9. お名前は?(後編)
結局、おしめが汚れていただけで、おしめを変えると赤ん坊は先程の大泣きが嘘のように静かになった。
ベッドの上でキャッキャと声を出し、手足をパタパタ振っている赤ん坊を気にしつつも、僕はアサトさんに未来視の結果を尋ねた。
『結局、どんな感じだった?』
『んー・・・・・・・・意志の強そうな、がっしりとした子に育つみたいだよー』
・・・何か歯切れが悪そうな言い方だけど、嘘ではなさそう。でも、がっしりした子って凄い変な言い回しだな。
『戦士とか騎士向きなのかな?』
『格好は軽装で冒険者っぽかったよー。ただ、周りに金持ちっぽい人が集まってたな』
『護衛とかかな・・・とりあえず、無事成人は出来そうだね』
今いるこの国では、成人は16歳。アサトさんが何年先の未来を視たのか分からないけど、成人前に病気で死んだりすることはなさそうでほっとした。もちろん、だからと言って適当に育てれば良いってものじゃないけどね。
『冒険者か・・・ボイジャーとか付けたらいいのかな』
『それ、そのまんまだぞー』
『じゃあ、ボーシャとか?』
『・・・名前の由来聞いたら、あの子泣くぞー』
・・・だよね。
『せめてソルテスとかウィリエットにしとけー』
やっぱり、アサトさんの方がセンス良いな。
苦笑交じりにアサトさんが挙げた名前に、僕は感心した。
『どういう意味なの?』
『古代エルン神聖語で希望とか自由意志って意味だよー。幸運を呼び込みやすい文字を入れてるから、運も向上すると思うぞー』
運が上がるって良いよね。古代エルン語って文字自体に効力があるっていうから、効果も期待できそう。神聖語ならその分効果も強そうだし。
『じゃあ、ソルテスが良いな』
『ん。じゃあ、名付けの儀式だなー』
名付けの儀式って言うと大仰だけど、単に赤ん坊の前で名前を与えたことを明言するだけだ。ちょうど起きてるし、先に伝えてこよう。
赤ん坊の側へ行くと、気配が分かるのか、赤ん坊は振っていた手をこちらに向けてキャッキャと笑った。
『今日から、君の名前はソルテスだよ』
「うー?」
『よろしくね、ソルテス』
「あうっ」
赤ん坊―――ソルテスは分かっているのかいないのか、元気な返事を返してくれる。
可愛いなぁ・・・。
『――――――ぞー』
『ん?』
後ろから聞こえたアサトさんの声に振り返ると、気まずそうな顔をしたアサトさんが僕を見ている。どうしたんだろう?
『何?』
『何でも・・・ないぞー』
『?』
ブンブン首を振られ、困ってしまう。まあ、聞いて欲しくないなら無理には聞かないけど。
『ちょっと気になることができたから、一回帰っても良いかー?』
そのまま、いそいそと立ち上がるアサトさん。本当にどうしたのかな? いつもは夕食まで食べて帰るのに。何か忘れてたことでも思い出したのかな。
『うん。名前、ありがとう』
『またすぐ来るぞー』
少し疲れた顔をして手を振り、アサトさんは家を出て行った。
・・・・・・未来視して、疲れたのかな?
読んでくださり、ありがとうございます。




