13. 離乳食と食材調達 1
ソルテスと暮らし始めて、約3ヶ月が経過した。最近はお風呂にも慣れて、気持ちよく浸かってくれるし、目が見えるようになって首も座り始めたせいか、ベッドで頭を器用に使ってクルクル回転したり、周囲のものを掴んだりと見ていてとても楽しい。ミルクの摂取量もちょっとずつ減ってきていて、最近は僕もソルテスのおもちゃを木で作ったりする余裕ができた。
でも、あまり長い間側から離れると、泣き出すんだよね・・・。おかげで最近は家の中に缶詰状態。寝てるときを見計らって夜中にコソコソ洗濯などの外仕事をこなしている。家の中でもできるけど、音を立てると起こしちゃうからね。
魔術使えて良かった。
その日、僕は久々に台所に立った。前日の夜たまたま近場でトライテールという鳥型の魔物に遭遇し、卵と鶏肉を手に入れたためだ。
昨夜のうちに血抜きしておいたトライテールを捌き、一人分を残して魔術で凍らせる。こうしておけば、氷が溶けない限り一月は美味しく食べられる。それから、残した鶏肉を簡単にソテーにする。・・・調味料、砂糖と塩しかないしね。更に、卵を1つ鉄板に割り、スクランブルエッグを作る。ふわりと良い匂いが辺りに漂った。
それらを皿に盛り、テーブルへと持って行く。
食事なんて、久しぶりだな。この間のパンケーキはアサトさんに食べられちゃったし。
少しウキウキしながら、早速食事を始める。
トライテールはあまり脂ののらない種類の鳥で少し硬いけど、臭みはないし、味もしっかりしている。だから塩だけの味付けでも、お肉本来の味がしっかり出ていて美味しい。卵も黄身がとっても綺麗な黄色だったから、スクランブルエッグの味付けが薄くても、卵本来の味で甘さを感じる。
久しぶりの食事をゆっくり堪能していると、ソルテスのベッドからギシギシと音がした。そちらを向くと、首だけでこちらを真剣に見るソルテスの姿が映る。
「あうー」
『どうしたの?』
フォークを置き、ソルテスの所へ行くと、手をこちらに向けて思いっきり伸ばされる。抱っこの催促かな?
そっと抱き上げると、ソルテスは満足そうにキャッキャと声を上げた。
『僕食事中だから、少し待っててくれると嬉しいな』
「あーーー」
言い聞かせながらベッドへと戻そうとするが、嫌々をされる。・・・仕方ない。
僕はソルテスを抱き上げたままテーブルへと戻った。食事が置かれていないところに座り、ソルテスの相手をする。
『高いたかーい』
「う」
浮いた感じが楽しいのか、ソルテスは高い高いが好きだ。でも、いないいないばぁは逆に泣いちゃうんだよね。僕はゴーストみたいに手から顔が透けたりはしないはずなんだけどな・・・。
『もっとたかーい』
「あー」
ちょっと魔術を使って、ソルテスをふわりと浮かせる。これぞポルターガイスト! もちろん、ただ浮かすだけじゃなくて、ちょっとあちこちに揺らしながら移動させている。
どうやら楽しいらしく、ソルテスはキャッキャとご機嫌な声を上げた。
暫く浮かせてから、自分の手の中にソルテスをポスンと落とす。怖がるどころか上機嫌のソルテスに、苦笑が漏れた。
『さて、そろそろ戻ろうか』
そう言って立ち上がろうとすると、ソルテスはテーブルの上に視線をやり、うーあーと声を上げた。
「あー」
『ん?』
視線を辿ると、トライテールのソテーとスクランブルエッグ。もう一度ソルテスに視線を戻すと、それらを見ながら涎を垂らしている。
『ひょっとして、食べたいの?』
「あう」
どうやら、興味があるらしい。・・・でも、まだ離乳食には早いんじゃないかな。歯も生えてないし・・・。
『ソルテスはまだ無理だよ。もうちょっとしたらね』
「う!」
苦笑交じりに言うと、嫌々をされる。困ったな・・・。
『・・・じゃあ、ちょっとだけ違うものにしようね』
相変わらず嫌々するソルテスをベッドに寝かせ、台所に向かう。
ここ最近は食べられる木の実や草の生息地を再確認しに森に行くことが多いから、果物や薬草も少しは在庫がある。その在庫を漁って、ラーテルの実を取り出す。
ラーテルの実は栄養が豊富な甘い果実で、果汁がとても多い。この地方では採れないはずだけど、僕の住んでる森には何故か生えている。まあ、収穫量は少ないけどね。
ラーテルの実を絞って果汁を取りだし、それをスプーンで掬ってコップに入れる。それからコップに水を入れて、軽く魔術で煮詰め、冷やす。これで、赤ん坊でも飲める簡易ジュースの完成だ。
原液飲ませるにはまだちょっと早いと思うから、これで我慢してもらおう。
出来上がったジュースを持って行って、哺乳瓶に入れる。
『はい、ソルテス、ジュースだよー』
「うー、うぇ」
ちょっと愚図り始めていたソルテスを抱き上げ、ジュースを与える。コクリと一口飲んで、それからは凄い勢いで飲み始める。
『美味しい?』
飲むのに夢中で、返事は返ってこない。哺乳瓶に半分はあったのに、瞬く間に全部飲みきってしまった。
『美味しかったね。ごちそうさま』
自分でげっぷをし、満足そうなソルテスをもう一度ベッドに寝かす。機嫌が良くなったのか、一人でベッドで足や手をパタパタさせるソルテスを置いて、僕は自分の食事に戻った。
・・・やっぱり、冷めちゃったね。
ちょっとガッカリしたけど、やはり久々の食事は美味しかった。
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