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レイスの子育て奮闘記  作者: roon
0歳時
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8. お名前は?(中編)

 通信後それほど時間をかけず、アサトさんは僕の家を訪れた。


『お邪魔するぞ』

『いらっしゃい』

『ほい、小麦粉ー』

『危ないから投げないで!』


 アサトさん自身が収まりそうな大きな麻袋にパンパンに詰まった小麦粉を投げ渡してくる。何とか空中に浮かせてキャッチ。

 赤ん坊に当たったらどうしてくれるんだ、もうっ。


『僕は当たっても大丈夫だけど、周囲へのダメージは大きいんだよ、アサトさんっ』

『そういえばそうだったなー。死者慣れしすぎて失念してたわー』


 死者慣れって言うのは、物理的なものが周囲に影響を与えることを失念しちゃうことだ。

 上手く説明しにくいけど、死んで死者の仲間入りをすると、誰かに殴られたりどこかにぶつかったりしても痛みを感じなくなる。あと、実体のある死者と一部の死霊は、物を持っても重いと感じなくなる。これらは生きてた時は異常なことだけど、死んで長い時間が経つとそれを普通だと頭(?)が認識しちゃう。その状態を死者慣れって呼んでるんだ。

 僕は生きてた時の感覚がまだ抜け切れてないけど、アサトさんはすっかり抜けてるから時々ビックリすること仕出かすんだよね。悪気がないのは分かるけど。


『今後は気をつけてね』

『おう』

『しっかし、小麦粉多いね。これどうしたの?』

『ウチの近くのドリアード達が、火炎猪退治のお礼にくれたんだー』


 そういえば、アサトさん家はドリアードの集落近かったな。ドリアードは精霊だから、『黄泉への誘い手』の効果がない。つまり、触られても問題ない。

 そのためか、アサトさんはドリアードと仲が良いらしい。


『ドリアード作ってことは、味も期待できるね』


 リデル神の眷属であるドリアードが育てる作物は美味しくて、長期保存に適している。小麦粉なら多分100年は味を落とさずに保存できる。

 これ、離乳食の材料に使えないかな?


『全部もらっていいの?』

『おう。俺、料理面倒だからしないしー』

『じゃ、遠慮なく』


 アサトさんにテーブルに着くよう促して、小麦粉を持って台所に行く。

 早速もらった小麦粉と砂糖と水を混ぜ、鉄板で焼いてパンケーキを作る。卵とミルク入れたり、バター使った方が風味も良いしふわふわになるけど、あいにく全部切らしてる。

 ・・・赤ん坊が成長したときのことも考えて、鶏くらいは飼育しようかな。

 何枚か焼き上がったパンケーキを盛ってアサトさんのところへ運ぶ。ただでさえ材料そろってないんだから、出来立て食べないと余計に美味しくなくなるからね。


『はい。先食べてて。次焼いてくるから』

『ありがとー』

『まだまだ食べるよね?』

『うん。食い溜めるー』


 ・・・・・・何年分くらい食べる気だろ? 50枚は焼いた方がいいね。

 掌より大きいパンケーキを一口で食べきっていく様子を視界の端に映し、やっぱり100枚くらい焼くことに決める。鉄板の端から端まで全て使って焼ける限りの枚数を焼き、その合間に次の種を作る。そして出来上がったのをお皿に積んで持って行く。

 結局焼いたパンケーキは全部アサトさんが平らげた。


『ふー、ごちそうさまー』

『満足した?』

『したしたー。これで10年は何も食べなくて良いかなー』


 ちょっとパサパサした即席パンケーキだったけど、満足してもらえたみたい。・・・しかし、僕達(レイス)の食べたものってどこに入ってるんだろ? 消化器官ないのにな。

 そんなことを思いながら、僕はアサトさんに少し冷めたお茶を差し出した。それから自分も座り、お茶を飲む。

 ・・・お茶っ葉古いと、イマイチだな。


『ところで相談したいことがあるって言ってたよねー? 何ー?』


 差し出したお茶を一口飲んだところで、アサトさんが声をかけてきた。


『アサトさん、占い得意だったよね?』

『何か調べて欲しいことでもあるのかー?』

『さっき言ってた赤ん坊の名前を悩んでて、アサトさんなら良い名前思いつかないかなと思って』

『そっかー』


 アサトさんは頷いて、離れた所にあるベッドで寝ている赤ん坊に視線を向けた。


『折角だし、この子の未来視て決めるかー?』

『視えるの?』

『10年くらい先までならなー。はっきりとは分からないけど、どんな風に育つか位は予想できるんじゃないかー?』


 アサトさんは占いだけじゃなくて、未来視も出来る。文字通り対象の未来を視る能力なんだけど、断片的に未来に起こる出来事を視ることができるだけで詳細までは分からない。でも、成長した赤ん坊の様子位は分かるのかな。

 因みに、未来は行動によって変えられるから、未来視はその都度やった方が効果的だ。


『じゃあ、お願いして良い?』

『おっけー』


 軽快に返事をして、アサトさんは赤ん坊に近づいた。自分の顔が触れないギリギリの距離で、赤ん坊の顔を覗き込む。


『・・・・・・・・・・・・どう?』

『んー・・・・・・』


 アサトさんは唸りつつも顔を上げようとしない。ちょ、ちょっと気になるな。

 いそいそと待っていると、赤ん坊の手がゆらりと動く。


『うおっと!』


 アサトさんは大急ぎで赤ん坊の側を離れた。間一髪、赤ん坊の手が空を切る。

 アサトさん、手袋もフードもしてないもんね。触られたら(赤ん坊が)大変だ。


「うぁ?」


 あ、今の声で起きちゃった。


「う・・・あ・・・!」


 やばい、泣く!


「おぁあああああああああああ!」


 駆けつけたものの間に合わず、家中に泣き声が響いた。相変わらず耳(?)に来るけど、前よりは痛くない。

 慌てて抱き上げ、あやす。


「あぁぁあぁあああああああああ!」

『だ、大丈夫だよー。怖くないよー』

『げ、元気だなー』


 近距離で泣き声を喰らったアサトさんが耳(?)を押さえてフラフラしているけど、そちらに声をかける余裕がない。

 しかし、ちょっと機嫌が悪いくらいならあやせばすぐ収まるのに、なかなか泣き止まない・・・これはおしめかミルクだな。


『アサトさん、台所から哺乳瓶と粉ミルク持ってきてくれる?』

『お、おう』


 助かったというように台所に退避するアサトさんを横目に、僕は下の世話に取り掛かった。


 

 読んでくださり、ありがとうございます。

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