12. お風呂に入ろう
翌朝、僕はソルテスのベッドを作った。
家の周囲が森だから資材はすぐに手に入るし、魔術で木を切って組み立てるだけだから、そんなに時間かからずに出来上がる。
それから、家にあった布に羊毛を詰めて布団を作り、ベッドに敷いた。
ちょっと大き目の、木枠のついたベッドに満足し、早速ソルテスに移ってもらう。
『ソルテス、新しいベッドだよー』
「うあー」
ベッドに寝かせると、ソルテスが手をパタパタさせる。気に入ってくれたみたいだな。
最近思うんだけど、ソルテスって機嫌が良いときほど手を動かす回数が多い気がする。
暫くソルテスはパタパタ手を動かしていたけど、そのうちポスンと手が布団の上に落ちた。
これは、おねむかな?
『ゆっくりお昼寝してね。起きたらお風呂入ろうね』
「うー・・・」
そのまま寝息を立てるソルテスを暫く眺め、僕は昨日買ってきた魔法具を発動させた。
すぐに、魔法具からこの国の言葉であるロクセル語の子守唄が小さな音で再生される。
この子守唄は、嫌がるディングさんに今回だけというお約束で歌ってもらいました。本当にお手間かけます。
次からは、死者の街のリビングデッドにお願いしよう。
それはともかく、この魔法具、昨日も使ったけど凄く便利! 録音できるのは一つだけじゃなくて、再生も録音したものの中から切り替えることができる。それに、魔石に録音される仕様みたいで、魔石の取替えも可能だ。音の大きさの調整や再生する場所も選べるから、言葉を覚えさせるのにも使えそう。
でも、壊れたときに替えが効かないから、内部構造を調べて複製品を造っておこう。
幸い、僕が今までに経験してきたことや、昇天した死霊からもらった資料や知恵を使えば大体のことは出来る。
伊達に長く生きてないよ!
寝ているソルテスを起こさないようにその場を離れ、家の外に出てお風呂の準備に入る。
お湯は魔術で入る直前に沸かせば良いから、まずは風呂桶だな。
家にお風呂はあるけど、流石にソルテスを入れるには大きすぎるし、僕が一緒に入れないからなぁ・・・。ソルテス用の風呂桶が要るね。
さっきベッドを作ったときの残りの木材を板にして、風呂桶を作る。上手に板を組み合わせないと水漏れがするから、合う板を探すのが本当は大事なんだけど・・・時間がかかるから、蝋使って側面を固めておこう。
・・・こんなものかな。
実際にお水を入れて水漏れを確認する。大丈夫、使えるな。
次に、石鹸を薄めて石鹸水を作る。アーノルドさん、かなり薄めてって言ってたから、殆ど水位で良いかな?
・・・身体があったら、触って刺激とか確かめられるんだけどな。ないものは仕方がない。
できた石鹸水を木のコップに詰めておく。それから、身体を洗う用に新しい布を用意した。
そろそろ、布も買ってこないと新しい分の在庫がない。この間一緒に買ってくれば良かったかな。それとも、自分で織ろうか。時間はあるし。うーん・・・今のところは足りてるし、もう少し育ってからの服を作る分だけ織り始めようかな。
一通りお風呂の準備が終わり、家の中に戻る。
本当はちょっと遠出して、今後のために薬草を採取したり飼育できる動物を捕獲したりしたいんだけど、赤ん坊一人を家の中に寝かせて行く訳にはいかないね。ちょっと残念に思いながらも、僕はソルテスの様子が分かる位置に座って本を開き、今の文字の勉強を始めたのだった。
ソルテスがミルクに起き、それからもう一度寝て次に起きたところで、僕はお風呂の準備をした。
風呂桶にソルテスの体温より少し温かめのお湯を張り、ソルテスが巻いている布を脱がす。・・・好い加減、産着の替えを用意しておかないと。いつまでも布で包むだけじゃ困るしね。
『ソルテス、お風呂入るよー』
「う?」
抱き上げながら語りかけると、不思議そうな声が上がる。何となくで、こっちの言うことが伝わってるのかな?
『お湯に入るからね』
そう言いながら、そっと風呂桶の中にソルテスを入れようとする。ゆっくりと風呂桶の中へとソルテスの身体を入れていく・・・丁度ソルテスの身体が少しだけお湯に触れた。
その途端、ソルテスは大声で泣き出した。
「ふぇえええぇぇええええええ!」
『ど、どうしたの?』
何で泣き出したか分からず、慌ててお湯から遠ざける。暫くあやすと、完全には泣き止まないものの、大声を上げることはなくなった。
・・・どうしたんだろう?
『もう一回入ってみようね』
「う・・・あぁあああぁぁぁああああああ!」
そう言って再びお湯につけようとすると、また大泣きする。
「あぁぁぁああぁああぁぁあああああああ!」
『ご、ごめんね。大丈夫だよー』
ひょっとして、お湯が怖い? ・・・赤ん坊って生まれてくる前は水に守られてるんじゃなかったっけ?
顔を真っ赤にして泣き続けるソルテスをあやしつつ、僕は溜息をついた。
どうやらソルテスはお湯に触れるが嫌らしい。これじゃあ、お風呂は無理だな・・・。
仕方なく、いつものように絞った布で身体を拭こうとして、はたと止まる。
そうだ、良いこと考えた。
自分の思いつきに自分で満足し、ぐずぐずとまだ泣いているソルテスの濡れた場所を拭き、ベッドへと戻す。それから、まだ使ってない布を風呂桶の中に浸し、いつもよりも軽く絞った。
『ソルテス、身体拭くよ』
それから片手でソルテスを抱え上げ、身体をゆっくり拭いていく。水が滴らないギリギリの辺りまで絞った布は、いつもの固い絞りよりも水に触れる量が多い。しかし、ソルテスはそれは特に嫌がらなかった。むしろ気持ち良さそうにしている。そのあと乾いた布で拭きなおすと、嬉しそうに手を振っている。
・・・この調子なら、そのうち布で巻いてお風呂に入れられるかも。
時間がかかりそうだなぁと思いながらも、何とかお風呂に入れられる目途がたったことに僕は安堵のため息を漏らした。
後日、少し愚図られたものの、布で巻いたら何とかお風呂に入れることはできるようになった。
良かったー・・・。
読んでくださり、ありがとうございます。




