ようこそ、クロークアパートへ (ファーストコンタクト)
そんなことを思う日々、繰り返す日々、変わらない日々の中で最早自分が生きているのかも死んでいるのかもわからなっくなった。変わらないことは実感がないとゆうことだ。僕の生き方そのもの、逃げることしかしてこなかった報いが人生へ如実に反映されている。
まっぴらだ・・。
もう一度やりなおしたい!
自分の世界を創り直したい!!
不意にそう思った時に僕は劈くような咆哮をあげながら「財布」「携帯電話」「蝦蛄弁当」を持って家を飛び出し自転車に跨り夜陰に紛れて姿を消した。
家も捨て、仕事も捨て、今まで係ったすべてを振り放すようにペダルを漕いだ。そうすればまたやり直せるような気がしていた、いや、そうなると確信していた。縛るもの、過去がなければ未来は開ける。
この想いだけがすべてなんだ!!
・・・我に返った時にはすでに自宅から数キロ離れた国道沿いまできていた。自転車を止めてあたりを見渡す。もう零時はまわっているのは確かだ、時計を見なくてもわかるのは毎日零時ちょうどになると消灯する国道沿いにあるスーパーマーケットが闇に紛れていたからだ。
僕と同じで真っ黒だ。
・・もう帰らないのだから別に気にすることはないのだが後ろをふり返ってみた。流石に自宅は見えなかった。
これからどうしよう・・。不安が心を覆うがそれにも勝る意志が僕にはある、ここで折れるわけにはいかない。ん~どうしよう。
思案中。
そうだ、このまま国道をまっすぐ行くと北三不市がある。大きな町だからネットカフェやカプセルホテルなんかは最低限、確実にあるはずだ。暗がりは不安になってしまう、とりあえず明りにでなければ。
結果、自転車を再び漕ぎだし再び思案。
しかしここからだと北三不までは自転車で三時間ほどかかるはずだ。学生の頃は自転車通学で鍛えていたが就職してからは車だったため足はアメンボほどになってしまっている。すでに足が上がらなくなってきているのがなんとももどかしい。こんなことなら自棄にならずに車で荷造りしてから計画的にでればよかった。
そしてまだまだ暗闇は続く。国道とはいえ三桁なのだ。最初の思案から三十分ほど漕いでいるが外灯なんて見当たらないし真夜中は自動車なんて通らないから一桁の国道に合流するまでは自転車の儚く光るライトだけが頼りだ。一桁まであと一時間半、そこから北三不まで一時間・・・てところだろうな。はぁ、先なんてほとんど見えない。すると必然怖くなる、先の見えない道に、世界に、怖くなった。そして不覚にも不安に覆われた心が意志をも覆い尽くし、自転車を止めて、思ってしまった。
「自由になって世界を創り直す」これを言い訳にして・・・逃げたんじゃないかと。
世界からまた・・孤独から孤独へ。
逃げたんじゃないかと。
「はぁ・・」
結局なにも変わらないんだと思うと自然に俯き、溜息が出る。それと一緒に心がでてきて、夜が闇に心を引きずりこむような、引っ張りだされるような、そんな痛みを覚えた時・・。
「おはようございます」
「!?」
あまりの驚きに心臓を吐き出しそうになった。前方から挨拶が聞こえたのだ。俯いていた頭をあげるが今は闇が憚る夜、見えるのは儚く光る自転車のライトが照らし出せる範囲のみなのでせいぜい三メートル・・・はっきり見える範囲はもっと狭い。・・体が震えているのに気が付いた。当たり前だ、こんな真っ暗闇の真夜中にこんな光の陰りも呑む闇路で人に出くわすわけがない。現代社会に生まれ浸かってもう二十年になろうとする自分でも魑魅魍魎を疑ったが、そんな疑いや不安を薙ぎ払ってくれるように、挨拶の主は大地を踏みしめるが如く堂々と一歩一歩僕の方に近づいてきてくるのが足音でわかった。自転車のライト三メートル圏内を突破し、さらに前進。儚く光る自転車のライトを全身に浴びて闇夜をまったく寄せ付けず、僕に姿をさらしてくれた。
綺麗な長い黒髪、まっすぐな瞳、理知的な眉、青色のジャージを着ていて身長は僕より少し低いくらいの女性、楊貴妃並みの美女だ。緊張でまた震えてしまう我ながら恥ずかしい。しかし挨拶は返したい。
「あ、あ・・」
クソ、緊張でカオナシみたいな声しかでない。そして僕が挨拶を返す前に彼女からまた声をかけてくれた。
「朝早いんですね。関心します。私も早い方だと思ってましたけど上には上がいるってことですね」
「朝じゃないですよまだ!百歩譲って今日が夏至だとしても朝じゃないですよ!」
一瞬で緊張から解放された。初対面の人に開口一番突っ込んでしまったじゃないか・・いやカオナシ声もあったから二番か。彼女は笑みを浮かべているようにも見えるがお澄まし顔にも見える。
これが彼女とのファーストコンタクトだった。
第一章「ようこそ、クロークアパートへ」が終わるまではおぼろげに構想があるので早く書けると思います。あくまでおぼろげです念のため。