表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レイスの子育て奮闘記  作者: roon
0歳時
11/47

4. 洗礼は大事!(前編)

 赤ん坊を拾って三日が経った。エリナさんの助力もあってミルクとおしめの世話は完璧に出来るようになったし、赤ん坊の成長過程についても学べた。

 さすがに今の文字まで教えてもらう時間は無かったからまだ筆談できないけど、本もあるし離乳食の買い出しまでには修得できるかな。

 あと、お金の価値はエリナさん商人の娘だったみたいで結構詳しかったから、ついでにレクチャーしてもらった。

 今の主流はオルデン金貨、エルガ銀貨、ロクセル銅貨で、銅貨100枚で銀貨1枚。銀貨100枚で金貨1枚らしい。僕の生きてた頃はセゼル金貨、シャーリー銀貨、ケラン銅貨が主流で、単位も銅貨70枚で銀貨1枚、銀貨250枚で金貨1枚で使いにくかったから、今の単位の方が使いやすくて良いな。

 因みに、今のセゼル金貨の価値はオルデン金貨900枚だそうだ。・・・もう人前では出さないようにしよう。盗賊に目をつけられたら(正体がばれる的な意味で)困る。


『そういえばシルト君、その子の洗礼どうするの?』

『?』


 明日が命日ということで、天に帰る準備をしていたエリナさんがふと思いついたように顔をあげた。


『親がいないなら、保護してる人が洗礼を受けさせに行かないといけないでしょう?』


 そう言えば、そうだった。

 この世界では、子どもが生まれると7日の内に洗礼を受けさせる。別に受けなくても問題はないんだけど、受けておかないと神様の加護がもらえない。加護がないと病気にかかったり、悪魔に誘惑されたりして早死にする可能性が高くなるから、どこの家でも洗礼は受けさせている。


『生まれて何日経ってるか分からないけど、早いうちに受けさせたほうが良いわ』


 ・・・そうなんだけどね、エリナさん。洗礼受けるってことは神殿に行くってことなんだよ。

 神殿に行くってことは、高確率で正体ばれる≒お祓いってことだよ!? 僕危ないじゃないか!

 (レイス)はゴーストやスペクターと違って未練から現世に残ってるわけじゃないから、昇天の道が無い。

 神官からすれば厄介な悪霊だし、ほぼ確実に祓わ(消さ)れる。


『正体・・・ばれないかなぁ・・・』


 赤ん坊を育てると決めたんだから、生存率を上げる洗礼はしてあげないといけない。でも、祓わ(消さ)れちゃったら本末転倒だ。

 拾ってすぐに孤児院に預けておけば良かったかなぁ・・・。


『えぇ・・・と、が、がんばってね』


 本気で悩んでいる僕の耳(?)を、ようやく自分の発言の重さに気づいたらしいエリナさんの無責任なエールが抜けた。





 翌日、天に帰るエリナさんを見送った後、僕は赤ん坊を連れて街へ出掛けた。

 ・・・そうだよ、行くことにしたんだよ。祓わ(消さ)れるの嫌だけど、洗礼は大人になってからでは受けられないからね。後悔するくらいなら行くよねっ。

 相変わらずの完全防備姿で、周囲に見えないよう赤ん坊をしっかりと布で包んで神殿へと向かう。

 この街にある神殿は主神アリエルじゃなくて豊穣の神リデルを祀っているけど、洗礼は神殿ならどこでも受けられるから問題はない。

 神殿は、小さいながらもこちらを威嚇するような清らかな様相で街外れに佇んでいた。・・・生前は結構来たけど、今はさっぱりご無沙汰だもんなぁ・・・。やっぱり少し怖い。

 ・・・でも、そうも言ってられないよね。

 聖戦官(天敵)が居ませんようにと祈りつつ、ソロソロと神殿に近づいていく。


「何してるんだ?」

『!?』


 背後から声をかけられ、思わず竦みあがった。慌てて振り向くと、白い法衣に身を包んだ、厳つい男性が顔に疑問符を浮かべている。その手に握られた錫杖に目が釘付けになった。


『(げ、聖戦官!)』

「神殿に用事か? 丁度今帰ってきたところだ。用件伺うぞ」


 どうやら、この神殿の管理人は聖戦官(この人)らしい。

 (レイス)と聖戦官の相性は最悪だ。聖戦官は神官の中でも魔物や死霊との戦いに秀でた役職で、力も強い。この人の力量までは分からないけど、気をつけてないと祓わ(殺ら)れる。

 ・・・他の街に行けばよかった・・・!

 ズンズンと近づいてくる聖戦官に思わず一歩後ずさる。

 背を向けて逃げてしまいたくなるけど、手の温もりにぐっとガマンする。

 逃げたらここまで来た意味がない。


「ん? どうした?」


 目の前まで来た聖戦官に僕は抱いていた赤ん坊を突き出した。


「赤子? ああ、洗礼か。いいぞ。少し時間がかかるから、応接室でお茶でも飲んで待ってな」


 赤ん坊を危なげなく受け取り、聖戦官は僕に神殿に入るよう促してくる。

 無理無理! (赤ん坊いるけど)聖戦官(天敵)と神殿に二人っきりとか無理!

 身振り手振りで拒否を伝えると、聖戦官は目を瞬かせた。それから、フードの奥を覗き込むように目を細めてこちらを見遣る。


「? ・・・お前さんもしかして」


 やばい! ばれる!

 そう思った途端、周囲の景色が掻き消えた。


『あ、あれ?』


 見覚えのある景色に、僕は目を瞬かせた。鬱蒼とした森の奥に、丸太で作られた簡素な家。

 僕の家だ。

 な、何で戻ってきちゃったの!? ばれた時のために転移魔術の準備はして行ったけど、勝手に発動したりはしないはずなのに・・・!

 ・・・・・・まさか、恐怖のあまり無意識に発動しちゃった!?

 他の可能性も色々考えてみたけど、多分それが正解だ。・・・情けない。涙出てきた。これでも齢を重ねた死霊で結構力強いのに、聖戦官(天敵)見て戦う前に逃げ出すなんてっ。

 知り合い(レイス)に知られたら爆笑されるな。

 それより赤ん坊置いてきちゃった・・・! どうしよう!

 


 読んでくださり、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ