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昨日に続いて、ローガンの資料を漁っているところで、ダニー警部が会議室にやってきた。
「また死体が上がった」
レナが顔を上げる。
「ローガンにやられたの?」
「いいや」
ダニー警部は首を振って、
「二人分の死体が見つかったんだが、どちらも殺人鬼にやられたんじゃない。ひとつはすでに白骨化していた。しっかり調べないと名前も性別もわからない。もう一方の死体は、その側で眠るように転がっていた」
「不審死体ってこと?」
「わからない。いま、医者の先生の意見を待ってるところさ」
ダニー警部は疲れた様子で、レナの対面に腰かけた。
「こうも続けて事件が起こると、さすがに参るよ。ノイローゼになりそうだ」
「一日くらい休めばいいのに」
「そうしたいのは山々だけど、そんな暇もない。……考えることが多いと、寝ようにも寝られなくてね」
そうは言っても、体調を崩したら元も子もないような気がする。
ダニー警部は、ここ最近の事件や死体情報をつらつらと話しつづけた。最初は、俺たちに情報を提供してくれている、と思ったのだが、そういうわけではないらしい。話題は徐々に警官の本分だとか街の治安だとか、警察内部や政治家への愚痴が多くなっていった。
「普段は愚痴も言わないのですけどね」
と、パトリシアが俺に耳打ちした。
「眠気もあるでしょうし、疲れも溜まっているはずです。ダニー警部のご家族は仲睦まじいですし、警部自身とても優しい方です。日々の辛さを家族に打ち明けるのも、難しいのでしょう」
先の死体の情報が出たらしく、ダニー警部は若い警官に連れられて、会議室を出ていった。
俺たちは資料漁りを再開する。
そのうち、俺は古い雑誌記事に行きついた。
タブロイド紙 [NOW]
目撃者、求む。連続殺人鬼の真相に迫る?
『読者諸君は、ワルツン・シティを騒がせた連続殺人鬼L・Lをご存じだろうか。彼は家族のみならず、友人知人、果ては無関係の他者にも手を出し、のべ五十余名の死者を出した。これが戦争なら、彼は英雄としてまつられていたかもしれない。しかし、殺人鬼には英雄としての素質はなかったらしい。彼はワルツン・シティ警察から指名手配され、瑛国中で追跡されていたが、数年前に姿をくらませた。それ以降、表舞台だけでなく、市民や警察の意識からも逃れてしまった。
しかし、我らが有能な雑誌記者が、独自の情報網を使い、件の殺人鬼の足跡を見つけ出した。情報網によると、殺人鬼は新たな被害者を出し、なんとその死体を運んでいるとのことだ。最後の目撃者は、彼が死体を肩に担ぎ、グラニッジの客船に乗りこむところまで見たとのこと。だが、客船の乗務員にたずねても、死体らしきものを担ぎこんだ客はいないの一点張りだった。
もしや、かの連続殺人鬼は、本能のみの思念体となり、いまなお殺しを続けているのだろうか。
読者諸君、我々はかの殺人鬼L・Lの特集を予定している。
ひとつでも多く、彼に関する情報が寄せられることを期待している。
投稿者 T・Y』
「三流雑誌らしい記事ですね。まったく要領を得ません」
と、パトリシアがため息まじりに言う。
俺もまったく同じ意見だ。
ローガンの被害者はかなり盛られて書かれている。何より、雑誌記者の所在も、独自の情報網とやらも、抽象的なものが多かった。まあ、個人的には興味をそそられる内容ではあったけれど、どうしても「だから何だ」という思いが拭いきれない。
レナはレナで、手元の記事を読みふけっている。
ダニー警部が戻ってきた。
「さっき話してた死体、骨の方は何もわからなかったよ」
「もうひとつの死体はどうでしたか?」とパトリシア。
「睡眠薬の自殺だった。死後一週間は経過しているらしい」
ダニー警部は、再びレナの対面に腰かけた。それからなにを言うでもなく、腕を組んで、小難しそうに眉をひそめた。
どうしたのだろうと思っていると、警部は口を開いた。
「三人の捜査を邪魔したくはないんだけど、大切な情報だから、伝えておくよ」
俺たちは記事から顔を上げて、ダニー警部の言葉を待った。
警部はひとつ息をついて、
「その警察医が、以前ワルツン・シティ警察に在籍していたことがあってね。ローガン・レクターのことは、かなり詳しく知っているらしい。世間に流れるあらぬ噂より、よほど信用できる」
そして、こう続けた。
「ローガン・レクターはすでに死んでいる。いまは家族と一緒に、土の中さ」




