15. 離乳食と食材調達 3
防具屋で革の手袋を5つと無加工の革を5枚、道具屋で栽培しやすい野菜と果物の種を各種30粒ずつと布を8枚、八百屋で離乳食に適した野菜をいくつか買い、僕達は神殿に戻ってきた。
『いつも荷物を持ってもらって、ごめんなさい』
「・・・気にすんな。明らかに俺のが力強そうだしな」
今日も荷物もち担当と間違えられたディングさんは、僕が謝ると苦笑を漏らす。
「しっかし、お前さんのこと誰も不審に思わなかったな」
『・・・そうでしたね』
確かに、ディングさんがいてくれたからか、誰も僕の格好を気にしてなかった。それどころか、ソルテスを見て色々とおまけしてくれたから驚いた。意外と、大丈夫なんだ。
『この格好だと、目立つかなと思ってたんですが』
「いや、訳ありだと思われる程度だろう。都市に行けばローブで全身を覆ってるやつなんて普通に居るからな。どっちかというと、俺はお前がシャーリー銀貨で買い物してる方が不審に感じると思ったんだが」
『?』
シャーリー銀貨って、道具屋で換金できるから普通に使ってるんじゃないのかな? 首を傾げると、呆れたように溜息をつかれた。
「・・・いくら古貨が換金できると言っても、八百屋では使わねぇよ」
・・・確かにそうかも。防具屋なら金属製の鎧も取り扱ってるし、道具屋なら魔法具まで取り揃えてるから、オルデン金貨での支払いも珍しいことじゃない。だからシャーリー銀貨で支払っても差額が支払いやすいから、そこまで奇異ではないけど、八百屋は一番高い商品でもエルガ銀貨1枚程度。オルデン金貨で支払われる方が珍しい。そこに、シャーリー銀貨で支払おうとするのは確かに不審に思われても仕方ないかも。
『・・・そう言われても、古貨以外殆ど持ってないです』
時々お釣りでエルガ銀貨やロクセル銅貨をもらうけど、次の買い物で使っちゃうから手元に残らない。シャーリー銀貨にも限りあるし。溜息をついていると、ディングさんも軽く息をついた。
「今度、両替してきてやろうか? 来週辺りトカーナのアリエル神殿に行かなきゃならんからな」
『お仕事ですか?』
「まあな。スペクターの暴走の後始末だ」
『・・・・・・なんか、すみません』
別に僕が悪いわけじゃないけど、同属(?)が知り合いに迷惑かけてるのは申し訳なく感じる。ションボリしていると、グローブをした手で頭をポンポン叩かれた。
「まあ、おかげで臨時報酬出たし、ここの管理だけだと結構暇だからな。偶には良いさ」
・・・何と言うか、こういうのが大人の対応なのかな? 僕の方が長生きなのに、僕だとこんな風には気を遣えない。死んだせいで若干時間が止まってるからなのか、単に僕が子どもっぽいだけなのか・・・後者だと悲しいな。若干凹みつつ、頭を下げる。
『えぇと・・・じゃあ、両替よろしくお願いします』
懐からシャーリー銀貨を10枚とセゼル金貨1枚を取り出すと、ディングさんの顔が引きつった。
「・・・セゼル金貨を両替してこいと?」
『無理ですか?』
流石に道具屋なんかで見せるのは不審に思われるからダメだけど、両替商のところに持ち込む分には大丈夫だと思ったんだけど・・・。
「お前さん、セゼル金貨の価値分かってるか?」
『はい。オルデン金貨900枚ですよね?』
確認を取ると、顔を顰められる。あれ?
「分かってんのに、言うのかよ」
『・・・大きな街なら、両替できるんですよね?』
トカーナはアリエル神殿があるから、都市には及ばないにしても大きな街のはず。不思議そうに眺めると、また溜息をつかれた。・・・変なこと、言ってないよね?
「確かにトカーナの両替商なら両替できんこともないが・・・明らかに俺が目をつけられるんだが」
『へ?』
あれ? エリナさん情報だと、両替そんなに大変じゃなかったはずだよ。
「俺がいくら聖戦官でも、セゼル金貨を手に入れられる程金持ちじゃないからな。間違いなく出所を疑われる。盗人扱いはされないが、何処で手に入れたかは聞かれるぞ」
ディングさんは理由を丁寧に語ってくれた。セゼル金貨を所有しているのは由緒正しい貴族か商人、後は昔の遺跡を発掘して手に入れた冒険者が殆どなんだそうだ。だから、ディングさんが持って行った場合、ディングさんが新しい遺跡を見つけて発掘したか、よほどの大商人か貴族に何らかの報酬としてもらったかのどちらかじゃない限り不審に思われるらしい。でも、この近くに遺跡なんてないし、ディングさんの仕事の履歴は神殿で管理されているから、調べられたら嘘をついてもすぐばれるんだそうだ。
・・・・・・良く、分かりました。
『・・・・・・ごめんなさい』
「分かれば良い」
・・・でも、シャーリー銀貨の在庫がもうそんなに無いんだよね。ケラン銅貨って両替できるのかな?
『ケラン銅貨って今でも両替できますか?』
「ああ。但し、あまりロクセル銅貨と価値が変わらないが」
『それでも良いです』
ないよりはマシだよね。持っていた袋からケラン銅貨をあるだけ出し、シャーリー銀貨と一緒にディングさんに渡す。
セゼル金貨が使えないと、いずれは買い物できなくなるな。どうしよう・・・。ジェイデル金貨とかは両替できるかも知れないけど、精々2枚ずつ位しかないからあまり足しにはならないし・・・。
『セゼル金貨、何とか両替できないかな・・・』
思わず、ポツリと呟いていた。それを聞きとがめたディングさんに、不思議そうな顔を向けられる。
「両替しないと困るのか?」
『シャーリー銀貨が無くなりそうなんです』
「ナルホドな。金貨を溶かして金にするわけにもいかないしな」
『そっか!』
ディングさん、頭いい! セゼル金貨が両替できなくても、金にしちゃえば問題ないね。セゼル金貨って金以外に何も混ざってないし、その方が売りやすいかも。
ディングさんの発想に感激していると、何故か顔を蒼くしたディングさんに肩をがっしり掴まれた。
「・・・溶かすなよ?」
『え? でも、そうしたら売れるし』
「ダメだ」
『でも、あっても使えな』
「ダメだ」
な、何か凄い気迫が伝わってくるんだけど・・・!
結局、脅し(神術)つきで溶かさないと約束させられた。何でダメなの!?
読んでくださり、ありがとうございます。




