っている死者も増える。ここは、趣味通りと呼ばれている。

 ざっと紹介すると、生前持っていたものや自分の遺品、埋葬品を売っている場所だ。他にも、自分でどこかからとってきた物を売る死霊(ヒト)もいる。ただ、死人マーケットほどお店の数もないし、買い物をしている死霊(ヒト)も少ない。生活用品や寝具を売る道具屋と食品店しかない日もあるし、保存状態についてもピンキリだからあまり利用しないかも。だって、元が遺品だったりするから、血のこびりついたシーツとか売ってたりするんだよ。ちょっと買いたくない。そんなものでも、宿によっては交換で泊めてくれるから、利用価値はあるんだけどね。それに、たまに掘り出し物もあるから、全く行かないことはないかな。因みに、買い物は貨幣(古貨、新貨含む)も使えるけど物々交換の方が喜ばれる。交渉に時間はかかるけどね。

 今日は買い物したいものは無いし、宿や軽食屋を利用する用事もないから、素早く通り過ぎる。・・・人の手の刺身(人手刺というらしい)とか見たからじゃないからね、決して。



 読んでくださり、ありがとうございます。

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