14. 離乳食と食材調達 2
ジュースを与え始めてから3週間が経った。最初は水でかなり薄めたジュースだけだったけど、最近は原液をちょっと薄めたダシやスープ、ジュースが飲めるようになっている。好みも出始めたのか、飲みたいものじゃなかったときに嫌々をするようになった。念話で『ジュース』、『スープ』って言う時もあるから、僕にはまだ分かりやすい方で良いんだけどね。
あと、歯が生え始めてきた。最近涎が増えたり、不機嫌そうに口の中に手を入れたりしてる時があったけど、それはどうやら出てこようとしてる歯のせいでムズムズしてたからみたい。
そろそろ、離乳食が要るかな。
夕刻、最近出来るようになったおすわりをして、生えかけの歯を指で弄ろうとしているソルテスを眺めながら、離乳食のメニューを考える。
まだ、水状のものしか飲んだことがないから、なるべく水っぽいものからいかないといけないな・・・。エリナさんにも、焦らないで段階的にって言われてるし、野菜をペースト状にしたものを少し水で薄めたらどうだろう? アサトさんからもらった小麦粉を溶いて薄いお粥も良いかも。試しに何か作ってみよう。
『ちょっと、席外すね』
一人でいるのにも慣れてきたソルテスに一言言い置いて台所に行き、食材を確認する。・・・果物以外の在庫がないなぁ。まあ、ここ最近ジュースの催促が多かったしね。仕方ない、小麦粉でお粥かな。
小麦粉をとろみを感じないくらいまで水で溶かす。んー・・・あんまり美味しくない。素材が良いのは分かるんだけどな。
でも、最初のうちは味付けをしてはいけないってエリナさん言ってたから、仕方ないかな。
できたお粥を器に少し入れ、持っていく。ソルテスは器を見て手をパタつかせた。
「あうー」
最近ジュースを入れてた器と同じだから、気になってるみたい。苦笑して器をテーブルに置き、ソルテスをベッドから抱き上げる。
『ソルテス、お粥だよ。ちょっと試してみようか』
最後にミルクを飲んでからある程度時間は空けてるし、少しくらいなら食べられるかも。ソルテスに前掛けをしてから、スプーンでお粥を掬い、ソルテスの口元に近づける。興味はあるのか、パクリとスプーンを咥えた。
『ごっくんだよ、ゆっくりね』
多くが口の間から零れてしまったものの、少しは飲み込めたらしい。口にあったのか、うーと声を出すソルテスの口元を布で拭く。
『もうちょっと食べる?』
「あー」
スプーンに目を向けているソルテスに、もう一度お粥を掬って差し出す。再びパクリとスプーンを咥え、飲み込む。それを何度か繰り返して、もう要らないと嫌々をされた時には、前掛けはお粥でベタベタになってしまった。
『結構食べれたねー』
前掛けを外し、口元を拭くと、満足そうな声を上げる。最近ジュースが多かったから、お粥の味を嫌がるかと思ってたけど、杞憂で良かった。
暫くソルテスを抱っこして構い、食べたせいかウトウトしだしたところで再びベッドへと寝かせる。微かな寝息を立て始めるソルテスを横目に、僕は紙と羽ペンを取り出した。家にある食材を書き出し、離乳食対策をする。
今家にある食材はラーテルの実が3個、ベンラの実が15個、エトラクの実が4個にインマールの実が7個。後は凍らせたトライテールのお肉が一人分とドリアードの小麦粉。
お肉はまだソルテスには無理だし、使えるのは小麦粉と果物だけだな。
ラーテルの実やベンラの実は傷みやすいし、他の果物も日にちを置くと味が酸っぱくなる。腐らないうちに、果物はジュースにして凍らせておこう。スープ用の骨や煮込むと柔らかくなる野菜を手に入れてこないといけないなぁ・・・。
ダシ取り用の骨は、森に住む魔物や動物を狩れば、何とかなるかな。でも野菜を採取するとなると、薬草園以外の農園は今のところ作ってないし、原生種になっちゃうな。それに手袋無しでは収穫できないから、土いじり用の手袋が必要だし。ディングさんには迷惑かけちゃうけど、街に買いに行くか・・・。あ、買い物行くなら、ついでに布も仕入れてこよう。他には何が要るかな。
今後必要な物をジェイデル語で書き出しつつ、それをロクセル語に直す。少しでも、普段から書く癖つけておかないとね。
翌日、ディングさんに連絡を入れ、僕はソルテスを連れて神殿に向かった。
『お久しぶりです』
「おう、久しぶりだな」
軽く挨拶を交わし、ディングさんはソルテスを見て目を見張った。
「お、順調に育ってるみたいだな」
『本当ですか?』
「ああ。自分では分からんのか?」
『・・・比較対象が居ませんから』
子育て初めてだから、赤ん坊の育ち具合は良く分からないし、街で暮らしてるわけじゃないから他の赤ん坊を見る機会もない。困惑を笑顔で誤魔化すと、苦笑された。
「まあ、顔色も良いし、具合も良さそうだ。よほど問題がない限り死ぬこともないだろうな」
この世界の赤ん坊の死亡率は約3割。その内の約5割がソルテスの年齢で亡くなっているとエリナさんは言っていた。まだ気は抜けないけど、無事育ってくれてよかった。腕の中でこちらを見上げているソルテスに微笑を向ける。
「で、今日は何を買うんだ?」
『離乳食のための食材と布、野菜や果物の種が欲しいです。あと、手袋もいくつか』
「手袋?」
『自分でも野菜を育てようかと思うんですが、触れないので』
『黄泉への誘い手』は植物にも効果がある。果物や実の生る野菜はナイフで切ってから収穫すれば素手でも触れるけど、木に生ったまま収穫しようとすると腐ってしまう。葉物なんて抜こうとした途端に腐り始めるから、手袋ないと収穫なんて無理。魔術で抜けないこともないけど、採れたての野菜は抜いてすぐはまだ生きてるから、暫く置いておかないと触れないしあまり意味がない。手袋して収穫した方が確実だ。
「手袋か・・・布製ならアーノルドさんとこでも買えるが、皮製となると防具屋に行った方が良いかもしれないぞ」
『防具屋ですか・・・』
少し、悩んでしまう。アーノルドさんのお店ならもう初めてじゃないから良いけど、この格好で初めての店に行くのはちょっと不安だ。ディングさんが付いてきてくれるし、多分大丈夫だと思うけど。
「何を悩んでるか知らないが、食材買うならどちらにしてもアーノルドさんとこでは無理だぞ」
あ、そっか。道具屋では、粉ミルクや干し肉みたいな日持ちのする食べ物は多少扱ってるけど、生鮮食品はないよね。となると、最低でも八百屋さんには行かないといけないのか。
・・・仕方ない。
『・・・・・・他のお店も、行って良いですか?』
「良いぞ」
笑顔で快く返事を返してくれたディングさんに、心の中で何度もお辞儀する。また、良いもの手に入ったら絶対おすそ分けしよう。
読んでくださり、ありがとうございます。




