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旅立ちの日
彼は、鴉のもとで育てられた―――人間である。
「イル、もう行くの?」
「母さん、今までありがと」
「何時でも帰っておいで」
4月某日。彼が丁度高校に入学する年である。
彼の名前はイル。イルと言う名前は、義母のミトに付けられた名前で、苗字は無い。
イルの肉親は如何して彼を捨てたのか判らない。ただ、イルはそれなりに楽しく暮らしていた。ミトを実の母親の様に慕って。そしてもう一人……
「父さん」
「行け、何も言わなくていい」
義父のウェイト。彼は鴉界ではリーダー格で、誰もが憧れるほど男気の強い鴉だ。
イルもそんな義父の背中を追って育ってきた。
「じゃあな。」
大きくなった我が子の背中をただ見守るだけ。イルは二匹が思っていた以上に大きかった。