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レイスの子育て奮闘記  作者: roon
0歳時
17/47

10. 言葉の壁(前編)

 ソルテスと暮らし始めて早1週間が経過した。まだまだソルテスを理解出来ていない部分はあるけど、泣き方でおしめとご飯の区別だけは付くようになった。

 でも、それは世のお母さん達みたいに経験から来るものじゃない。何と言うか・・・ソルテス、念話使ってる気がするんだよね。

 時々、大声で泣いてる時に『おしめ』とか『ミルク』とか幻聴が聞こえることがあって、それがいつも合ってるからそう思うんだけど・・・。

 赤ん坊ってすぐには喋れるようにならないよね・・・念話は別なのかな?

 不思議だとは思うけど、特に問題じゃないから気にしてない。どちらかというと便利で助かってるし。

 身体を拭いて着替えさせると、ソルテスは嬉しそうに手をぱたぱたさせた。ミルクも飲んだし、おしめも大丈夫そうだ。

 特に問題はなさそうだと判断して、暇そうに声を上げるソルテスに子守唄を聞かせる。レパートリーそんなにないからいつも同じ歌だけど、不満はないみたい。

 のんびり歌いながら、伸びてきた手を手袋をした手でそっと握る。ぎゅーっと握り返してくる手があったかくて、とくとくと脈打つのが伝わってくる。

 こうして子育てしてると、死霊って子育て向きな種族だなって思う。

 疲れることもないし、寝る必要もないから、夜泣きされても困らない。種族によっては抱っことかできないから困るかもしれないけど、リッチなんか一番子育て向きなんじゃないかな? ・・・性格面で、無理か。

 いつの間にか寝息を立てているソルテスを眺めながら、明日の予定について考える。

 いい加減、ソルテス用のベッドを作りたいな。僕のベッドだと大きすぎて、転がったときに大変だし、布団もできれば羊毛に替えたい。

 あと、そろそろお風呂に入れてあげないと。絞った布で身体を拭くだけじゃ、たかが知れてるしね。

 お風呂用品・・・石鹸がないかも。レイス化して(死んで)からお風呂なんて入ってないからなぁ・・・。桶も壊れてないか確認しないと。

 色々チェックしに行きたいけど、ソルテスがしっかり手を掴んでて、無理やり外すと起きちゃいそうだ・・・寝てるのに、力強いな。

 放してくれるまで、待とう。



 翌日、ソルテスを連れて僕はディングさんのところに向かった。

 事前に行くって連絡をしたからか、ディングさんは神殿の入り口に立って待っていてくれた。


『こんにちは』

「おう、良く来たな」


 ソルテスにも手を軽く上げて挨拶するディングさんに、アサトさんからもらった小麦粉を他の小袋に詰めなおしたものを渡す。


『これ、おすそ分けです』

「何だこれ?」

『小麦粉ですよ。ドリアードからのもらい物らしいので、美味しいと思います』

「ドリアードの!?」


 なんかビックリしてる。珍しいからかな?


「良くそんなもの手に入ったな。買ったのか?」

『アサトさんからもらったんです』

「アサトさん?」

『レイスの知り合いです。ドリアードと仲が良いんですよ』

「・・・・・・・・・」


 ・・・頭抱えてるけど、変なこと言ったかな?

 森に集落を作る性質のあるドリアードは、他の精霊よりも他者と一緒にいるのが嫌いじゃないから、側に住んでるアサトさんとも密な交流があるらしい。

 それに、精霊はあまり自分から他者に干渉しないけど、気に入った相手には結構べったりな種族だ。僕だって生前よりも今の方が精霊の知り合い多いし、珍しくもないと思う。

 

「まあ、いい。ありがたく頂くよ。ところで、どうしたんだ?」

『ちょっと買いたいものがあって、道具屋に行きたいんです』

「アーノルドさんのとこか・・・。いいぞ、付き合ってやる」


 道具屋の店主さん、アーノルドさんって言うのか。


「じゃあ、早速行くか」


 そう言ってディングさんが神殿を出ようとする。

 と、ソルテスが泣き出した。


「ふぇ・・・ふえぇ・・・!」


 泣き声に被って、何故か『おしめ』って聞こえる。汚れちゃったかな?


『ディングさん、ちょっと客室を貸してください』

「構わないが・・・どうしたんだ?」

『ソルテスがおしめって』

「ソルテス? ああ、赤子の名前か・・・って」


 後ろで何か驚いてるけど、とりあえず置いておいて客室に向かう。ベッドにソルテスを寝かせ、おしめを確認する。うん、替えないとね。

 予備は持ってきてるから、さっさと取り替える。

 てきぱきと替えていると、ディングさんが寄ってきて覗き込む。


「手馴れてるな」

『毎日やってますから』

「なるほどな・・・」


 感心しているディングさんの横で、汚れた方のおしめを魔術で凍らせる。

 後で持って帰って洗おう。


「ところで、さっき赤子がおしめって言ったって・・・」

『ええ』

「本当に言ったのか?」

『えっと・・・時々、聞こえるんです』


 僕も良く分かってないから、上手く説明できないんだよね。


「聞こえる?」

『何と言うか・・・泣き声に混じって「ミルク」とか「おしめ」とか聞こえてくるんですよ。念話なのかなって思ってるんですけど』


 使ったものを片付けてソルテスを抱き上げる。その横で、ディングさんが腕を組んで考え込んでいる。

 やっぱりちょっと不思議だよね。

 そんなことをのほほんと考えていると、ディングさんが渋い顔をこちらに向けた。


「・・・1つ聞きたいんだがな」

『はい?』

「お前さん、赤子・・・ソルテスにどうやって喋ってる?」


 どうやって喋ってるって・・・念話だよね。僕肉体ないから声出せないし。


『念話ですが・・・』

「だよな・・・そのせいかもしれんぞ」

『え?』


 訳が分からず、ディングさんを凝視する。


「普通、赤子ってのは親が喋るのを聞いて言葉を覚える」

『そうですね』

「だが、お前さんは念話でソルテスに話しかけてるだろう?」

『そりゃあ・・・それしかできませんから』


 質問の意図が分からない。首をかしげていると、溜息をつかれた。


「ソルテスは念話を覚えてるってことだ。念話ってのは直接頭に作用するものだから、覚えやすい。上手に話すのにはコツがいるが、強い感情さえあれば単純な言葉ならすぐ話せるようになるからな。喉の発達してない赤子でも、慣れれば話せるだろうし」

『言われてみれば・・・』


 確かに、念話ならお互いの使ってる言語が違っても通じるし、本能で生きてる動物でも単純な念話ならつかえたりするもんね。


「特にお前はレイスになってからずっと念話を使ってるから、ソルテスの未熟な念話でも拾えるだろう?」

『そっか・・・・!』


 そっか、時々聞こえる幻聴みたいなのはまだソルテスが上手に念話を使いこなせてないからか。

 なんか納得した。赤ん坊って賢い!

 感心して腕の中のソルテスを覗き込む。この調子だと、言葉覚えるの早いかも。

 ちょっとウキウキしていると、呆れた顔を向けられた。


「お前さん・・・1つ忘れてるぞ」

『?』

「人の中で生きてくには、念話じゃダメだろう」

『・・・・・・・あ』


 そ、そうだった・・・!

 念話を習得してると人が何語を話していても理解できるから便利だけど、念話以外話せないのは困るね。

 実際、僕今凄く困ってるし。筆談だけで人の中で一生を送らせるのは流石に厳しい。1つくらいは覚えさせないと・・・って、僕がどんなに念話で語りかけても言葉覚わらないじゃないか!


『ど、どうしよう・・・』


 これなら孤児院の方がマシだった? いや、どっちにしてもイマイチか。アサトさんに頼んでドリアード経由でエルフのところに留学させてもらうか・・・いや、半精霊種でもないのに、エルフ語使えてもしょうがない。むしろ、他の人間から狙われかねないな。死者の街のリビングデッドに教えてもらう・・・死者の街に赤ん坊連れてく方が危険だ。ある程度育ってからじゃないと・・・。

 うーん・・・良い方法がないなぁ・・・。


「いっそのこと、孤児院に通わせたらどうだ?」

『?』

「あんなところでも、同年代の子ども達と遊ばせるくらいならできるぞ。時々なら俺が送り迎えしてやってもいいからな」


 ・・・うーん・・・それも良いと思うけど、子ども同士で遊べるくらいまでは育ってないとダメだから意味ないし、逆にいじめの対象になっちゃうんじゃ・・・。

 人間の乳母さんが雇えれば良いんだけど、僕(死霊)のとこには無理だよね。

 うー・・・・・・。

 

「考え込むのは一旦止めにして、先に買い物行くぞ」


 そうそう、買い物行かなきゃ。

 呆れたディングさんに引っ張られ、僕とソルテスは神殿を出た。

 読んでくださり、ありがとうございます。

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