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普遍的構造部屋(黒瀬の部屋)

謎多き美女・「黒瀬」さんに連れられ「僕」が辿り着いたクロークアパート。


そこに待つのは!?

クロークアパート・・見た目、内実ともに陳腐な下宿であろうに横文字か。ふつう〇〇荘とかじゃないのか?と考えたが口に出すのはやめておいた。


誰だって住んでいるところにケチをつけられたくはないだろうし。


「お入りください」


そう言って黒瀬さんは玄関の引き戸を開けてた。ギシギシと音がする。


僕らはアパートの中に入った。中には玄関からまっすぐに廊下が伸びていて上には電球が等間隔に設置され左右には各部屋と思わしき数字、奇数が右側で偶数が左側に書かれていて一から六まであるドアがあり廊下の突き当たりから二階か屋根裏かわからないが上に行けそうな階段がある。外見と違い案外、清潔感は少なからずあるが・・・しかし、木造建築は温もりが売りだと思っていたが寒気しかしないのはおそらく目の前に「原油高価買取」と胸のあたりに書かれた宇宙服を着た人が立っているからであろう。


精製は自分でするのだろうか。いいたいことがあり過ぎる。


「おはようございます黄金沢さん。お仕事ですか?」


黒瀬さんは慣れているのだろう、なんともない風に平然と挨拶をした。


「ザー、ザザーザザザザザ。ザザザザザザザザザザザザ。」


スピーカのようなものを通して話しているようでノイズしか聞こえない。せめてその頭のヘルメットは取れよ、表情が見えなくて怖いし初対面なんだぞ。と色々変なところがあり過ぎて基本的なマナーの部分を注意したくなってしまった。帽子ではないけれど。


「ザザザ?」と疑問形のノイズが聞こえた。


「彼は今日からクロークに住むことになっ・・」「住むの!?」


思わず話の途中であるのにしゃしゃり出てしまった。泊めるの比じゃない滞在形態じゃないか。


「え?住まないんですか?私はてっきり泊ると謙遜しているだけかと」


「そんな謙遜したことありませんよ!」


「ザザー。ザザザ、ザザザザザ?」


「あんたは何言ってんのかわかりません」仲介のつもりか宇宙野郎、と言うのはもう少し慣れてからにしようと思った。そして少し間を空けてから。


「黒瀬さん。色々訊きたいことがあるんですが・・」と言った。そりゃそうだろう、不思議なことだらけなんだから。黒瀬さんとの出会いといい、クロークに来るまでの往路といい、宇宙服・・はただの変人としても。


「では訊きたいことは私の部屋で・・」やはり色々と言っていないことがあるのだろう、含むものがるトーンで黒瀬さんはそう言う。僕らは靴を脱ぎ玄関から廊下へ一歩、その時僕の手をまた掴んで「いってらっしゃい」と宇宙服に見送りの言葉を贈ると一番奥の右側、つまり五号室まで僕を連れていった。その時に必然、宇宙服・・黄金沢さんの横を通り過ぎたわけだが・・・


ふふ、黄金沢さんは僕が黒瀬さんと手を繋いでいるところを見た最初の人になったわけだ。目線は全くわからなかったがこちらを向いていたのは確かなのでなんだか優越感に浸ってしまった。わかってはいたが器の小ささを実感する。


そして五号室の前まで来たとき何気なく玄関側を見たがもう黄金沢さんはいなかった。



どこに行ったんだろうか?あの服装はさぞ目立つだろうに。そんなことを思っていると、「どうぞ」と黒瀬さんがドアを開けてくれたので「お邪魔します」と入った。入ってびっくりした。いや、驚愕した。



黒瀬さんの部屋かもっとこう・・・フェミニンな感じだと勝手ながら思ってしまっていたわけだが実際はなんといえばいいのか、相応しい比喩の仕方がわからないので率直に、単刀直入に言わせてもらうと。




時計。


時計だ。


時計だらけだ。


部屋は畳の六畳一間、敷布団、卓袱台、箪笥。それ以外の物は時計だ。置時計が卓袱台や畳の上にも無造作に置かれ壁には掛け時計がびっしりと掛けられている。種類もアナログ・デジタル様々だ。


ただしチクタクチクタクと針の音はない。せめてもの救いだ。これだけの数の時計なのだから針の音はこのボロアパートくらいなら簡単に崩壊させるほど劈く力になるんじゃ?ましてやアラーム音が同時に鳴ったのならブラジルまで容易に届きそうだ。ここにくるまで黒瀬さんの部屋に入れるということで胸躍らせていたのが懐かしい。



「ここにお座りください」と黒瀬さんは卓袱台の周りにある時計を片付けて言ってくれた。一応座ったが何時でも逃げだせるようにクラウチングスタートを頭でイメージしておいた。


いくら黒瀬さんといえど流石に怖い。しかし黒瀬さんは相変わらずのお澄まし顔で僕と卓袱台を挟んだ対角線上に座って「お茶も出したいのですが切らしていまして、申し訳ないのでこの腕時計を差し上げます」と申し訳なさそうに言った。


「いえ、時計には満ち足りてますので」と丁重にお断りしたが「お願いです」と切実さを伝えるためか重い口調で言った。その時の黒瀬さんはとても、とても悲しそうな顔をしているように見えた。そんなに思い詰めることではないだろうに。もう貰うしかない。


「わ、わかりました。ありがとうございます」と言うと黒瀬さんは微笑んで僕の右腕に時計をはめてくれた。アナログ式、ハンドメイドのようでいい意味で粗い作りになったレトロな外見をしていて表記はローマ数字、輸入品なのだろうか洒落ている・・どうやら粗悪品を押し付けた訳ではないようだ。黒瀬さん相手だと勘ぐってしまうな、色々わからないところがあり過ぎる。きっと質問してもうまく禅問答みたいにしてはぐらかすんではないだろうか、とにかく黒瀬さんのことをもっとよく知らなければ・・。


「では質問をさせていただきます」と僕。


「そんなことより十種競技しませんか?」と黒瀬さん。


はぐらかすのはどうやら下手なようだ。というか自分から部屋に誘ったんじゃないか。なんではぐらかすんだ?と思案していたその時、数ある時計の中の一つが鳴り出した。



お読みいただきありがとうごさいます。









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